Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.11

ピアニストの野瀬栄進から「新しいデュオのアルバムができたので聴いてほしい」というメールをもらったのは、2017年10月のことだった。

野瀬栄進は1971年生まれ。1992年にカリフォルニアへ渡り、94年の移住以来、ニューヨークを拠点に活動を続けている。

彼は定期的に日本を訪れてツアーを行なっているが、その内容は主にソロ・ピアノかデュオのどちらかで構成されており、ボクもこの5~6年で何回か、ソロ公演とデュオ公演のどちらも観る機会を得た。

このときのメールも、10月27日に東京・渋谷で開催されるライヴを知らせることが主な目的だったのだが、そのライヴを含む今回の日本ツアーが彼のデュオ・プロジェクト“THE GATE”によるアルバムの発売を記念したもので、そのアルバム『Uncertain Landscape(あてのない風景)』について彼が言及していたというわけだった。

野瀬が、同じくニューヨークを拠点に活動しているドラム&パーカッショニストの武石聡とともに“THE GATE”を結成したのは2007~08年ごろだったという。

2009年にはこのデュオで、日米の架け橋となる若手芸術家を対象としたS&R Washington Awardを受賞。アルバムもボクが知るかぎりこれまでに5枚ほどリリースしている。

ライヴでは『Uncertain Landscape』収録のナンバーを中心に演奏が進んでいったのだけれど、興味深かったのは、野瀬栄進がソロとデュオを原則的に“分けて考えていない”ことが伝わるプログラムだったこと。

これはデュオがコンボ(小編成)を縮小したコンセプトではなく、ソロの延長線上で考えたほうが自然であると考えるインプロヴァイザーがいる、ということを示している。

実際に“THE GATE”のライヴを観ていると、野瀬栄進と武石聡が対立図式で即興的な展開をしていくのではなく、ピアノのモノローグでは表現しきれない部分をカラフルなパーカッションで脚色しているような印象を受けることが多くあった。

例えば、その場にいる観客であっても“見えにくい”ようなピアノの倍音の広がり方や音圧の厚みを、わかりやすくパーカッションの音で補完しようとする……感じだ。

このような発見をもたらしてくれた刺激的なライヴであったことから、ボクは野瀬栄進にメールを送り、彼がデュオに対して抱いているイメージを探ってみることにした。

その質問メールに対する回答は次回。

<続>

ジャズとデュオの新たな関係性を考える<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人 岡本真夜さん

今月の音遊人

今月の音遊人:岡本真夜さん「親や友達に言えない思いも、ピアノに聴いてもらっていました」

8714views

音楽ライターの眼

連載34[ジャズ事始め]自分だからこそ表現できるジャズをやるしかないと気づいた佐藤允彦が渡米するまで

2255views

v

楽器探訪 Anothertake

弾く人にとっての理想の音を徹底的に追究したサイレントバイオリン™

6381views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

46046views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9359views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

ステージマネージャーひと筋に、楽員とともにハーモニーを奏で続ける/オーケストラのステージマネージャーの仕事(後編)

17184views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

13674views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7198views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

14418views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

9166views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

4677views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29022views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

10837views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12528views

音楽ライターの眼

すでにAIの音楽は小説の世界を飛び出しているという現実

3006views

トーマス・ルービッツ

オトノ仕事人

アーティストに寄り添い、ともに楽器の開発やカスタマイズを行うスペシャリスト/金管楽器マイスターの仕事

1120views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

5646views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

29957views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6822views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

7588views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

10183views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10447views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29022views