今月の音遊人
今月の音遊人:藤井フミヤさん「音や音楽は心に栄養を与えてくれて、どんなときも味方になってくれるもの」
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恋は神代の昔から。バロック期の恋の歌を古楽器伴奏で切々と/コンチェルト・イタリアーノ・スペシャル・アンサンブル
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2017.7.4
tagged: イタリア, 音楽ライターの眼, バロック, コンチェルト・イタリアーノ・スペシャル・アンサンブル
イタリアバロック音楽演奏で世界的に活躍中の古楽合奏団、コンチェルト・イタリアーノがヤマハホールに初登場。マドリガルと呼ばれる世俗歌曲を、生誕450年のクラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643)の作品を中心にたっぷり披露した。
舞台配置は、中央にチェンバロ、左右にソプラノとテオルボが1人ずつの合計5人。
世俗歌曲は、概ね1節数行で2~5節程度で構成された文学的な詩に、シンプルな旋律を付けたものだが、作者不詳の詩も珍しくない。リナルド・アレッサンドリーニの朗らかなチェンバロとクレイグ・マルキテッリ、ウーゴ・ディ・ジョヴァンニ両人のテオルボの多彩なハーモニーがソプラノ歌唱と溶け合って、心がすうっと落ち着いていく。
歌詞の内容はというと、恋心を炎にたとえて、想い人に振り向いてほしい、ほほえみに癒やされたいなどと願ったり、はたまた心変わりを嘆いたり、つれない態度を責めてみたり……。昨今のラブソングと大差はない。
モンテヴェルディは、このようなマドリガルの作曲に人生の大半を費やしている。1587年に出版されたマドリガル第1巻から1638年の第8巻に至る期間を計算しただけでも、実に半世紀あまり!しかも、死後の1651年に第9巻も出ているのだ。
この日は第7巻の作品が主で、ソロかデュオで歌われた。モニカ・ピッチニーニはドラマチックなソプラノ、アンナ・シンボリは静寂を描くような繊細なソプラノで、デュオのコール&レスポンスやフレーズの追いかけ合いなどでは、持ち味の違いが妙味を醸し出し、今どきのツインヴォーカルが自由に掛け合って歌う原点を見る思いがした。
さて、古楽ファンでもなければ、日頃あまりお目にかかれないのがテオルボ。
マンドリン型のリュートに、低音弦の長いネックが加わった構造で全長150センチくらい。糸倉が2カ所にあり、ペグは7本ずつ使われているようだったが、バリエーションがあり、マルキテッリのテオルボの方がボディは大きい。2台とも専用スタンドがなく、開演前や休憩時間は舞台にゴロンと寝かされていて、なんともユーモラスに見えた。
マルキテッリ、ジョヴァンニとも開演ギリギリまでチューニングしていたそうだが、ライヴ中はほとんどせずに進行した。弦が多いので、ナーバスになりすぎてもキリがないらしく、おおらかに接しているようだ。休憩時間の後半に、ふたりがステージに出てきてチューニングしていたが、短時間で終了。
色彩豊かなサウンドで、チェンバロやソプラノと一瞬一瞬のハーモニーを楽しみながら息の合った演奏を届け、聴いているこちらも一度弾いてみたい気分に。遠い昔にちまたの男女が、テオルボを弾きながらこんな歌を歌っていたのかと思うと、なんだか感慨深い。
欧米では、若い世代が古楽器バンドを楽しむムーブメントもあると聞く。プロの世界でもマドリガルをジャズ風アレンジで歌ったりして、現代人が身近に楽しめるようにとの模索も見受ける時代である。
バロックの世俗歌曲を知らない人はまだまだ多いが、今回のように対訳つきのプログラムがあれば、本格的な内容でも十分鑑賞できる。コンチェルト・イタリアーノ公演をきっかけに、さまざまな古楽を聴いたり、楽器に触れたりできる機会が増えると素晴らしい。
文/ 原納暢子
photo/ Eriko Inoue
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