Web音遊人(みゅーじん)

bôa(ボア)

bôa(ボア)が新作『Whiplash』を発表。新時代の『Duvet』へ

bôa(ボア)のニュー・アルバム『Whiplash』が2024年10月に発表された。

1993年にイギリスで結成、『ザ・レース・オブ・ア・サウザンド・キャメルズ』(1998/『Twilight』として再発)、『Get There』(2005)という2枚のアルバムを発表してきた彼らのサード・アルバム。オルタナティヴなムード漂うポップ/ロック・サウンドが支持を得て、寡作でありながら聴き継がれてきた彼らのサウンドは健在で、アルバムに先駆けてリーダー・トラック『Walk With Me』が発表されてから、世界中のファンの期待の声が高まっていた。

ブリティッシュ・ロックの血統

bôaの人気の最大の理由がその音楽であることはもちろんだが、それ以外で彼らが注目される2つの理由があった。

まず、創設メンバーであるスティーヴとジャスミン・ロジャースの兄妹の家族のことがある。2人の父親はポール・ロジャース。1960年代末からフリー、バッド・カンパニー、クイーンなどで歌ってきた、ブリティッシュ・ロックを代表する名ヴォーカリストである。

筆者(山﨑)とのインタビューでジャスミンは「子供の頃、家にジミー・ペイジがやって来てお父さんと大きな音でジャムしていて、宿題を出来なくて困った」と笑いながら文句を言っていたが、ロック・ファンだったらそれが1984年に始動したザ・ファームのことだとピンと来るだろう。bôaのデビュー・ライヴが1994年1月、ロンドンの“フォーラム”で2千人の観衆を前にしての大舞台だったことも、彼らが“血統書付き”だったことを窺わせる。

(スティーヴは2005年にバンドを脱退、ジャスミンを軸として活動を続けている。)

なおバンドのドラマー、リー・サリヴァンもルネッサンスのドラマーだったテレンス・サリヴァンの息子であり、ブリティッシュ・ロックの血統を受け継ぐ存在として、オールド・ファンからも注目を集めた。

アニメ『serial experiments lain』によるブレイク

もうひとつbôaの名前が知られるようになったのは、メディアミックス作品『serial experiments lain』のアニメ版オープニング・ソングとして彼らの『Duvet』が使われたことだった。

現実とネットワーク世界がクロスオーヴァーする、インターネットが急激に普及しつつあった時代を反映した本作は高く評価され、四半世紀を経た今日でも根強い人気を誇っているが、『Duvet』も同様にロングセラーとなり、近年ではTikTokで新しい層のファンを獲得している。

上述のインタビューが行われたのは1998年7月、アニメの初回放映直前で、まだどんな反響があるか誰にも判らなかった。これほど息の長い人気作となるとは、想像もつかなかった筈である。

ちなみにTVドラマ『夜明けの刑事』(1974〜1977)では後期エンディング・テーマの作詞・作曲を母親のマチ・ロジャースが手がけ、また父親のポールが挿入歌『Yoake No Keiji』を歌っていたが、「親子二代で日本のTVドラマに曲提供ですね!」と言ったところ、両親のこの仕事についてはご存じなかったらしく、「……ん?」という反応が返ってきた。

新時代の進化

偉大なる父親やアニメ主題歌を抜きにしても、『Whiplash』は20年近くの空白を感じさせない充実した作品だ。ジャスミンは動物学を学ぶ傍ら、ソロとして音楽活動も行ってきたが、1曲目『Let Me Go』からその温かみと切なさをたたえたヴォーカルが全開。スティーヴはアルバムに関わっていないものの、『Walk With Me』『Frozen』『Whiplash』などbôaらしさを受け継ぐナンバーが満載のアルバムに仕上がっている。

さらに内面へと潜行していく『Vienna』、フォーキーなバックグラウンドを垣間見させる『Beautiful & Broken』など、多彩な作風はバンドの世界観をさらに幅広いものに昇華させていく。

bôaはアルバム発表に先駆けて2024年9月から北米ツアーを開始。10月にはイギリス、11〜12月には大洋州、2025年2月にはヨーロッパをサーキットする。その後さらに北米とイギリスを2巡目することが決まっているが、ジャスミンの母の故郷であり、『Duvet』のブレイクのきっかけとなった『serial experiments lain』の国、日本でのライヴが待たれるところだ。新時代のbôaの進化に期待したい。

■アルバム『Whiplash』

bôa(ボア)『Whiplash』

発売元:Nettwerk
発売日:2024年10月18日
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:諏訪内晶子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」

19922views

音楽ライターの眼

ベートーヴェン生誕250年に歌曲の魅力に触れる

2448views

クラビノーバ「CSPシリーズ」

楽器探訪 Anothertake

これまでピアノを諦めていた多くの人を救う楽器。楽譜作成・鍵盤ガイド機能が付いた電子ピアノ/クラビノーバ「CSPシリーズ」

22247views

ヴェノーヴァ

楽器のあれこれQ&A

気軽に始められる新しい管楽器 Venova™(ヴェノーヴァ)の魅力

2773views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11866views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

2249views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

14901views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

10251views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10529views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

2038views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

6978views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31358views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5502views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23906views

音楽ライターの眼

パンク・ロック45周年、セックス・ピストルズのアナーキーは終わらない

5181views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

7026views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

5748views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンで初めてオーディオファイル録音機能を装備

13620views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

25510views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5456views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

47605views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9222views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31358views