Web音遊人(みゅーじん)

連載49[ジャズ事始め]フュージョン的アプローチでは生まれなかった大江戸ウィンドオーケストラ

大江戸ウィンドオーケストラは、既成のポップス・オーケストラや吹奏楽団となにが違っていたのか?

前回、“文脈”という言葉を用いたが、ボクは大江戸ウィンドオーケストラの成立と、日本におけるポップス・オーケストラや吹奏楽団の成立とのあいだには根本的な違いがあると感じて、この問題提起をすることにした。

軍楽隊をルーツとするポップス・オーケストラや吹奏楽団は、本来の役割である“行進における合図”と“戦意高揚”の要素を薄めて、それを利用してきた国に定着することになった。日本でもそうであったことは、この“ジャズ事始め”シリーズの序盤で触れた。

軍楽隊をいち早く採用した欧米諸国では、その後継であるポップス・オーケストラや吹奏楽団でも当然のことながらオリジナル曲が多く作られ、後発組である日本(およびアジアや環太平洋諸国)ではそれを規範として学ぶ、という構図が自然とできあがっていた。

日本(およびアジアや環太平洋諸国)特有の節回しを取り入れるなどの“微調整”はされたものの、原則として“輸入された欧米の音楽”を土台としたジャンルであるという認識は変えられることなく続いてきたというのが、ひとつの“文脈”になる。

一方で、後発組のメンバーと楽器、そして作風を軸として楽隊を編制しようとしたのが、大江戸ウィンドオーケストラだった。

“文脈”という意味では、大江戸ウィンドオーケストラは、“輸入された欧米の音楽”という土台の否定=逆説によって提示しようとした“非欧米型のオーケストラ”になると考えたわけだ。

だから“文脈が違う”としたのだ。

逆説自体は、方法論の行き詰まりを打開するためによく用いられるけれど、この“非欧米型のオーケストラ”という発想に至る逆説は、かなり根が深いと感じざるを得なかった。

というのも、この“逆説”に至る前に、ポピュラー音楽では“混ぜる”という実験が行なわれ、それがある程度、成功を収めていたという経緯がある。

異文化の要素をブレンドして整える方法は、広くフュージョンと呼ばれて一世を風靡したわけだが、その発信源のひとつであった日本で、“混ぜる”だけでは本当の意味でのオリジナリティには到達できないという想いが、主導的立場にいた演奏家たちにあったのではないか──。

こうした仮説を立てるに足る歴史的証拠が残っていたことに気づいた、というのが、この“ジャズ事始め”を書き始めるきっかけとなった。

少し抽象的な表現に走ってしまったかな。次回でこの“ジャズ事始め”をまとめてみたい。

「ジャズ事始め」全編 >

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

facebook

twitter

特集

古澤巌さん

今月の音遊人

今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」

10653views

音楽ライターの眼

2020年代にブルースを受け継ぐ男。ジョー・ルイス・ウォーカーが『ブルース・カミン・オン』を発表

1561views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

15484views

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バンドで使うシンセサイザーの選び方

19344views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

9266views

梶望さん

オトノ仕事人

アーティストの宣伝や販売促進など戦略を企画して指揮する/プロモーターの仕事

8049views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

9417views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

9103views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

10859views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

6021views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

3623views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

24314views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

10815views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

10214views

音楽ライターの眼

“音の宝石箱”に魅せられて、瞬く間に時は過ぎた/松田華音 ピアノ・リサイタル

2842views

オトノ仕事人

アーティストの個性を生かす演出で、音楽の魅力を視聴者に伝える/テレビの音楽番組をプロデュースする仕事

4445views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

4392views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

8367views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

4866views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

6486views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

6880views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

1143views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

20484views