Web音遊人(みゅーじん)

スパークス

ベテランなのに鮮度の高いロック・バンド、スパークスの魅力に迫る

スパークスのライヴは、間違いなく2018年サマソニのハイライトのひとつだった。

日本を代表する夏フェスのひとつとして、音楽ファンのライフスタイルの一部となった感のある“サマーソニック”。2018年はノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズとベックをヘッドライナーに迎え、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジやマストドン、ジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリック、テイム・インパラなどが出演したが、スパークスのライヴはそんな一線級のアーティストたちと遜色ない、時にはそれ以上の盛り上がりを見せた。

スパークス

前身バンドのアーバン・リニューアル・プロジェクトが結成されたのが1967年(その後ハーフネルソンを経てスパークスと改名)というから、デビューから50年を超えるスパークスだが、その音楽はまったく古びることがない。サマソニでは土曜の深夜、オールナイトのMIDNIGHT SONICに出演した彼らにはロートル感はカケラもなく、「ディス・タウン」「アマチュア・アワー」などのクラシックから最新アルバム『ヒポポタマス』からの曲までをプレイ。起伏に富んだステージで魅せてくれた。

ロンとラッセルのメイル兄弟によってロサンゼルスで結成。トッド・ラングレンのプロデュースでデビューを果たした後にイギリスに渡ってグラム・ロックと呼ばれたかと思えば、ジョルジオ・モロダーと組んでエレクトロ・ディスコ・ポップに走ったり、フェイス・ノー・モアと絡んだり、オーケストラと共演するなど、変幻自在な音楽スタイルで活動してきた。それでも彼らの音楽には、唯一無二の“スパークス節”が貫かれている。

スパークスの個性のひとつは、ラッセルの裏声に近いファルセット・ヴォイスだ。これはロンが“人間が歌うこと”を前提とせず、とにかく自由にピアノで曲作りをしていた産物だという。あまりに“スパークスらし過ぎる”話のため、どこまで本当なのか疑いの目で見られていたが、ロンもラッセルも「本当だよ」と認めている。ロンは「いつも抽象的な”楽曲”として書いているんだ。ラッセルに文句を言われてはじめて、歌いづらいキーだということに気がつく」と笑っていた。彼はまた、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティに「もっと現実的な曲を書きなよ!」と忠告されたというが、それで現在のスパークス・サウンドが形作られたのだから、結果オーライというものだろう。

スパークスの歌詞も、その魅力のひとつだ。「ディス・タウン」の原題「This Town Ain’t Big Enough For Both Of Us」(この町は俺たち2人にゃ狭すぎる)は西部劇で定番のセリフだが、いちおうラヴソングの体裁を取りながらも、野生動物や爆弾投下に向かう爆撃機、食人族などが引き合いに出される。この曲が収録されているアルバム『キモノ・マイ・ハウス』のタイトルも「Come on-a my house(うちにおいでよ)」をヒネったダジャレだ。

最新作『ヒポポタマス』でも「うちのプールにカバがいる。どうやって入ったんだろう?」と問いかけるなど、とにかく一筋縄ではいかないのだ。

さらに固有名詞が多く登場するのも、スパークスの歌詞の特徴だ。エディット・ピアフ、ツイ・ハーク、チャーリー・パーカー、イングマール・ベルイマン、モリッシー、暗殺されたリンカーン大統領の未亡人、アエロフロート航空、ノートルダム聖堂、カーネギー・ホールなどが縦横無尽に飛び交う。ある意味ペダンチックな世界観もまた、ファンから支持される要因だ。

彼らのライヴも常に最上級のエンタテインメントを提供してくれる。にこやかな笑顔を浮かべて歌うラッセルと仏頂面でキーボードに向かうロンのコントラストが際立っているが、そのロンが突如立ち上がり、満面の笑みで踊り出す“スパークショー・ダンス”も毎回オーディエンスを沸かせる。2017年の来日時は全員が黒白のストライプ、2018年は全員がピンクと、粋なファッション・センスも彼らの持ち味だ。

そんなスパークスゆえに、数々のアーティストからリスペクトされてきた。フランツ・フェルディナンドは彼らとの合体プロジェクトFFSを結成しているし、モリッシーはミュージシャンになる以前からの大ファン。ジンジャー・ワイルドハートは別プロジェクト、ヘイ!ヘロー!で「ワッキー・ウィメン」をカヴァー、ザ・ダークネスのジャスティン・ホーキンスもブリティッシュ・ホエール名義で「ディス・タウン」をカヴァーしている。後者のミュージック・ビデオにはメイル兄弟がゲスト参加した。

彼らの強烈な個性は映像作家たちからも注目され、ジャック・タチは晩年の作品『コンフュージョン』に彼らを出演させることを考えていた(実現せず)。また、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』で知られる映画監督エドガー・ライトの次回作はスパークスのドキュメンタリーだと発表されており、彼自らがMIDNIGHT SONICの模様を撮影していた。

MIDNIGHT SONICでのフェス出演に加えて、東京・渋谷クラブクアトロでの単独ライヴも敢行。こちらでは「ホェン・ドゥ・アイ・ゲット・トゥ・シング・マイ・ウェイ」のイントロにフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」を挿入するなど、ちょっとしたお楽しみを加えながら、その世界に招き入れてくれた。常に鮮度が高く、何度見ても飽きの来ないスパークスのライヴ。次回の来日が待たれる。

■アルバムインフォメーション

『ヒポポタマス』
ヒポポタマス
発売元:Hostess Entertainment
発売日:2017年9月
料金:2,490円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人 大貫妙子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:大貫妙子さん「言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある。それが音楽ですよね」

17075views

音楽ライターの眼

弛まぬ進化を続ける、3人のAKIRAによるスーパーサウンド/AKIRA’S Special Live Vol.5

3425views

楽器探訪 Anothertake

目指したのは大編成のなかで際立つ音と響き「チャイム YCHシリーズ」

10628views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

10662views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

10174views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

12961views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

23987views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6850views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

22414views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

4408views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5317views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29942views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12386views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22454views

ジョージ・ハリオノ

音楽ライターの眼

チャイコフスキー国際コンクール第2位の若き天才ピアニストが待望のヤマハホール・デビュー!!/ジョージ・ハリオノ ピアノ・リサイタル

698views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

42893views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

8181views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

4489views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8442views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8165views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

18519views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

6044views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9968views