Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

1973年のデビュー以来、演奏活動の他、作曲家としても数多くのヒット曲を世に送り出し、さらに映画・舞台音楽の制作や俳優まで幅広い活動を展開する宇崎竜童さん。2020年で74歳になったと聞いて驚かずにはいられない、あふれるエネルギーで第一線を走り続ける宇崎さんに音楽との出合いや思いについてうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

自分の意思で一番多く聴いた曲は……覚えていないですね。でも、インタビューやラジオ、テレビのトーク番組などで「あなたが最初に意識した音楽は何ですか?」と質問されたときには、エルヴィス・プレスリーの『ハート・ブレイクホテル』と答えています。そして、答えるたびにもう一度聴いてみたり、歌ってくださいとリクエストされたりすることもあるので、結果的には数多く聴いたのはこの曲になるかもしれません。
最初に聴いたのは小学生のとき。兄、姉がいて、当時、家で流れているのはFEN(米軍の極東放送網、現在のAFN)でした。巷では三橋美智也さんや春日八郎さんの歌が流行っていて、子どもたちが意味もわからず口ずさんでいると、学校の先生に注意されたような時代。エルヴィスを聴いている小学生なんてまわりにはひとりもいなかったし、いわゆるマセガキでしたね。
その後、ローリング・ストーンズやザ・ビートルズ、レッド・ツェッペリンなんかが出てきたりして、僕のヒーローは折々で変わっていきます。こうした音楽は僕の根底にあるとは思いますが、一方で影響はほとんど受けていない。なぜなら、本当に影響を受けていたら、彼らのような曲が書けていただろうから。
自分が歴然とつくってきた音の世界は、それしかできなかった。でも、そこから抜け出して、自分にとっての新しいものを発見していきたいという思いは強いです。70歳を過ぎようが80歳になろうが、音楽家として日々成長したいんです。

Q2.宇崎さんにとって「音」や「音楽」とは?

難しい質問です。でも、もし音楽を仕事にしていなかったら、ただの“ろくでなし”でしょうね(笑)。僕は阿木燿子と結婚して1~2年後にプロの作曲家、バンドマンになれたのですが、もし音楽をやっていなければただの“ヒモ”になっていたと思います。といっても、飯もつくれないし、掃除もできない。こんな“ヒモ”は、とっとと追い出されているでしょう。学生時代から今にいたるまで、一日一善ならぬ「一日一曲」を自分に課しているのも、そういう癖をつけないとダラダラしてしまう人間だからですね。
弾き語りライブのとき、お客さんからはひとりでやっているように見えるでしょう。でも実は僕のとなりにもうひとりの宇崎竜童がいて、「今、音程狂ったね」「そのトークは何だ!?」などいちいち僕にささやくものだから大変です。それでも、オファーしてくださる方がいる以上は、求められたら答えたいという思いで一生懸命やっています。なので、これまで音楽から離れたい、やめたいと思ったことはありません。でも、本音を言えば、なぜ今でも生で歌っているんだろうと思いますよ(笑)。
そして、作曲家・宇崎竜童としては、地球のどこかの見知らぬ子どもが、誰の歌か知らずに口ずさんでしまうような……地球規模で愛される音楽がつくれたらいいと思っています。楽しみにしているなんて言わないでくださいね。プレッシャーになってしまいますから。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

幼児です。子ども向けの番組を見て飛び跳ねている子どもたちを見ると、あの子たちが最も音に敏感で、一番音楽を楽しんでいるように思います。ある若い俳優さんと映画の仕事でご一緒した時、彼が最近よく聴いているという『パプリカ』をロケ先で聴かせてくれました。この曲を聴くと、子どもたちがぴょんぴょん跳ねるのだと。やっぱり子どもってそうやって音を楽しんでいるのだな、と思いましたね。
僕はインスタグラムをやっていて、子ども支援のボランティア活動をしているアメリカ在住の方からのコメントでもそれを実感しました。その方は、僕がデビュー当時結成したダウン・タウン・ブギウギ・バンドのファンとのことで、そのリズミカルな曲を聴かせると子どもたちが飛んだり、跳ねたり、踊ったりするそうです。ただ、その曲は『ほいでもってブンブン』という暴走族の曲なので、いくら意味がわからないとはいえ変えた方がいいとお願いしたのですが(笑)。でも、子どもたちはブンブンといった擬音語に敏感に反応して、リズムとして体の中に入れるようです。意味もわからず、純粋に音と遊べるのは、やっぱり子どもですよね。

宇崎竜童〔うざき・りゅうどう〕
1973年にダウン・タウン・ブギウギ・バンドでプロデビュー。『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』『スモーキン’ブギ』などヒット曲を生み出す。作曲家としても多数のアーティストへ楽曲を提供。阿木燿子とのコンビで『プレイバックpart2』をはじめ山口百恵の多数のヒット曲を手掛け、その黄金時代を支えた。阿木とともに力を注いでいるライフワーク作品『Ay曽根崎心中』では音楽監督を務める。2019年阿木燿子と共に岩谷時子賞特別賞受賞。
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