Web音遊人(みゅーじん)

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.5

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.7

ジャズのハードルを意識することになったライヴの3つめは、通常のライヴとはちょっと異なるイヴェントがとても興味深かったので、それを取り上げたい。

それは、日本ルイ・アームストロング協会が第62回例会として開催した「サッチモ『この素晴らしき世界』録音から50年」というイヴェント。

開催日の8月5日は、サッチモことルイ・アームストロングの誕生日の翌日。

毎年8月4日は、サッチモの生地であるニューオーリンズでサマーフェスティヴァルが開催され、日本ルイ・アームストロング協会の会長を務める外山喜雄らも参加していたようだが、今年は諸事情により渡航せず、日本で1日遅れのサッチモにまつわるフェスティヴァル開催と相成った次第。

会場となった東京・神田駿河台のアテネ・フランセ文化センターには、ニューオーリンズに負けないお祝いムードを求めて、サッチモ&ニューオーリンズ・ジャズのファンが詰めかけていた。

今年、つまり2017年は、このイヴェントのタイトルにもあるように、サッチモが代表曲「この素晴らしき世界」をレコーディングしてからちょうど半世紀にあたるのだが、奇しくもジャズがレコードという媒体に記録されて世の中に流布するようになってちょうど100年という節目の年でもあり、ダブルでアニヴァーサリーなタイミング。

そこで特別企画が用意されていた。サッチモの演奏をとらえた“超レアな希少映像”の特集だ。

プログラムは、サッチモが亡くなる1年ほど前の1970年に出演したアメリカのトーク番組で「この素晴らしき世界」を歌う映像でスタートした。

1967年8月にレコーディングされたこの曲は、メイン・ターゲットであったはずのアメリカ市場では当初の反応が弱く、イギリスでのヒットを受けての“逆輸入”という、ちょっと変則的な立ち上がり方を示していた。

さらに、映画「グッドモーニング、ベトナム」(1987年製作)の主題歌として改めて強い印象を与えてリヴァイヴァル・ヒットし、“サッチモの代表曲”としてのポピュラリティを与えられるまでにタイムラグがあった曲なのだ。

オープニングの映像が示していたように、1970年当時のサッチモは、すでに“ジャズのパイオニア”としてのポジションを広く認められており、彼もそれを意識してこのトーク番組のオファーを受けていたことは想像に難くない。

その一方で、ジャズ自体は大きく変化し、サッチモのスタイルを“過去のもの”と扱わざるを得ないような状況になっていた。

<続>

なぜジャズのハードルは下がらないのか?<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」

今月の音遊人

今月の音遊人:大西順子さん「ライブでは、練習で考えたことも悩んだことも全部捨てて自分を解放しています」

11891views

音楽ライターの眼

なぜカプースチンは、東西冷戦のソ連でジャズよりもジャズらしい曲を作れたのか?

8451views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

すぐに音を出せて、自由に演奏できる。管楽器の楽しみを多くの人に

14053views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

41353views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

9588views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7211views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10334views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6814views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

22268views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

10536views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4500views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29679views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

15319views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8357views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.12

3410views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

13861views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

7833views

マーチング

楽器探訪 Anothertake

見て、聴いて、楽しいマーチング

15571views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

22381views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5763views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

10567views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

6652views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25066views