Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:松居慶子さん「音楽は生きとし生けるものにとって栄養のようなもの」

全米デビューから32年。多くのアルバムが権威ある『ビルボード』のチャート上位にランクインし、欧米諸国をはじめとするさまざまな街でコンサートを行っている、ジャズピアニストの松居慶子。気心知れた仲間たちと作ったアルバム『Echo』が好評を博し、ワールドツアーも行っている中、お気に入りの曲などをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

音楽が好きな両親でしたので、自宅には映画音楽やビリー・ジョエル、スティーヴィー・ワンダー、オスカー・ピーターソン、エラ・フィッツジェラルドなどいろいろなレコードがあり、それを聴いて育ちました。これまでの人生で特定のアーティストや作曲家にハマったことはないのですが、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番は中学生の頃から大好きです。
2018年の夏は自分への誕生日祝いにハリウッドボウルのコンサートへ行き、グスターヴォ・ドゥダメルが指揮するロサンゼルス・フィルのコンサートを聴きました。もちろんピアノ協奏曲第2番が演奏されるからです。お目当てのカティア・ブニアティシヴィリがキャンセルをしてしまい、別のピアニストが弾いたのですが、曲が聴ければもう満足でしたから幸せでした。独特の哀愁やメロディーラインの美しさは代えがたい魅力がありますし、ラフマニノフらしいピアニズムも素敵です。ずいぶん手が大きな人だったようで、私は手が小さいですから弾いてみると届かないところもありますけれど、ずっと憧れの曲でした。お友達のご主人が教えてくれたのですが、ボブ・ディランが彼のアルバムで、第3楽章のメロディーをカバーしているんです。あのしゃがれ声で歌っているのが、また味があってすごくいいんです。

Q2.松居さんにとって「音」や「音楽」とは?

自分を映し出す鏡であり、いちばん正直なものですね。人間だけではなく生きとし生けるものにとっては栄養のようなものだと思いますし、人と人とが心を通わせるためのギフトではないかと感じるときもあります。
特にこの数年は長い期間にわたってコンサートツアーをすることが多く、いろいろな国や街を訪れますが、それぞれ会場の様子や雰囲気などが違っていながらも私の音楽を受け入れてくれるお客様の笑顔は共通していて、この人たちのために私は音楽をやっているのだなと実感します。蝶のパビリオンで館長をされている方が「館内にKEIKOの音楽を流しておくと蝶のコンディションがいいんだ」とおっしゃっていたという話も聞きましたし、湾岸戦争に赴いた一人の兵士から、いつ故郷へ帰れるか、家族と再会できるか、いつ危機に直面するかという不安の中、私の音楽が希望になったという手紙を受け取ったこともあります。自分が知らないうちに、私の音楽がいろいろな方の人生で生かされていることを、とてもありがたく幸せに思います。毎回のコンサートで、“音楽は、国籍・人種・宗教など全てを乗り越えて人の心を繋いでくれる”という体験をお客様と分かち合っています。この時間を捧げることこそが、私のミッションなのだと確信しています。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

「音楽っていいな」と思って楽しんでいる人は、ミュージシャンであれ聴衆であれ、みんな「音で遊ぶ人」だと思います。私自身も、もちろんその一人ですよ。特にライブは楽しいですね!作曲をすることも、レッスン時代は“作らなければ”というモードでしたが、ある時点から“メロディーや素材を受け取る”というプロセスに変わりました。それは、「無になって音が聴こえて来るのを待ち、書き留める」という、ちょっと神秘的な時間でもあります。
アルバム制作に入る直前、いつも自分にプレッシャーをかけ過ぎてしまうのですが、「先までコンサートは決まっていて、ファンは新しい曲を待ってくれている。そして、何を作ってもいいという自由がある。これってなんて幸せなこと!」と自分を叱咤激励するんです。長いキャリアではありますが、私には常に音楽があってファンのサポートがあったからここまで来ることができたと思うと、ただただ有り難い気持ちでいっぱいです。コンサートでは、ファンの笑顔からエネルギーをたくさんもらって、疲れも吹き飛びます。特にここ数年は、新たなチャプターに入ったと感じているので、これからどこへ行こうかとワクワクしています。

松居慶子〔まつい・けいこ〕
ピアニスト。東京生まれ。5歳からクラシックピアノを始め、高校在学中に映画音楽の作曲など音楽活動も始める。18歳でヤマハとアーティスト契約。その後独立して渡米。1987年に発表した自主制作アルバム『水滴』が『ロサンゼルス・タイムズ』や音楽専門誌で絶賛され、アメリカのFM局の「スムースジャズ」フォーマットで中心的存在となる。2001年、アルバム『ディープ・ブルー』が全米ビルボード誌コンテンポラリー・ジャズ部門において日本人初の第1位を獲得。また、最新作『Echo』で3度目の第1位を獲得する快挙を達成。全米のみならず、フィンランド、モロッコ、アラブ首長国連邦、トルコ、南アフリカ、ロシア、ジョージア、ウズベキスタン、ウクライナ、リトアニア、ポーランド、イタリア、ドイツ、シンガポール、マレーシア、台湾など、世界各地で演奏している。2020年1月13日(月・祝)よみうり大手町ホール(東京)にてソロピアノ公演開催予定。
松居慶子オフィシャルレーベルサイト https://avex.jp/keikomatsui/

特集

菅野祐悟

今月の音遊人

今月の音遊人:菅野祐悟さん「音楽は、自分が美しいと思うものを作り上げるために必要なもの」

3142views

沖仁フラメンコギターコンサート

音楽ライターの眼

フラメンコの魂を伝える、深く豊かなギターの調べ /沖仁フラメンコギターコンサート

5923views

楽器探訪 Anothertake

おしゃれで弾きやすい!新感覚のアコースティックギター「STORIA」

46131views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

23393views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11542views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

13861views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12349views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3023views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8357views

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

われら音遊人

われら音遊人:音楽仲間の夫婦2組で結成、深い絆が奏でるハーモニー

7046views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6712views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29679views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

9081views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13774views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#035 既存ジャズのセオリーを打ち破って生まれたヒーリング・ミュージック~チック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』編

348views

アカネキカク akaneさん

オトノ仕事人

楽曲のイメージをもとに、ダンスの振りを考え、演出をする/振付師の仕事

2143views

ゲッゲロゾリステン

われら音遊人

われら音遊人:“ルールを作らない”ことが楽しく音楽を続ける秘訣

1495views

ヤマハギター50周年を機にアコースティックギターのFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギターFG/FSシリーズがフルモデルチェンジ

19488views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

4778views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6038views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

3804views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6001views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29679views