Web音遊人(みゅーじん)

高らかに鳴るトランペットだけでなく、神業のようなドラム・プレイ、若き俊英のピアノの妙技にも目をみはる/タイガー大越 トランペットの絵画 Vol.4

高らかに鳴るトランペットだけでなく、神業のようなドラムプレイやピアノの妙技にも目をみはる/タイガー大越 トランペットの絵画 Vol.4

実に「学び」が多く感服した。「学び」などと書くと、セミナーやワークショップを連想されそうだが、タイガー大越と仲間たちのライヴである。繰り広げたセッションやソロ、そして予期せぬオープンマイクに至るまで、すべてが「アーティストに必要なことを示唆したようなステージ」だった。

大越が関西弁で気さくに話しながら和やかに進行する。メンバーは、大越がかつて学びいまは教鞭をとる米国のバークリー音楽大学から、教授のケンウッド・デナード(dr、kb、vo)。そして、ゲイリー・バートンらに見込まれて数多の大御所とツアーを重ねるヴァディム・ネセロフスキー(pf)。ゲストの納浩一(b)はやはりバークリー出身で、大越と共演を重ねて長い。本田雅人(sax)は大越と同じく昭和音楽大学客員教授を務めていて、そのつながりで今回出演がかなったと大越自らにこやかに紹介。そんなユニークな組み合わせで繰り広げる音楽は色彩豊かで変化に富んでいた。

高らかに鳴るトランペットだけでなく、神業のようなドラム・プレイ、若き俊英のピアノの妙技にも目をみはる/タイガー大越 トランペットの絵画 Vol.4

オープニングの「Tenor Madness」から、どの曲も終始メンバーがソロを受け渡しての演奏。トランペットとサックスがユニゾンで旋律を歌い、交互にソロで語り、ピアノやベースにバトンタッチして、ドラムが盛り上げる。ベースとドラムが太い綱のように絡み、要所でトランペットやサックスが気合いを入れても力みがない。

前向きで高らかに伸びる大越のトランペットとスタイリッシュでエレガントな本田のサックスだけ突出させての展開ではなく、5人それぞれの見せ場を大切にした構成で、お互い音をよく聴き、尊重し合ってのパフォーマンス。ゆったり聴けるのが心地よかった。大越はソロを預けるとボンゴを叩いたりも。

高らかに鳴るトランペットだけでなく、神業のようなドラム・プレイ、若き俊英のピアノの妙技にも目をみはる/タイガー大越 トランペットの絵画 Vol.4

ネセロフスキーはノリにノッて、自身のアルバムから「Spring Song」をソロ演奏。美しいリリカルな音色で、「ジャズ界のショパン」と呼ばれるのが納得できる。まるでグレン・グールドのように鼻で歌いながら弾いたりするのもほほ笑ましい。1部を締めくくる「Sakura」では、鍵盤ハーモニカを膝から胸に寝かせて吹き口をくわえ、右手で弾きながら、左手でピアノを演奏する妙技も。哀愁をおびた旋律を紡ぐ鍵ハモの響きが妙に心にしみる。

2部は、大越が「朝走って50分くらいヨガして、野菜食べて水飲んで……。今日が最後かなと思う演奏ばかりしている」などと近況報告してから、デナードのドラムソロで開始。グリップを自在に変え、スティックの先から尻まで駆使して、打面や縁のあらゆるところを飛び交う絶妙のストローク。まさに神業で、変拍子も手慣れたギアチェンジといった感じだ。時折、右手でドラムを叩きながら左手でキーボードを弾き、スキャットを口ずさんでなお余裕の表情。どこか無邪気な風情で鳴らす口琴も、味があるので恐れ入る。

大越の作曲にまつわるエピソードも興味深かった。例えば「Green Tea Jam」は、宿泊した浜松のホテルの朝食に出てきたグリーンティージャムからイメージしたというし、「Bootsman’s Little House」では、アイルランド人と思われる男が「ゴム長履いて、釣り道具持って海で仕事をして、坂の上の家に帰るときにこんな歌を口ずさんでいたのではないかな」などと、日常の中で柔軟にイマジネーションを働かせて作曲しているようなのだ。

「Bootsman’s~」では、舞台補助に来ていた若手ドラマーの陶山ジャクソンを舞台に上げてボンゴを任せ、物語るようにトランペットを吹いた。 次世代を育てながらのステージに、バークリーでの日々を垣間見る思いがした。

アンコールは「お母さん(Mother)」。1部の最後で聴かせた「Sakura」は古謡の「さくらさくら」、「お母さん~」は童謡の「かあさんの歌」のアレンジ曲だ。ボストンを拠点として45年になる大越の思いが伝わってくるようだった。

高らかに鳴るトランペットだけでなく、神業のようなドラム・プレイ、若き俊英のピアノの妙技にも目をみはる/タイガー大越 トランペットの絵画 Vol.4

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:下野竜也さん「自分を楽しく表現できれば、誰でも『音で遊ぶ人』になれると思います」

4736views

斎藤雅広「ナゼルの夜会」

音楽ライターの眼

デビュー40周年を迎えた斎藤雅広が世に送り出す、舞踊の空気ただようアルバム

6600views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュなボディにエレクトーンならではの魅力を凝縮!STAGEA(ステージア)「ELB-02」

15968views

FGDPシリーズ

楽器のあれこれQ&A

新たな可能性を秘めた楽器、フィンガードラムパッドに注目!

1319views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

9590views

オトノ仕事人 サウンドデザイナー/フォーリーアーティスト 滝野ますみさん 映像作品の登場人物に合わせて効果音を吹き込む/フォーリーアーティストの仕事

オトノ仕事人

映像作品の登場人物に合わせて効果音を吹き込む/フォーリーアーティストの仕事

1065views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

16109views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4067views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

16666views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

9305views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5514views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

27993views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

11964views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27055views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#015 ヘイトのない世界を考えるための時を超えたメッセージ~ジョー・パス『ヴァーチュオーゾ』編

2811views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

10086views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

6821views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

11758views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

13136views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

9519views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

127079views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6409views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11673views