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今月の音遊人:出口大地さん「命を懸けて全力で取り組んだ先でこそ、純粋に音楽を楽しむ心を忘れてはいけない」
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歌うように演奏したい。アンビバレントな自分を表現したニューアルバム『Ambivalent』/ユッコ・ミラーインタビュー
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2023.11.24
ピンクヘアーがトレードマークの実力派サクソフォンプレーヤー、ユッコ・ミラー。YouTuberとしても唯一無二の存在感を示し、チャンネル登録数は21万人にのぼる。
国内外で人気を誇る彼女が、6作目となるアルバム『Ambivalent』をリリース。今の思いを作品に詰め込んだ。
最新アルバム『Ambivalent』には、タイトル通りアンビバレントな(相反する)な楽曲が収録されている。それは、自分そのものなのだとユッコ・ミラーはいう。
「これまでのアルバムはコンセプトを決めてつくっていたのですが、今回は自分を出したらこうなったという感じ。私自身がアンビバレントなんです」
収録曲は、オリジナルとカバー曲が半々。聴き応えたっぷりのオリジナル曲は情熱、哀愁、温かさなどそれぞれに異なる持ち味で聴き手の心に訴えかける。
「してはいけないことをしてしまう人間の背徳感やスリルを描きたかった」という一曲目の『Stormy Night』は情熱的でクール!かと思えば、テレビ番組のお天気コーナーでも放送されている『Morning Breeze』は、心地よい爽やかさに満ちている。『事実は小説より奇なり』にも、彼女の心情が宿っていた。
「先日訪れたマカオに世界一高いバンジージャンプがあって、そこと同じ場所にあるスカイウォークを歩いたのですが、眼下の景色はまるで地図のようでした。命綱をしていても震えましたね。私はつくられたテーマパークより、そんな現実のスリルが好き。事実の方が絶対に面白いと思ってつくった曲です」
アルバムの最後を飾る『Hachi』は、名もないころからユッコ・ミラーをステージに立たせてくれた老舗ライブハウスの看板犬に捧げる曲。心が温かくなる一曲だ。
本作では引き続き、歌唱にも挑戦した。デビュー当時から、歌うようにサクソフォンを演奏したいと考えていたユッコ・ミラー。2021年発売の『Colorful Drops』では実際に歌い、2022年の前作『City Cruisin’』にもボーカル曲を収録した。歌唱は3作目となるが、その歌声には独特の透明感があり、耳と心に心地よく響く。
「サックスとは趣を変えて、“風”のように歌っています」
ユッコは以前、ボイストレーニングの先生にこんな指摘をされたそうだ。
「あなたの発声の仕方は、ふだんから裏声。だから、歌ったときにも息が混じったような裏声になってしまう。正しい発声にするには、ふだんからもっと低く太い声を出すように。そして歌うときも、同じようにする必要がある」
しかし、自分が目指すのはそういう歌ではないと思い、ボイストレーニングは止めてしまったそうだ。
歌唱曲のひとつ『Melted Cheese』は英語で作詞し、英会話の先生に添削してもらってできた曲だそう。日本語の『やさしいかぜ』は失恋の歌にも思えるが、かつて「ポンコ・ミラー」としてともにツアーを回った大御所ドラマー、村上“ポンタ”秀一が亡くなったときに書いたものだ。
「作詞作曲は、これからもどんどんやっていきたいです。歌詞がある歌でしか表現できないものもありますし、自分の歌はサックスとはまた違ったキャラクターなのでそちらで表現できるものもあると思っています」
一方、カバー曲は『トウキョウ・シャンディ・ランデヴ(MAISONdes)』、『可愛くてごめん(HoneyWorks)』、『アイドル(yoasobi)』などYouTubeチャンネルでも人気の5曲を収録。そこには、身近なヒット曲を入り口にジャズに親しんでほしいという思いが滲む。
「どの曲も最近流行ったものです。若い人になじみのある曲が入っていればこのアルバムが目に留まり、ほかのオリジナルやジャズの曲も聴いてもらえるかなと思って」
今回のレコーディングには、愛用しているヤマハのサクソフォンYAS-62初期型モデルが使われた。高校時代、絶対にプロになるからと母親に買ってもらったものだ。
「当時からこれが世界一の楽器だと思って吹いていました。高校を卒業した後は、ヴィンテージや高いものを使ったこともあるのですが、一周回ってこの楽器に戻り、今はこれ一本です。自分がやりたいことをしっかり表現し、応えてくれるサックスですね。ピッチも安定しているので、どんなふうに吹いてもしっかり支えてくれる安心感があります。私は中古で購入したのですが、その前はプロかセミプロの方が使っていたようです。そもそも育てられていた楽器ですが、私が高校3年間でさらに育て、そこからまた育っている感じでどんどんなじんできています」
ユッコ・ミラーといえば、“武勇伝”に事欠かないことでも知られる。
高校の吹奏楽部でサクソフォンと出会い、一音吹いた瞬間「これでプロになる!」と思ったという彼女。高校生のとき、グレン・ミラー・オーケストラのライブ終演後に会場の外で待ち伏せをしてメンバーの前で演奏し、スペシャルゲストとして出演を果たしたり、はたまたプロになってからも、世界的なサクソフォン奏者、キャンディ・ダルファーの公演終了後のサイン会に行き、翌日の本番に出演することになったり。驚くべき行動力がもたらした貴重な経験を積んできた。
「同じところにとどまっていられないんです。だから常に新しいこと、やったことがないことをしたいし、行ったことがないところに行きたい。それと、自分が思ったことをすぐに行動することが大事ですね。大事にしているというか、そうじゃないと生きられない感じです」
そんな彼女が今、挑戦してみたいこととは?
「自分の音楽には自分が経験したことしか出ないので、海外のいろいろな国を訪れて景色を見て経験をし、それを吸収して音楽に活かしたいです。2024年1月にライブで北海道に行くのですが、おそらく一面が雪で真っ白ですよね。初めての経験なので楽しみです」
新譜『Ambivalent』のリリースライブで、2023年11月から翌年1月にかけて、全国各地を訪れる。
「アルバムの曲を中心に、命がけでやります。ライブ仕様のアレンジにするので、ぜひ楽しんでいただければと思います」
発売元:キングレコード
発売日:2023年11月1日
料金(税込):3,300円
詳細はこちら
文/ 福田素子
photo/ 阿部雄介
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tagged: サクソフォン, ユッコ・ミラー, YAS-62
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