Web音遊人(みゅーじん)

廣津留すみれ

今月の音遊人:廣津留すみれさん 「私にとって音楽は、昔も今もずっと“楽しいもの”」

3歳でバイオリンを始めて以来、ハーバード大学とジュリアード音楽院を経て、華々しい経歴を重ねるバイオリニストの廣津留ひろつるすみれさん。活躍の場が多岐にわたる廣津留さんに音楽に対するひたむきな思いをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

自宅でくつろいでいるときはJ-POPを流していることが多く、中でもaikoさんの曲をよく聴きますね。小学生のころに友達に教えてもらったのをきっかけに好きになって、ほぼすべてのアルバムを聴いてきました。特に『彼女』というアルバムが大好きで、その中から一曲を挙げるなら『雲は白リンゴは赤』でしょうか。aikoさんの作る曲は半音の使い方が素晴らしくて、関西ご出身だからか、言葉のアクセントやイントネーションまで感じられるようなメロディなんです。歌詞も、「これぞ女子の心!」という真っすぐなものから、「こんなにいろいろな見かたができるんだ」と驚くような視点のものまである。自分ではうまく言語化できない感情を代弁してくれているような、ずっと好きなアーティストです。
クラシックでは、幼稚園のころに聴いて大のお気に入りになった、五嶋みどりさんのアルバム『アンコール!』です。クライスラーの『前奏曲とアレグロ』といった小品がまとめられているのですが、自分のリサイタルプログラム作りの参考にと聴き直したところ、バラエティに富んだ選曲で、あらためて好きだと実感しました。今でも、自分の演奏曲を選ぶ際に「いいな」と思う作品が『アンコール!』の収録曲だったりするので、知らず知らずのうちに大きな影響を受けているのだと思います。

Q2.廣津留さんにとって「音」や「音楽」とは?

メッセージを伝えるツールだと思います。
演奏者は、ある時期までは「上手に演奏する」「たくさん拍手をもらう」「コンクールでよい成績を収める」といったことが一番の目標になると思うのですが、その段階を過ぎると「自分の音で何を伝えるか」が大きくなってきます。大学3年生のときにチェリストのヨーヨー・マさんに出会って「私は音楽で何を伝えられるのか」を意識するようになりました。彼は、社会で何が起きているのかを理解したうえで、そのとき何が必要なのかをご自身の演奏を通して伝えようとされています。もちろん、自分の考えや姿勢を演奏で表現できるようになるには相当な練習が必要ですが、音楽の背景にあるメッセージをどう伝えるか、どういうことを伝えたいかをしっかり考えることで、音自体もうまく出せるようになるんじゃないか……と。ですから、音や音楽は私自身の、そしていろいろな人の思いを乗せて届けられるものだと思っています。

廣津留すみれ

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

ジュリアード音楽院の学生だったころ、友達とよくセッションをしていたんです。専攻に関係なく時間のある5~6人で集まって、流行りのポップスやジャズの名曲、アニメの主題歌まで、あらゆるジャンルからこれという曲をその場で選んで音を出し始める。偶然に集まった者同士、ピアノ1台とチェロ3台の日もあれば、フルートやバイオリンなどメロディ楽器ばかりのときもありました。「ドラムはこう叩くね」「チェロとバイオリンだとどっちがメロディ?」なんてことを言い合いながら、その場でイチから音楽を作り上げていく。これがまさに「音遊人」を感じられる瞬間だったなと思います。ジャズ科の友達からはインプロビゼーションのコツを学んだし、クラシック一筋の友達がどんどんオープンになって、新しい発見をしながら変化していく様子も目の当たりにしました。この経験は、今の私が演歌やジャズなど別ジャンルのアーティストさんとコラボレーションするときに役立っています。譜面はあるけれど、その場のやり取りを楽しみながらフレキシブルに対応できるようになりました。

Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?

よかったことしかない、かもしれないな。まず、ずっと続けてきたという自信がもてました。「私には音楽がある」と思えることが自分の軸になっています。最近はお仕事の場でまったく違うジャンルの方々とご一緒する機会も増えました。たとえばアスリートの方とお話しした際、本番のコンディションの整え方とかゾーンへの入り方とか、音楽が軸の自分と共通するものがあったんです。本質は同じということがとてもおもしろく、興味深かったですし、ひとつのことをずっと続けてきてよかったなと思えました。それと、音楽は世界のどこでも通じる。これまでも人の輪を作ったり広げたりするきっかけはいつも音楽でした。
やめたいと思ったり嫌になったりしたことは一度もありません。「歯みがき・ごはん・バイオリン」が当たり前の生活をしてきました。と言いつつ、練習はあまり好きではないのですが、誰かが聴いてくださると思えば自ずとやる気が湧いてくる。昔も今も「音楽は楽しいもの」ですね。

廣津留すみれ

廣津留すみれ〔ひろつる・すみれ〕
大分市出身。4歳からバイオリンを始め、12歳で九州交響楽団と共演。地元の公立高校在学中にニューヨーク・カーネギーホールにてソロデビューを果たす。ハーバード大学(学士課程)卒業、ジュリアード音楽院(修士課程)修了後、ニューヨークで音楽コンサルティング会社を起業。現在は日本を拠点に世界各地で演奏活動を行う。国際教養大学特任准教授・成蹊大学客員准教授。大分市教育委員。テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』金曜レギュラー。『超・独学術』(KADOKAWA)など著書・訳書も多数。
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