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今月の音遊人:馬場智章さん 「どういう状況でも常に『音遊人』でありたいと思っています」
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ポール・ギルバート『ザ・ディオ・アルバム』/ギターで奏でる“ディオ=神”への敬意と愛情、そして畏怖
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2023.3.14
tagged: 音楽ライターの眼, ポール・ギルバート, ザ・ディオ・アルバム
ポール・ギルバートのニュー・アルバム『ザ・ディオ・アルバム』が2023年4月、全世界同時発売となる。
1985年にレーサーXでプロ・デビュー、Mr. BIGの一員として1991年に発表したシングル『トゥ・ビー・ウィズ・ユー』が全米チャート1位を記録。さらに世界最高峰のテクニカル・ロック・ギタリストの1人として崇拝されるポールは40年近く第一線で活躍、近年ではソロ・アーティストとして絶大な支持を得てきた。
2023年、Mr. BIGの復活と日本を含むツアーが発表されるなど、常に世界のロック・ファンをヒートアップさせる話題を提供し続ける彼だが、『ザ・ディオ・アルバム』はその中でも最大級のインパクトを伴う一撃だろう。
このアルバムはロニー・ジェイムズ・ディオ(1942-2010)が歌ったハード・ロック・クラシックスの数々にポールが新しい生命を吹き込むものだ。
ロニーはニューヨーク出身のバンド、エルフで活動しているところをディープ・パープルのリッチー・ブラックモアに見出され、1975年にレインボーのシンガーとしてハード・ロックの世界に本格参入。1979年にはブラック・サバスに加入してバンドに新しい世界観をもたらしている。1983年には自ら率いるディオを結成、3度目の絶頂期を迎えている。その伸びやかなシャウトは無数のフォロワーを生みながら、決して追従を許さなかった。また、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルにおける異世界の王侯貴族や魔法使い、天使や悪魔などのファンタジックなヴィジョンを確立させたのもロニーだといわれる。さらに彼は1985年にエチオピア飢餓救済のためのチャリティ・プロジェクト“ヒア’n エイド”を始動させ、オールスター・シングル『スターズ』の収益を寄付するなど、メタル界の“顔役”としても知られた。2010年に彼は癌で亡くなったが、その音楽は聴き継がれ、彼の姿を3Dホログラムで再現したヴァーチャル・ライヴが行われたり、2022年にはドキュメンタリー映画『DIO: Dreamers Never Die』が海外で公開されるなど、“ディオ=神”の名に相応しく神格化されている(彼の出生名はロナルド・パダヴォナだが、誰もが彼をロニー・ジェイムズ・ディオとして知っており、彼が眠る墓石にもそう刻まれている)。
ポールは十代の頃からロニーの音楽のファンであり、「聴くたびにゾクゾクして鳥肌が立った」と語っている。ソロ・キャリアでは自らヴォーカルを取ることも多い彼だが、さすがにロニーの声域を歌いこなすのは難しい。そこで彼が取った手法が“ヴォーカル・ソングをインストゥルメンタルとしてプレイする”というものだった。『幸福なるシジフォス〜ストーン・プッシング・アップヒル・マン』(2014)、『ビホールド・エレクトリック・ギター』(2019)、『ウェアウルヴズ・オブ・ポートランド』『トゥワズ』(2021)など近作で彼はヴォーカル・メロディを書き、時に歌詞までを書きながら、それをギター・インストゥルメンタルに生まれ変わらせていたのだ。ポールは筆者(山崎)とのインタビューで「高音域のシャウトは出来なくても、ギターだったら同じ音域を出せる。新しい声帯を持っているようなものだよ」と説明していたが、同様の方法論でロニーのヴォーカルのメロディと歌い回し、歌詞に込めたエモーションまでをギターに“翻訳”している。
また、『ザ・ディオ・アルバム』はロニーが参加してきたバンドの音楽へのギター・サイドからのトリビュートでもある。レインボーのリッチー・ブラックモア、ブラック・サバスのトニー・アイオミ、ディオのヴィヴィアン・キャンベルという3人の凄腕ギタリストのプレイをポール流に解釈したのが本作なのだ。レインボーの『銀嶺の覇者』『ロング・リヴ・ロックンロール』、サバスの『ネオンの騎士』『ヘヴン・アンド・ヘル』、ディオの『スタンド・アップ・アンド・シャウト』『ホーリー・ダイヴァー』など、オリジナルを尊重しながら自らのギター・スタイルをふんだんに盛り込んでおり、超高速ソロも随所で聴くことが可能だ。
また、ベースもポールが自ら弾いており、レインボーのクレイグ・グルーバー、サバスのギーザー・バトラー、レインボー/ディオのジミー・ベインへのリスペクトを込めた丁寧なプレイが魅力的だ。
もちろん安直に有名曲の表面をなぞるのではなく、オリジナルへの深い敬意と愛情、そして畏怖が感じられる。『キル・ザ・キング』がスタジオ・ヴァージョンでなくライヴ・ヴァージョンを下敷きにしているのは納得だし、日本盤CDボーナス・トラックがロジャー・グローヴァー企画のコンセプト・アルバム&アニメ映画『バタフライ・ボール』から『ラヴ・イズ・オール』というのもファン心をくすぐる。
ポール・ギルバートという優れたミュージシャンが偉大なる先達の音楽に正面から真摯に向き合い、独自の表現手法で昇華させたのが『ザ・ディオ・アルバム』だ。Mr. BIGの復活ライヴはもちろん楽しみすぎるが、その後にでもポールの“ザ・ディオ・ツアー”を実現させ、アルバム収録ナンバーはもちろん、収録されなかった『スターゲイザー』『悪魔の掟』『ウィ・ロック』などの名曲もライヴで披露して欲しい!
発売元:ソニーミュージック
発売日:2023年4月7日
価格:2,640円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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