今月の音遊人
今月の音遊人:大塚 愛さん「私にとって音は生き物。すべての音が動いています」
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TM NETWORKのデビュー30周年に当たり、1992年から続いていたソロ活動を2013年に休止。その再開を宣言した最初の作品が2015年11月に発表された。それが『ひかり桜(旭丘高校ボート部に捧ぐ)』と『清らかな水の町で』。この楽曲制作は、プロの音楽家として30年以上も第一線を走ってきた木根尚登にとって、かつてない試みに満ちたものになった。
まず、2つの楽曲いずれもが実話ベースであること。『ひかり桜(旭丘高校ボート部に捧ぐ)』は、不幸な事故により19歳で他界した元高校ボート部のキャプテンが主人公。『清らかな水の町で』は、ある不良少年が生死の分かれ目を体験した後に家族の愛に目覚めていく様子を描いている。
「今から4年ほど前、あるご縁でボート部のキャプテンのエピソードに出会い、とても心惹かれて、彼らをよく知る人たちを現地にたずねる取材までしました。これまで数多くの歌詞を書いてきたけれど、会ったこともない人の話を題材にしたのは今回が初めてです」
あるいはこういう機会を待っていたのかもしれない、と木根は言う。それは今から40年以上前。1973年に発表されたアメリカンポップスを10代の半ばで聴いた木根は、明るく跳ねるようなメロディに乗る歌詞の意味を知り、歌が持つ力に衝撃を覚えた。
「ドーンというグループの『幸せの黄色いリボン』という曲でした。刑期を終え出所する男が故郷に手紙を書くんです。もし自分の帰りを待っていてくれるなら、木の幹に黄色いリボンを結んでおいてくれ……。これ、本当にあった話なんですって。確認は取れていませんが、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』という映画のモチーフになったらしいです。でも、映画は2時間くらいあるでしょ。ところがその曲は、わずか3分半でドラマを描き切っていた。歌ってなんてすごいんだろう!胸の中に残っていたそんな感動を、長い時を経て2つの実話がよみがえらせてくれたんです」
この2曲を収録したCDは、それぞれの歌にまつわる場所で撮影された写真や制作秘話を収めたB5版ブックレット仕様になった。しかも販売は、ユニークな書店として知られるヴィレッジヴァンガード限定。木根によれば、仮に100万冊売れてもオリコンチャートには載らないそうだ。
「今回の歌づくりは、より多くの人に聞いてもらう、より多くのお客さんが入る場所でライブをするための曲を書くという、それまでの制作スタイルに逆行する方法ですよね。時代は移り変り、特に3.11以降、そして最近の熊本の地震にしても、誰もが力を合わせて生きることの大事さに目を向けている。そうした共生の時代にあって、伝える側にもこれまでにない責任や使命が帯びてくると思うんです。それについては僕自身も深く考えてきたし、震災以前から歌の伝え方の目標が変化していることに気付いていました」
TM NETWORKのデビュー30周年を機に4年がかりで行われたプロジェクトは、全国のアリーナを巡る大掛かりなライブが主体だった。アーティストに起きた変化とはどういうものだろう。
「『ひかり桜(旭丘高校ボート部に捧ぐ)』と『清らかな水の町で』のプロモーションを兼ねて、小さなライブハウスやレストランでライブをしたんですね。そこには、顔の見える一人ひとりに向けて大切に歌う方法があり、そういう場所でこそ伝わる歌があった。それを改めて教えてくれたのがこの2曲です」
そして木根には、自身に刻まれた10代のときの感動を誰かにも体験してほしい希望がある。
「僕が死んでも、例えば40年後とかにでも、たった一曲の主人公のドラマが歌になって広がって、それがみんなの心に残る、そんな曲を作り続けていきたいですね」
『ひかり桜(旭丘高校ボート部に捧ぐ)』/『清らかな水の町で』
発売元:ヴィレッジヴァンガード
発売日:2015年11月1日
価格:2,500円(税別)
インタビューでご紹介した『ひかり桜(旭丘高校ボート部に捧ぐ)』/『清らかな水の町で』のCDを抽選で5名様にプレゼントいたします。
木根尚登さんの直筆サイン入りです。
※応募締切:2016年7月10日(日)
文/ 田村十七男
photo/ 阿部雄介
tagged: インタビュー, 木根尚登, TM NETWORK
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