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【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#048 モダン・ジャズの象徴的なスタイルを継承するための確信犯的序章~キース・ジャレット・トリオ『スタンダーズVol.1/Vol.2』編
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2024.11.12
tagged: 音楽ライターの眼, ジャズの“名盤”ってナンだ?, キース・ジャレット・トリオ
1983年から30年間にわたって活動を続け、世紀を象徴する芸術表現の域にまで達したモダン・ジャズのスピリッツを21世紀につないだと言っても過言ではないユニットの、記念すべきデビュー・アルバムです。
Vol.1とVol.2の2枚を掲げるのは、Vol.2も収録日が同じにもかかわらず、“続編”というかVol.1の“没テイク”を詰め込んだオマケ的内容ではなく、それぞれ独立したクオリティを備え、“名盤”と呼ぶにふさわしいから。
さて、キース・ジャレット・トリオはどんなことを“21世紀につないだ”のか──を探り出せたら、と思っています。
1983年1月に米ニューヨークのレコーディング・スタジオ“パワー・ステーション”で収録されたスタジオ録音盤です。
オリジナルはLPとCDでリリースされ、Vol.1のアナログ盤はA面3曲B面2曲の合計5曲、CDは同曲数同曲順で、アナログ盤と同じ構成のカセットテープも発売されていました。Vol.2のアナログ盤はA面3曲B面3曲の合計6曲、CDは同曲数同曲順で、こちらもアナログ盤と同じ構成のカセットテープの発売ありです。
メンバーは、ピアノがキース・ジャレット、ベースがゲイリー・ピーコック、ドラムスがジャック・ディジョネットの、いわゆる“アコースティックなピアノ・トリオ”。
収録曲はすべてジャズ・スタンダードと呼ばれるカヴァー曲です(Vol.2の1曲目『ソー・テンダー』のみキース・ジャレットのオリジナル)。
この“名盤”を取り上げるときに考えなければならないのは、1983年がアコースティックなジャズにとって2つの大きな逆風が吹いていた時期だったということです。
1つは、フュージョンの隆盛によってエレクトリックなサウンドがアコースティックを凌駕しているという認識が広まっていたこと。要するに、未来的なイメージのあるフュージョンのほうがススんでいて、アコースティックにこだわっているジャズは“時代遅れ”だという表面的な解釈が、ジャズの活動をシュリンクさせる原因として無視できないようになっていました。
もう1つは、モダン・ジャズを象徴する偉大なピアノ・トリオを率いて活動していたビル・エヴァンスが1980年に逝去し、その喪失感によってアコースティックなジャズが求心力を失いかけていたタイミングだったということ。
そこへ救世主のように現われたのが、アコースティックなピアノ・トリオとして、その名のとおりジャズのスタンダード=名曲を取り上げ、ノスタルジーではなく現代性を備えたアプローチを打ち出してきた、このキース・ジャレット・トリオだったのです。
『スタンダーズ』のアルバムを発売時にリアルタイムで聴いたとき、ボクは正直言って、「聴きづらい(=聴き慣れない)ピアノ・トリオだなぁ」と感じたことを思い出します。
それはおそらく、従来の、つまりバド・パウエルやオスカー・ピーターソン、そしてなによりもビル・エヴァンスといった、モダン・ジャズを創造してきたピアノ・トリオの数々とは異なるアプローチでサウンドを構築しようとしているキース・ジャレット・トリオの“意図”をつかめないままに、シーンにぽっかりと空いた穴を埋めてくれる彼らをただ無自覚に受け入れるだけだったから「聴きづらかった」のではないかと思うのです。
40年の時を経てこのアルバムを聴き直してみると、キース・ジャレット・トリオはビル・エヴァンス・トリオの抜けた穴に収まっただけではなかったことに、ようやく気付けました。
そこには、キース・ジャレットが敬愛するジャズ・ミュージシャンへのラヴコールが込められていて、それがあったからこそ、彼は30年という月日をとおして最前線のトリオ・ジャズを生み出し続けることができたのではないか──という考察に至ることができました。
その考察については次回、本作の続編とも言えるキース・ジャレット・トリオのライヴ盤『星影のステラ』を取り上げることで、続けたいと思います。
富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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文/ 富澤えいち
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