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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#066 ピアノレスのトリオでインプロヴィゼーションの海に漕ぎ出でた記念作~ソニー・ロリンズ『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』編

『サキソフォン・コロッサス』(#002)と双璧をなす、ジャズ・テナー・サックスの“巨人”、ソニー・ロリンズの代表作です。

ただ、“双璧をなす”というわりには、“サキコロ”と略されてジャズ・リスナーたちからの支持の高さをアピールできている『サキソフォン・コロッサス』に比べて本作は、出遅れ感というか、マニアウケに甘んじているような気配が否めないのですね……。

そこで今回は、“最高傑作”という評価もあるほどの“名盤”の“真の実力”を再検証してみたいと思います。


Old Devil Moon (Live At The Village Vanguard/1957 – Evening Take)

アルバム概要

1957年に米ニューヨークのライヴハウス“ヴィレッジ・ヴァンガード”でライヴ・レコーディングされた作品です。

オリジナルはA面3曲B面3曲合計6曲のLP盤で、1957年にリリース(レコーディングから約1か月後!)されています。1975年には、発見された未収録音源を加えた2枚組LP盤(A面2曲B面2曲、C面3曲D面3曲の合計10曲)を『モア・フロム・ザ・ヴァンガード』の題名でリリース。CD化の際には、『チュニジアの夜』の昼の部ヴァージョン(LP盤に収録されていたのは夜の部ヴァージョン)を加えた7曲入りでリリースしたほか、レコーディング当日の昼/夜の部に演奏された16曲をVolume1とVolume2の2枚に分けたヴァージョンや、演奏順に並べて2枚組にまとめた『コンプリート・ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』があり、2枚がバラ売りされているヴァージョンもあります。

メンバーは、テナー・サックスがソニー・ロリンズ、昼の部のベースがドナルド・ベイリー、ドラムスがピート・ラロカ、夜の部のベースがウィルバー・ウェア、ドラムスがエルヴィン・ジョーンズ。昼/夜の部ともにピアノレスのトリオ編成です。

収録曲は、LP盤6曲ではソニー・ロリンズのオリジナルが2曲、ディジー・ガレスピーとフランク・パパレリが共作したハード・バップの代表曲『チュニジアの夜』、ジャズ・スタンダード・ナンバーが3曲。CD盤コンプリートでは、ソニー・ロリンズのオリジナルは変わらず2曲、『チュニジアの夜』の昼/夜ヴァージョン、ディジー・ガレスピーの『ウッディン・ユー』、マイルス・デイヴィスの『フォア』、ほかはジャズ・スタンダード・ナンバーが昼/夜の部の同曲別ヴァージョンありで10曲の、全16曲となっています。

“名盤”の理由

1930年生まれのソニー・ロリンズがジャズ・シーンで注目されるようになったのは1950年代初頭。つまり、彼が20歳になったころのことでした。

4歳年上ですでにジャズ・シーンの最前線で活躍していたマイルス・デイヴィスに認められ、そのバンドの一員に取り立てられたものの、麻薬に絡んだ犯罪で刑務所送りに。10か月後に釈放されると、リーダー・アルバムを制作したり、モダン・ジャズ・クァルテットと共演したりとキャリアを重ねていきます。

麻薬癖を断つため1954年に治療プログラムを受けたあと、西海岸で活動を再開したソニー・ロリンズは、クリフォード・ブラウンとマックス・ローチの双頭バンドに参加、リーダー・バンドも立ち上げるなどジャズ・シーンの最前線へ復帰しました。そのタイミングで世に送り出したのが『サキソフォン・コロッサス』(#002)でした。

ハード・バッパーとしても吹き負けないテクニックをもちながら、両親の出自に由来するカリビアンミュージックのエッセンスをたっぷり含んだ音楽観を反映したオリジナリティを発揮するこの“新星”に対し、ジャズ・シーンの期待が大きく高まっていたところに現われたのが、フロントのサックスの比重が増すピアノレスという編成の、録り直しのきかないライヴ録音スタイルでの本作だったのです。

こうした期待値の高さを見事にクリアしたパフォーマンスによって、本作は“名盤”になったのだと思います。

いま聴くべきポイント

本作で採用されたピアノレスのサックス・トリオは、①コード楽器を排することでより自由な旋律を演奏できるようにする、②ハード・バップで恒例化していたソロ廻しがないことでソニー・ロリンズのソロを堪能できる、③彼がインプロヴィゼーションによって創造しようとするナラティヴを途切れさせない──という効果を生んでいると考察できます。

ジャズで重視される“即興性(アドリブとインプロヴィゼーションを含む)”とは、曲=譜面の否定や無視ではなく、そのときその場所での演奏者の感性を曲の感性と融合させ、リスナーにも共感できるようにする“方法論”のことではないかと思うのです。

ソニー・ロリンズは、昼と夜とでメンバーを交代し、その違いを演奏者によるヴァリエーションにとどめず、インプロヴィゼーションへ取り込むことで新たなナラティヴが生むことができるのを実証しようとした──というのが、本作の“真の実力”なのではないでしょうか。

そう考えると、“サキコロ”より一般ウケしなかったのも理解できるような気がするんですが……。

「ジャズの“名盤”ってナンだ?」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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