今月の音遊人
今月の音遊人:ケイコ・リーさん「意識的に止めなければ、自然に耳に入ってくるすべての音楽が楽譜として浮かんでくるんです」
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デビュー30周年、宝塚時代から現在までの軌跡を辿る名刺代わりの新作『Treasure~私の宝物~』/姿月あさとインタビュー
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2017.7.31
宝塚歌劇団の歴代トップスターの中でも屈指の歌唱力を誇る、姿月あさと。舞台生活30周年を記念した最新アルバム『Treasure~私の宝物~』を聴けば、彼女が万能の歌い手であることがわかるはずだ。難易度の高いミュージカルナンバーを激情的に歌い上げたかと思えば、シャンソンを語るように紡ぐ。さらには、クラシックからJ-POPまで。「30年という歴史の中でいろいろな音楽に携わってきました。昔には戻れないし、戻りたいとも思わない。今の自分にしかできないものを残せたかなと思います」。積み重ねてきた時の価値が詰まった一作だ。
宝塚音楽学校を経て歌劇団に入団したのが、30年前の1987年。小さい頃から習っていたピアノやバレエの素養を生かし、宝塚の舞台鑑賞に夢中になった中学時代の憧れを実らせた。まず花組に配属され、月組に組替えになると主要な役やソロパートを担うように。そして1998年、新たに創設された宙組の初代トップスターに就任する。
選ばれるべくして選ばれたスターの歩みに見えるが、「トップになるなんて一度も考えたことはない。舞台で歌い、踊るということだけが憧れだったから」と顧みた。月組で抜擢を受けた時も、「クリアしていくのに必死だった」と言い、宙組トップを打診された時は何度も固辞し続けた。「私には無理だと思ったし、怖かった。65年ぶりの新しい組。普通にトップになるだけでも重いことなのに……」
新しい組の道のりは、足跡のない雪道を歩くようだったが、志を同じくする組の仲間たちに支えられたという。そして、このトップ時代にかけがえのない作品との出合いがあった。オーストリア皇妃の生涯を描いたミュージカル『エリザベート—愛と死の輪舞—』だ。主人公、黄泉の帝王・トートを演じたとき、「テクニック的にとても複雑で、音楽の楽しさと同時に難しさを知りました。男役としてではなく一人の女性、姿月あさとという人間として、いろいろな歌に携わっていきたいと思うきっかけになった作品でした」
宙組初代トップスター・姿月あさとの代表作は、退団を決意する契機になった作品でもあった。別れを惜しむファンにとっては複雑な状況かもしれないが、一人の音楽家としては純粋で前向きな選択だったのだろう。「宝塚にいたからこそ色々なことを学べたし、まだまだ宝塚の中でも勉強することはありましたが、一人の人として音に触れていきたい、と気持ちは未来に向かっていました」。
退団後は、三枝成彰、秋元康、石井竜也など、大物作家らのプロデュースで、幅広い歌手活動を展開した。近年は、シャンソン界からのラブコールが多く、今年2017年は日生劇場での『越路吹雪に捧ぐ』やNHKホールでの『パリ祭』など大規模な音楽祭に相次いで出演。「シャンソンの魅力は、年を重ねるほど募る、人の憂いや悲しみ、孤独。宝塚音楽学校では、オペラ、シャンソン、カンツォーネ、合唱などの授業がありますが、当時15歳の時に歌った『愛の讃歌』と、今歌うもの、そして80歳の時では、同じ曲でも全然違うと思います」。5年前にシャンソンを薦めてくれたのが、秋元康であったといい、「やはり、先を読める方なのだなと改めて思いました」と実感を込めて語った。
1年半前(「2015年11月」に出した前作『Chante~シャンテ~』は、初めてシャンソンを特集したアルバムで、「歌い上げずに“語る”ということがやっとできるようになったと思います」という自信作。一方で、そうした抑制を効かせた深みのある表現に対し、「声が出なくなってしまったのでは?」と誤解されることもあるという。
「全然、出ますよ」。こう、いたずらっぽく笑って断言できるのは、まさに最新作『Treasure~私の宝物~』で『エリザベート—愛と死の輪舞—』の難曲『最後のダンス』を完璧に歌い上げているからだ。「私のことを知らない方が聴いてくださったとしても、この1枚で、宝塚にいた自分も今の自分もわかっていただけると思う。男役を経験したことによって低い声が出るようになった。その後も、自分の良さを模索し続けていろいろな表現に挑むうちに、それが全部引き出しになった。一つのジャンルに絞ることができないのが悩みでもあるけれど、お料理の素材みたいに、私のここをこうして使ってみたいなと思う音楽家やプロデューサーの方に出会いたい。名刺代わりの1枚です」
歌っている時の心境を問うと、「“ワープ”ですね」という独特の言葉が返ってきた。歌の世界に没入するということだろう。聴く立場としても、アルバム『Treasure~私の宝物~』をまわせば、収録された1曲1曲の奥深い世界の旅を味わうことができるはず。30周年という節目の2017年は、記念のソロコンサートも盛大に行われる。また、シャンソンやタンゴを特集するコンサートにメインの出演者として参加するほか、ゲスト出演するコンサートも多数予定されている。
『Treasure〜私の宝物〜』
発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社
発売日:2017年4月26日
価格:3,000円(税込)
日時:2017年9月18日(月・祝)13:00開演/16:00開演
会場:逸翁美術館マグノリアホール (大阪・池田市)
料金:6,000円(税込/全席指定)
文/ 仁川 清
photo/ 後藤泰宏
衣装:トランク ヒロココシノ, ヒロココシノ
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