Web音遊人(みゅーじん)

小西遼

今月の音遊人:小西遼さん「音楽は繊細な気持ちを伝えられる、すばらしいものです」

洗⾜学園⾳楽⼤学を経てバークリー⾳楽大学を⾸席卒業し、複数の楽器を駆使するプレイヤーとして活躍されている小西遼さん。近年は作編曲家としても、ポップスやジャズ、クラシックなど、ジャンルを超えた作品を世に送り出し、第75回NHK紅白歌合戦のオープニング曲や、東京2020パラリンピック開会式の選手入場曲をプロデュースするなど、強い存在感を放っています。ソロ・プロジェクト「象眠舎」の活動でも注目を集める小西さんにとっての音楽についてお聞きしました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

2010年にリリースされたブラッド・メルドーの『ハイウェイ・ライダー』に収録されている『ジョン・ボーイ』をよく聴いています。もともとはジャズのスタンダードを変拍子や複雑なハーモニーでアレンジしたり、レパートリーにロックを取り入れたりすることで有名になったアーティストですが、この曲を聴いた瞬間「やられた!」と。「こんな表現があるのか」と驚き、「自分もこういうことができたら」とも思いました。
このアルバムがリリースされたころの私は、自分が表現したいものや感情を楽曲に落とし込めている実感が足りずに試行錯誤していて、ちょうどアメリカ留学を決めた転換期でもありました。このアルバムの、ジャンルを特定できないようなところにジャズピアニストが向かっていく部分に衝撃を受け、私自身のアレンジャー、作曲家としての生き方を強く意識し始めました。移動中などあらゆるシーンで聴いてきましたが、いまは作品づくりをしているときに「あの空気感に触れたい」と思って研究するために聴くことが多いです。

Q2.小西さんにとって「音」や「音楽」とは?

「音」は空気の振動によって生まれるもので、それをどう捉えるかに面白さがあると思います。
洗足学園音楽大学で受けた水谷浩章先生の授業が、そう考えるようになったきっかけのひとつです。お寺の梵鐘を鳴らし、その音が消える瞬間まで聴くという内容でした。人間の耳は選択的な聴き方ができるので、特定の音に集中しているとほかの音をシャットダウンできます。そして、その音が消えると周りの音を捉えだすようになる。「音楽も同じように集中力をもって捉えることができるようになればいいね」というお話が、いまも印象に残っています。
もうひとつのきっかけは、ニューヨークに住んでいたときに読んだアメリカの音楽家ジョン・ケージの『サイレンス』という本です。彼の講義録なのですが、一行ごとに読む秒数まで指定されていて、まるで楽譜のようになっているんです。途中には空白のページがあり、それは意図的に「無音」の時間を作るためのもので、その「無音」も「音」の一部としてあつかわれているんです。
「音」というのは振動で、人はその振動によって感情が動きます。講義で発する声の振動も、秒数や無音を計算し尽くすと音楽となり、人の心を動かす力を持つ。雷の音や赤ちゃんの泣き声もすべて振動で、それによって人は何かを感じる。この仕組みを知ると、人間って本当に面白いなと思います。

小西遼

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

ルールを気にしないでいられる人だと思います。たとえばストラヴィンスキーなどの音楽は、当時は新しすぎて厳しく批判されることもありました。でも本人たちは「これが面白いからいいんだ」と自信をもって突き進んでいた。そこに遊び心があると思うのですが、遊び心というのはルールを忘れたときにこそ生まれるものではないでしょうか。私が大好きなアーティストの方々には、そういうところがあります。皆さん、「こうあるべき」「こうしなきゃ」というものを飛び越えていくのです。

Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?

言葉を超えて人とコミュニケーションを取ることができたときですね。子どものころから、頭の中にはいろいろな物語があったのですが、それを伝える手段がなくてもどかしい気持ちを抱えていました。しかし小学校5年生くらいでピアノ、中学1年生でサクソフォンに出会ったとき、「やっと自分の言いたいことが言える!」という気持ちになったのです。
音楽には、共通言語のような側面があると思います。たとえば外国人の共演者と十分な会話ができなかったとしても、一緒に音楽を奏でればその人となりがわかります。特に海外に行ってそれを感じました。
また、言葉では表現できない気持ちや感情のグラデーションもあらわすことができます。ひと言「悲しい」といっても、人によってさまざまな捉え方があります。でも、音楽なら自在に表現することができる。音楽は人間の繊細な気持ちを伝えられる、すばらしいものだと思います。

小西遼

小西遼〔こにし・りょう〕
洗⾜学園⾳楽⼤学を卒業後、バークリー⾳楽大学を⾸席卒業。サクソフォンをはじめ、複数の楽器を駆使し、CharaやMILLENNIUM PARADEなど多くのアーティストのステージをサポート。作編曲家としても「第75回NHK紅白歌合戦」オープニング音楽や東京2020パラリンピック開会式の選手入場の音楽をプロデュース、TBSテレビロゴサウンドなど幅広いジャンルの作品を手掛けている。近年はソロ・プロジェクト「象眠舎」を主宰し、多彩なアーティストとのコラボレーションでライブを行っている。
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