Web音遊人(みゅーじん)

レスリー・ウェストの追悼CDボックス2作が発売。暑苦しい夏は暑苦しいロック・ギターで

2020年12月23日、ロックの巨山が崩れた。レスリー・ウェストが75歳で亡くなったのだ。

レスリーは1969年にソロ・アルバム『マウンテン』を発表。アルバムのプロデューサーだったフェリックス・パパラルディと意気投合して、そのままマウンテンをバンド名にして始動した。“愛と平和の祭典”ウッドストック・フェスティバルに出演して注目を集めた。ちなみにこのライヴはバンドとしてまだ3回目だったという。

『ミシシッピ・クイーン』『ドント・ルック・アラウンド』『ネヴァー・イン・マイ・ライフ』などアメリカン・ハード・ロックに冠たる名曲の数々、レスリーの体躯のように極太なギター・プレイ、哀愁漂うメロディと圧倒的なシャウトで絶大な支持を得たマウンテンだが、メンバー間の音楽性の相違で1972年に最初の解散。レスリーはドラマーのコーキー・レイング、そして元クリームのジャック・ブルースとウェスト・ブルース&レイングを結成するが短命に終わり、1973年の来日公演を契機にマウンテンを復活させる。

その後、レスリーはマウンテンとソロ、あるいはレスリー・ウェスト・バンド名義を使い分けながら活動を続ける。彼のギターは世界中のファンのみならず数多くのミュージシャンにも影響を与えており、マイケル・シェンカーが彼の大ファンというのは有名な話だ。

コンスタントに作品を発表、ツアーも行ってきたレスリーだが、若い頃から体調に不安があった。かなりの肥満だった彼はその体型からバンド名に“マウンテン”と名付けたり、1975年のソロ作『華麗なるファツビー The Great Fatsby』のタイトルで小説『華麗なるギャツビー』とfatを引っかけたりするなど、自虐的なギャグも飛ばしていた。彼はまた1970年代からドラッグの問題を抱えており、ヘヴィ・スモーカーだった彼は1980年代に糖尿病の問題が表面化。体重を落としてかなりスリムになったが、2011年には右脚の切断を余儀なくされている。さらに彼は膀胱癌を患うなど、満身創痍の状態でステージに上がり、ありったけのエモーションを込めたギターを弾いてきたのだった。

実は2020年末、筆者(山崎)はレスリーにインタビューのオファーをしていたが、それが実現しないまま彼は心不全で亡くなってしまった。彼と話すことが出来なかったこともそうだが、その勇姿を再び日本のステージで見ることが出来なかったのが残念でならない。

レスリーが亡くなって半年が経つ2021年7月に、そのスタジオ、ライヴを収めた2種類の追悼CDボックスが発売される(海外盤CDに帯・解説を付けた日本仕様盤)。『5オリジナルズ』はCD3枚組、『ガット・ライヴ』はCD4枚組という、往年のレスリーの体型のように“ビッグ”なボックスである。

『5オリジナルズ』に収録されているのは『華麗なるファツビー』(1975/ミック・ジャガー参加)、『レスリー・ウェスト・バンド参上』(1976/フォリナーのミック・ジョーンズ参加)、『テーマ』(1988/ジャック・ブルース参加)、『アリゲーター』(1989/スタンリー・クラーク参加)、『ギターデッド』(2004/ジョー・ボナマッサ参加)の5作だ。それぞれ豪華なゲスト・ミュージシャンが参加しているが、もちろん主人公はレスリーの濃厚なギターだ。

一方の『ガット・ライヴ』に収録されているのは1998年・英国ブライアリー・ヒル公演、1994年ニューヨーク公演、1975年ニューヨーク“エレクトリック・レディ・スタジオ”でのライヴ(2枚組)だ。いずれも近年スタートした“オフィシャル・ブートレグ”シリーズとして発表されたもの(Vol.1〜3)で、音質は完璧とは言い難いが、ライン録音のため聴きづらくはなく、レスリーとバンドのライヴ演奏を生々しく捉えている。マウンテンの代表曲の数々に加えて、ザ・ローリング・ストーンズの『ホンキー・トンク・ウィメン』やチャック・ベリーの『ベートーベンをぶっ飛ばせ Roll Over Beethoven』、アニマルズで知られる『朝日のあたる家』ジャック・ブルースの『想像されたウェスタンのテーマ Theme For An Imaginary Western』なども、レスリーの個性あふれる新しいヴァージョンに生まれ変わっている。

(ちなみに海外ではこの“オフィシャル・ブートレグ”シリーズの第4弾『トロント1976』も発売されており、こちらにはフォリナー結成前のミック・ジョーンズ、そしてカーマイン・アピスをゲストに迎えて盛り上げている)

『5オリジナルズ』と『ガット・ライヴ』、どちらのボックスも満腹感を伴う内容だが、容易に国内ショップで入手出来る日本流通盤、しかもお財布に優しい廉価盤なのも嬉しい。
暑い夏は、さらに暑苦しいレスリーのギターを聴き浸って過ごそう!

■インフォメーション

アルバム『5 Originals』

発売元:BSMF RECORDS
発売日:2021年7月21日
価格:2,970円(税込)
詳細はこちら

アルバム『Got Live』

発売元:BSMF RECORDS
発売日:2021年7月21日
価格:3,520円(税込)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:宇崎竜童さん「ライブで演奏しているとき、もうひとりの宇崎竜童がとなりでダメ出しをするんです」

9555views

音楽ライターの眼

連載9[多様性とジャズ]ドイツ訛りが解き明かす“アメリカという多様性”とジャズ

1277views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

6950views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

15121views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

13021views

オトノ仕事人

最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事

1764views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

18652views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2705views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

10959views

武豊吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人: 地域の人たちの喜ぶ顔を見るために苦しいときも前に進み続ける

1462views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

5867views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24704views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11294views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

13434views

音楽ライターの眼

連載25[ジャズ事始め]ジャズ・メッセンジャーズの初来日が日本のジャズ・シーンの空気感を一変させた

2755views

ホールのクラシック公演を企画して地域の文化に貢献する/音楽学芸員の仕事

オトノ仕事人

アーティストとお客様とをマッチングさせ、コンサートという形で幸福な時間を演出する/音楽学芸員の仕事

11328views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

7940views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

2132views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

21910views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

5033views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

12869views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7177views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28960views