Web音遊人(みゅーじん)

Yamaha Acoustic Mind 2022

三人三様の弾き語りが伝えるアコースティックギターの奥深さ/Yamaha Acoustic Mind 2022 ~PREMIUM~

ヤマハアコースティックギターの祭典「Yamaha Acoustic Mind 2022 ~PREMIUM~」が、2022年10月1日~24日、名古屋、大阪、東京で開催された。東京では、23日に追加公演も行われ、銀座のヤマハホールは大いに盛り上がった。

2014年に始まったこのイベントは、元キマグレンのISEKIが総合プロデューサー&ホスト進行を務め、多彩なアーティストとヤマハのギターを演奏しながら、その魅力を伝え、毎年好評を博している。追加公演の出演者は、ISEKI、大石昌良、miwaの3人。

トップバッターはISEKI。コロナ禍にあってもこのイベントが途切れずに9年目を迎えられて、感慨もひとしおの様子。「楽しんでいきましょうね」と、元気に開会する。

1曲目は『ガンバレロボ』。気負わず、自然体で、くじけそうな心に「頑張れ」を届ける歌唱だ。切れのいいストロークが心地よさをかきたてる。

『相アイ傘』『紺碧の海と真っ青な空の下で』に続いて、コロナ禍の初期に作った『Reflection』を弾き語った。自室の窓越しに「変わりゆく季節を眺めながら、不安な世の中だけれど頑張って生きていこうと思った」という静かな意志を込めた曲だ。この日、ISEKIはナイロン弦のNTX5を選んでいた。温もりのある音色で歌の情感が増し、心の芯にジーンと迫るものを感じた。

そこにゲストの大石昌良がにこやかに登場。このイベントの常連でトークもうまい。「miwaちゃんが決まったときのISEKIくんの喜びよう!」と、のっけからISEKIに突っ込む。『太陽と曇り空』を2人のハモリを交えて演奏し終わる頃には、場内に元気な空気が漂っていた。

ISEKIが退場し、大石が1曲目の『ピエロ』から、歌とギターとトークを盛り込んだ「ギター・エンタテインメントショー」を展開する。好きな人の笑顔を見られるなら「On trumpet 俺」「On scat 俺」と、何にでもなりきるピエロを演じながら、歌い、喋る。

しかも「スラム奏法」を駆使した超絶技巧だ。例えば、ギターのボディを軽く叩いたり、親指で弦を打つように弾いたり、両手の指を駆使して弦をタッピングしたりして、ギター一本でドラム・ベース・旋律などを、パーカッシブに演奏する。聴き手の心が高揚するだけでなく、目を釘付けにする。

大石のすごさは、「どうだ!」と技を見せつけるのではなく、歌やトークとのバランスを取りながら、軽妙にやって見せるところにある。『パラレルワールド』『ボーダーライン』『君じゃなきゃダメみたい』のいずれも、技を「エンタテインメント」として楽しませてくれる。「弾き語りで日本一を目指している」と話していたが、従来の「弾き語り」の概念を超越した「ショーアップした独自の世界」を創れる希少なアーティストだ。ちなみにギターは、ボディがやや小ぶりでフィンガー奏法向けのLS36ARE。

ソロの最後は、ナイロン弦のギターに持ち替え、クラシカルサウンドで『ただいま』を披露。そこへmiwaが登場したが「この後、私でいいのかと楽屋で震えていました」と重圧を吐露。大石がフォローし、ふたりで和やかに『ようこそジャパリパークへ』を歌って、場内のムードを変え、大石が退場。

デビュー13年のmiwaは、ヒット曲を立位でパワフルに弾き語っていく。ギターはフルボディーで鳴りのいいLL36ARE。曲毎にチューニングしたものと取り替えながら進行。

1曲目は、高校生のときに書いた『don’t cry anymore』。伸びやかなハイトーンボイスがホールの空気を一瞬でmiwa色に変える。次いでデビュー前に書いた『441』はファルセットが美しい。『君に出会えたから』では、客席のファンが手振りで盛り上げ、場内はmiwaワールドに。ここで新曲『君が好きです』を披露。ABEMAの人気恋愛番組「私たち結婚しました 3」の主題歌だ。

最後に大ヒット曲『ヒカリへ』を熱唱して大役を終えると、ISEKIが登場し、デュオで『結-ゆい-』を歌って、2時間にわたるイベントを締めくくった。

しかし観客の拍手が鳴り止まず、アンコールに応えて3人で『LIFE』を歌って、ようやくお開きとなった。ギターの弾き語りと言っても、まさに三人三様。身近でしかも奥深い、アコースティックギターの魅力に改めて感じ入った。

 

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍「200DVD映像で聴くクラシック」「200CDクラシック音楽の聴き方上手」、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子

 

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:H ZETT Mさん

今月の音遊人

今月の音遊人:H ZETT Mさん「音楽は目に見えないですが、その存在感たるやすごいなと思います」

30980views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

6474views

豊かで自然な音と響きを再現するサイレントバイオリン「YSV104」

楽器探訪 Anothertake

アコースティックの豊かで自然な音色に極限まで迫る、サイレントバイオリン™「YSV104」

12362views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

39350views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

11175views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

5762views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14730views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7068views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23658views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

5915views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

6029views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26231views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

8643views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15296views

コルトレーンってビートルズ・ナンバーを演奏してなかったんだっけ?

音楽ライターの眼

コルトレーンってビートルズ・ナンバーを演奏してなかったんだっけ?

38497views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

11795views

ギグリーマン

われら音遊人

われら音遊人:誰もが聴いたことがあるヒット曲でライブに来たすべての人を笑顔に

2431views

楽器探訪 Anothertake

目指したのは大編成のなかで際立つ音と響き「チャイム YCHシリーズ」

11347views

ホール自慢を聞きましょう

ウィーンの品格と本格派の音楽を堪能できる大阪の極上空間/いずみホール

7162views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7296views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

21923views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7768views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26231views