今月の音遊人
今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」
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レスリー・ウェストの追悼CDボックス2作が発売。暑苦しい夏は暑苦しいロック・ギターで
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2021.7.16
2020年12月23日、ロックの巨山が崩れた。レスリー・ウェストが75歳で亡くなったのだ。
レスリーは1969年にソロ・アルバム『マウンテン』を発表。アルバムのプロデューサーだったフェリックス・パパラルディと意気投合して、そのままマウンテンをバンド名にして始動した。“愛と平和の祭典”ウッドストック・フェスティバルに出演して注目を集めた。ちなみにこのライヴはバンドとしてまだ3回目だったという。
『ミシシッピ・クイーン』『ドント・ルック・アラウンド』『ネヴァー・イン・マイ・ライフ』などアメリカン・ハード・ロックに冠たる名曲の数々、レスリーの体躯のように極太なギター・プレイ、哀愁漂うメロディと圧倒的なシャウトで絶大な支持を得たマウンテンだが、メンバー間の音楽性の相違で1972年に最初の解散。レスリーはドラマーのコーキー・レイング、そして元クリームのジャック・ブルースとウェスト・ブルース&レイングを結成するが短命に終わり、1973年の来日公演を契機にマウンテンを復活させる。
その後、レスリーはマウンテンとソロ、あるいはレスリー・ウェスト・バンド名義を使い分けながら活動を続ける。彼のギターは世界中のファンのみならず数多くのミュージシャンにも影響を与えており、マイケル・シェンカーが彼の大ファンというのは有名な話だ。
コンスタントに作品を発表、ツアーも行ってきたレスリーだが、若い頃から体調に不安があった。かなりの肥満だった彼はその体型からバンド名に“マウンテン”と名付けたり、1975年のソロ作『華麗なるファツビー The Great Fatsby』のタイトルで小説『華麗なるギャツビー』とfatを引っかけたりするなど、自虐的なギャグも飛ばしていた。彼はまた1970年代からドラッグの問題を抱えており、ヘヴィ・スモーカーだった彼は1980年代に糖尿病の問題が表面化。体重を落としてかなりスリムになったが、2011年には右脚の切断を余儀なくされている。さらに彼は膀胱癌を患うなど、満身創痍の状態でステージに上がり、ありったけのエモーションを込めたギターを弾いてきたのだった。
実は2020年末、筆者(山崎)はレスリーにインタビューのオファーをしていたが、それが実現しないまま彼は心不全で亡くなってしまった。彼と話すことが出来なかったこともそうだが、その勇姿を再び日本のステージで見ることが出来なかったのが残念でならない。
レスリーが亡くなって半年が経つ2021年7月に、そのスタジオ、ライヴを収めた2種類の追悼CDボックスが発売される(海外盤CDに帯・解説を付けた日本仕様盤)。『5オリジナルズ』はCD3枚組、『ガット・ライヴ』はCD4枚組という、往年のレスリーの体型のように“ビッグ”なボックスである。
『5オリジナルズ』に収録されているのは『華麗なるファツビー』(1975/ミック・ジャガー参加)、『レスリー・ウェスト・バンド参上』(1976/フォリナーのミック・ジョーンズ参加)、『テーマ』(1988/ジャック・ブルース参加)、『アリゲーター』(1989/スタンリー・クラーク参加)、『ギターデッド』(2004/ジョー・ボナマッサ参加)の5作だ。それぞれ豪華なゲスト・ミュージシャンが参加しているが、もちろん主人公はレスリーの濃厚なギターだ。
一方の『ガット・ライヴ』に収録されているのは1998年・英国ブライアリー・ヒル公演、1994年ニューヨーク公演、1975年ニューヨーク“エレクトリック・レディ・スタジオ”でのライヴ(2枚組)だ。いずれも近年スタートした“オフィシャル・ブートレグ”シリーズとして発表されたもの(Vol.1〜3)で、音質は完璧とは言い難いが、ライン録音のため聴きづらくはなく、レスリーとバンドのライヴ演奏を生々しく捉えている。マウンテンの代表曲の数々に加えて、ザ・ローリング・ストーンズの『ホンキー・トンク・ウィメン』やチャック・ベリーの『ベートーベンをぶっ飛ばせ Roll Over Beethoven』、アニマルズで知られる『朝日のあたる家』ジャック・ブルースの『想像されたウェスタンのテーマ Theme For An Imaginary Western』なども、レスリーの個性あふれる新しいヴァージョンに生まれ変わっている。
(ちなみに海外ではこの“オフィシャル・ブートレグ”シリーズの第4弾『トロント1976』も発売されており、こちらにはフォリナー結成前のミック・ジョーンズ、そしてカーマイン・アピスをゲストに迎えて盛り上げている)
『5オリジナルズ』と『ガット・ライヴ』、どちらのボックスも満腹感を伴う内容だが、容易に国内ショップで入手出来る日本流通盤、しかもお財布に優しい廉価盤なのも嬉しい。
暑い夏は、さらに暑苦しいレスリーのギターを聴き浸って過ごそう!
アルバム『5 Originals』
発売元:BSMF RECORDS
発売日:2021年7月21日
価格:2,970円(税込)
詳細はこちら
アルバム『Got Live』
発売元:BSMF RECORDS
発売日:2021年7月21日
価格:3,520円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
tagged: 音楽ライターの眼, レスリー・ウェスト, マウンテン
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