Web音遊人(みゅーじん)

音座銀座

人はなぜ北に思いを馳せるのか?なぜリンゴなのか?「北から読み解く流行歌」

俳優の佐野史郎がホストとなって「大人の音楽の愉しみ方」を発見する人気のトークショー『音座銀座(On The Gin Za)』。
第11回のテーマは「北から読み解く流行歌」。いよいよ流行歌の世界に分け入ることに。佐野さんの幅広い音楽知識を、強力にバックアップしてくれたのは、福島県立博物館館長であり、『北のはやり歌』の著者でもある赤坂憲雄さん。長年にわたり東北学を専門としてきた赤坂さんの静かな語り口で、今回の「音座銀座」がスタートした。

「これまで日本の音楽シーンのルーツを探るときに、ハワイアン、ラテンと南方志向が強かったのですが、そろそろ北にも目を向けてみたくなった」と佐野さんが最初にかけたのは、美空ひばりの『リンゴ追分』。そして、戦後初のヒット曲となった並木路子の『リンゴの唄』と続いた。戦後になってジャズなどいろいろな音楽が入ってくる中で、なぜかヒットした歌謡曲に「リンゴ」というキーワードが目立つ。それはなぜなのか?

「ミカンとか、スイカではないんです。多くの人の共感を得たのは、リンゴの産地が信州、青森など北だったからなのでは?」と赤坂さん。北への郷愁、戦後の高度経済成長を支えた東北からの集団就職……、戦後にタイムスリップしながら、思いは徐々に北へと進んでいく。ここで赤坂さんの興味深い北方論が展開される。
「失恋して南に行く人は少ないと思うんです。南に行くとすぐ次の恋が生まれてしまいそうですよね。とことん落ち込んでいくためには、北なんです」。落ち込んでそこから這い上がってくる癒し方が、北にはあるという。

それにしても『リンゴの唄』はとことん明るいが、戦後もある意味明るかったそうだ。窮屈な時代が終わり、何もない焼け野原で、さあこれから!という開放感があったからという。一方、同じ復興でも東日本大震災の後、避難所で歌われた『リンゴの歌』や『上を向いて歩こう』には、違和感を覚えた人も少なからずいたそうだ。次々と曲をかける間もなく、静かに深い話に没入していくのは、「北」がテーマだからなのか。

音座銀座

そして時は進んで、ザ・フォーク・クルセダーズの『戦争は知らない』、カルメン・マキの『時には母のない子のように』、日吉ミミの『ひとの一生かくれんぼ』をピックアップ。もう一つの北の視点が登場する。それは作詞の寺山修司。「この時期に寺山さんはたくさん歌を作っているんです。どの歌にも青森生まれの寺山さんの影がある」と赤坂さん。

一方、佐野さんは、「はっぴいえんどが、本物の日本語のロックを作ろうというときに、まず岩手出身の大瀧詠一と共に、東京、麻布界隈に育ったの松本隆と細野晴臣の3人で東北旅行をしたというのも象徴的だし、代表曲のひとつ『抱きしめたい』も東北の演奏ツアー中に生まれた」という逸話を披露。さらに北に進んで太田裕美の『さらばシベリア鉄道』も登場。ロシアである。北論議はますます拡大し、小林旭の『北帰行』、石川さゆりの『津軽海峡・冬景色』へ行ったかと思うと、吉幾三の『俺ら東京さ行ぐだ』と、奥行きも幅も膨張してとどまることがない。最後は佐野さんが尊敬してやまない高倉健の『網走番外地』で終演となった。

人はなぜ北に思いを馳せるのか?長く厳しい冬を耐えることで、春の再生があるように、「北のはやり歌」は、哀愁に浸ることで、自己の内面への旅を誘ってくれる癒し歌なのかもしれない。「港」「海峡」「望郷」などのキーワードに込められた意味を探りながら、北への思いに浸りきることができた秋の夜話だった。

さて次回は2017年1月25日(水)、スチールギターの名手でもある高田漣さんをお招きしてのスペシャル版です。様々な音楽の源流でありながら、様々な音楽の影響を受け、多様な広がりを見せるカントリー&ウエスタンの世界を背景にアコースティックギターの魅力について、深く、熱く語っていただく予定です。みなさま、乞うご期待!

■第11回 音座銀座「佐野史郎vs赤坂憲雄 北から読み解く流行歌」曲リスト

トークショーの中で紹介された曲の一覧表です。こちらのPDFファイルをご覧ください。

■第12回 音座銀座スペシャル 佐野史郎vs高田漣「カントリー&ウエスタンを巡るアコースティックギターの世界」

日時:2017年1月25日(水)開場18:30/開演19:00
場所:ヤマハ銀座スタジオ(東京都中央区銀座7-9-14 B2F)
出演:ホスト・佐野史郎 ゲスト・高田漣
料金:2,500円(税込)
定員:112名・自由席
イベントの詳細はこちら

 

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