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音楽人生第2章!ニューヨークでジャズピアニストに転身した大江千里、4作目のニューアルバム/大江千里インタビュー
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2016.10.5
ポップスのシンガー・ソングライターとして名を馳せながら、50歳を過ぎてジャズピアニストに転身した大江千里。世間には驚きの余韻が残っているかもしれないが、2016年9月7日に発売された4作目のアルバム『answer july』は、大江にとって初のボーカルアルバムだ。聴けば、彼がいかに本場ニューヨークでジャズメンとしての地歩を固めているかがわかるだろう。多彩なアプローチから音を紡ぐ作曲家としての進化、絶妙なタイム感や間合いなど奏者として磨き上げたセンス、そして大御所から若手まで培ったジャズの人脈までが、この作品に詰まっている。
「オーガニックで、ポエティックで、どこかかわいらしい絵本のような世界観を表現したかったんです。シンプルな言葉でとつとつと物語が始まって、ページをめくっていくような感覚の作品だと思います」
大江がこう語る今作のアイコンとして迎えたのは、ベテラン歌手、シーラ・ジョーダンだ。80代後半とは思えないチャーミングで艶のある歌声で、アルバムの扉をそっと開く。大江がジャズを学んだニュースクール ジャズピアノ科の講師や後輩たちの協力も仰ぎ、作詞にも大御所、ジョン・ヘンドリックスらが名を連ねた豪華なボーカルアルバムは、人生の酸いも甘いもかみ分けた大人にこそ味わい深く響く。それでいて全編、愛嬌に満ちている。決して一筋縄では行かなかったジャズへの道のりを笑って語る大江の人柄ようだ。
「アントニオ・カルロス・ジョビン、クリス・コナー、トニー・ベネット。中学生の頃から中古レコード屋で買いあさっていたジャズアルバムは、別世界に連れて行ってもらっているという感覚でしたね。ジャズ雑誌を読み、教則本も買って勉強もしたけれど、壁にぶち当たって。それでも、ポップスでデビューしてからもアルバムに2、3曲はジャジーなものを入れていた。いつかは、本場のニューヨークで学校に入ってゼロからやってみたいと思っていましたね」
一念発起したのが、47歳の時。ブラッド・メルドー、ロバート・グラスパーら近年のスターを輩出しているニューヨークの名門、ニュースクールを受験し、合格通知が来たのだ。「ポップスをやり尽くしてはいなかったけど、人生の限られた時間をどう使うかと考えた時、第2章をやれるかもしれないと思った。合格は自信になったし、そもそもジャズの勉強もある程度していて、ポップスの即興も得意。そんな鼻っ柱は、入学して全員でパッと音を出した時、いとも簡単に打ち砕かれましたね。あ、僕一人が全然違うところにいるな、と」
それからは、愚直に努力を積み重ねる日々。コードの重ね方を学ぼうと、若い学生が鍵盤を押さえる写真を撮影し、自宅で分析する。「翌日、そのコードを授業でやらされた。でも、せっかく覚えたことが出てこない」。それでも、ひたむきに練習を続けると、今度は手が腱鞘炎に。「努力してもかなわないことがあるんだ」と自覚した。20歳の学生の成長の速さを横目に絶望も感じた。「先生に、開校以来のダメ生徒だ、とも言われたこともありましたね」
それでも、徐々に道は開けていく。「2年時に受けた進級審査は、相当な模擬試験を積み重ねて合格。同じ頃、J-POPをやっているビッグバンドに誘われて外で弾き始めたりして、オーディションでも選ばれるようになった」
ニュースクールは4年半かけて卒業。その間にレーベル立ち上げなどニューヨークでのプロ活動の準備を整え、アルバム『Boys Mature Slow』でデビューを果たした。
今では、「ポップスの世界からジャズに行こうとした人を私は何人も見ているけど、あなたが今、スムーズに行っているということは、ジャズに愛されているからだ」と認められるほど。今作のために大江が、シーラ・ジョーダンを口説きに行ったときに授かったありがたい言葉だ。
「アメリカでは大江千里、誰それ?ってほとんど人のが知らないと思う。でも、ニューヨークで早く、あーあの人でしょって言われるようになりたい。このアルバムで得た勢いを止めずに、更にジャズのラジオステーションなどのオンエアにも力を入れていきたいと思います。」
人生は、ほろ苦い。でも、最高じゃない?大江のそんな思いが反映されたアルバムを存分に味わってほしい。
『answer july』
発売元:ヴィレッジレコーズ
発売日:2016年9月7日
価格:通常盤3,000円/初回限定盤4,500円(税込)
SENRI OE “Answer July” ~Jazz Song Book~