Web音遊人(みゅーじん)

壷阪健登

今月の音遊人:壷阪健登さん「よい音や素敵な音楽に触れた時に、自分の細胞が活力を持ち始めます」

ボストンでの活動を経て、2020年に日本での活動を開始。2024年5月にアルバム『When I Sing』を発表し、東京フィルハーモニー交響楽団とともにガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏するなど、多方面に活躍するピアニストの壷阪健登さんに音楽との関わりについてうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

すぐに思い浮かぶのは、ビリー・プレストンの『ユー・アー・ソー・ビューティフル』です。初めて聴いたのは、たぶん中学生の頃。音楽雑誌の紹介記事を読んだのがきっかけでした。それ以来、今でも折に触れて聴いています。この曲はシンプルなラヴソング。曲の作りも歌詞もものすごくシンプルにできています。だけどその分、真っすぐに心に訴えかけてくる力があります。ほかにも、『アイム・リアリー・ゴナ・ミス・ユー』や『アイム・ネヴァー・ゴナ・セイ・グッドバイ』などのバラードも大好きですし、『ナッシング・フロム・ナッシング』や『ゴー・ラウンド・イン・サークル』のようなポップでファンキーな曲もよく聴きました。プレストンの音楽って、歌だけでなくピアノもオルガンも優しさと温かさにあふれていて、それが大きなエネルギーとなって心に沁み込んできます。僕は彼のメイン楽器であるオルガンを弾くことはありませんが、同じ鍵盤楽器の奏者としてもかなり影響を受けています。

Q2.壷阪さんにとって「音」や「音楽」とは?

大きな喜びをもたらしてくれるものです。よい音や素敵な音楽に触れた時に、自分の細胞がスーッと活力を持ち始めて、生き生きとしてくるような感覚があります。またそれと同時に、インスピレーションをあたえてくれるものでもあります。特にこの1~2年は、ソロ・ピアノ・アルバム『When I Sing』のレコーディングをしたり、ホールでソロ演奏をしたりする機会も増えたんですが、自分が発した音がピアノやホールから豊かな響きとして返ってくると、それによって自分が触発され、それまで自分でも思っていなかったようなものが引き出されることがあります。音楽を形作る音色や響き自体に大きなエネルギーのようなものがあって、それによってさらに音楽が広がっていくことをたびたび実感しています。

壷阪健登

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

思い浮かぶことはふたつあります。ひとつは一般的なものですが、即興演奏をする人です。僕たちのようなジャズミュージシャンって、演奏中に次々に岐路や境界線に立たされるんです。それは、「ここから先は行ったことがない。どうしよう?だけど行ってみたらおもしろそうだ」というふうに気持ちが沸き立つこともあるし、共演しているメンバーの演奏を聴きながら、「えっ、そっちに行くの?よしっ、行っちゃえ!」みたいになることもあります。もちろんそういうアプローチは必ずしもうまくいくとは限りません。新しい景色が開かれるような演奏になることもあれば、大失敗に終わってしまう可能性もあります。でもその瞬間の「やってみたい!」というワクワク感に導かれて進んで行くんです。怖いけど楽しそうだ。そういう冒険心は子どもの頃の遊びに近いような感じがしています。
そしてもうひとつは、エルメート・パスコアールです。彼の音楽って、ヤカンを楽器にして吹いたり、川でブクブクという音を出してみたり、本当に自由。おもちゃ箱をひっくり返したような音楽なんですけど、ものすごく喜びがあふれていて、心から音で遊んでいるようにみえるんです。

Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?

自分の好きな音楽を各地で演奏したり、レコーディングしたりすることによっていろいろな方たちと繋がっていく。こんなに幸せなことはありません。それはずっと以前から感じていましたが、ここ数年間のコロナ禍によってその思いがいっそう強くなりました。2020年3月僕はボストンで活動中。ミゲル・ゼノンとニューヨークのバードランドで共演した帰りの電車の中で、ニューヨークがロックダウンしたことを知りました。それ以来、街から音楽が消え、演奏することができなくなってしまいました。日本に戻っても、しばらくは同様の状態でしたし、「再び人前で演奏できる日がやって来るのだろうか?」と先がみえず不安な気持ちで過ごしていました。その当時のことを思い返すと、音楽ができるありがたさを、さらに強く感じるようになりました。たいへんありがたいことだと思います。

壷阪健登〔つぼさか・けんと〕
ピアニスト・作曲家。神奈川県横浜市出身。ジャズピアノを板橋文夫氏、大西順子氏、作曲をVadim Neselovskyi氏、Terence Blanchard氏に師事。慶應義塾大学を卒業後に渡米。2019年にバークリー音楽院を首席で卒業。2022年から石川紅奈とユニット「soraya」を結成、全楽曲の作曲、サウンドプロデュースを手掛ける。2023年7月にはソロピアノでサン・セバスティアン国際ジャズフェスティバル(スペイン)に出演。11月には銀座ヤマハホールにてピアノ・リサイタルを催行する。2024年5月にデビューアルバム『When I Sing』をリリース。2022年より世界的ジャズピアニスト小曽根真が主宰する若手アーティスト育成プロジェクト、From Ozone till Dawnに参加。小曽根真とも共演を重ね、ジャンルを超えた多彩な才能で、次世代を担う逸材と注目を集めている。
オフィシャルサイト

オフィシャルX(旧Twitter) オフィシャルInstagram

photo/ 宮地たか子

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

11058views

Yamaha Acoustic Mind 2022

音楽ライターの眼

三人三様の弾き語りが伝えるアコースティックギターの奥深さ/Yamaha Acoustic Mind 2022 ~PREMIUM~

2030views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

9569views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

39479views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11947views

松石陽介さん

オトノ仕事人

「音楽の輪・人の和」を大切にして、子どもたちを健やかに育てる/地域バンドをまとめる仕事

453views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14846views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6357views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10493views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8231views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4787views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31257views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

13095views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12215views

音楽ライターの眼

摂氏40度をはるかに超える、“個性の競演”の熱量/イエルーン・ベルワルツ トランペット・リサイタル -竹沢絵里子(ピアノ)とともに-

2011views

誰でも自由に叩けて、皆と一緒に楽しめるのがドラムサークルの良さ/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

オトノ仕事人

リズムに乗せ人々を笑顔に導く/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

7177views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7096views

トランスアコースティックピアノ™

楽器探訪 Anothertake

音量の問題を解決し、ピアノの楽しみを広げる「トランスアコースティックピアノ」

4496views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

3264views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

8896views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

989views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11141views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26295views