Web音遊人(みゅーじん)

過激でオシャレ!デスコアのすべてがわかる『デスコアガイドブック』刊行

年末年始はメタル漬け20時間!メタリカ『マスター・オブ・パペッツ』豪華BOX

メタリカの『マスター・オブ・パペッツ(邦題:メタル・マスター)』を聴いた。

『マスター・オブ・パペッツ』といえば1986年に発表されたヘヴィ・メタルの歴史的名盤。聴いていて当然、というか聴かないと死んでしまう必聴アルバムゆえ、何を今更……?と思われるかもしれないが、2017年11月に発売された”リマスター・デラックス・ボックス・セット”というと話は別になる。

10CD+3LP+2DVD+1カセット。トータル20時間という空前の超巨編である。すべてを聴き通すには並々ならぬ体力と精神力を要する、消耗戦的な作品だ。メタルの大音量に包まれて、全編を聴き終えたときには、大きな達成感に包まれた。

『マスター・オブ・パペッツ』本編はヘヴィ・メタルを代表する大傑作というだけでなく、ロック音楽における最も密度の濃い55分である。極限まで速いスラッシュ・メタルというスタイルをメインストリームに知らしめた「バッテリー」からエクストリームでドラマチックな展開の「マスター・オブ・パペッツ」、爆走するラストの「ダメージ・インコーレイテッド」まで、凄まじいヘヴィネスとテンションが襲いくる。アルバムが発表されて30年以上が経つが、その衝撃と切れ味はまったく鈍ることがない。

リマスターはいたずらにEQで音をデカくするのではなく、起伏に富んだアルバムのサウンドを生かしたナチュラルなものになっている。

ボックス・セットに収録された音源(大半が未発表)は、メタリカの『マスター・オブ・パペッツ』期を網羅したものだ。アルバム収録曲の初期デモやリハーサル、アウトテイクから発表後のインタビュー、ワールド・ツアーでのライヴ、ベーシストのクリフ・バートンの死を経て、後任となったジェイソン・ニューステッドのオーディション、ジェイソン加入後のライヴまでが収録されている。そのすべてを時系列順に通して聴くと、1985年から1987年初めにかけてのメタリカの激動の時代を疑似体験することが可能だ。

実際のところ、それらの音質/画質は決して高いものではなく、1986年4月のニュージャージー公演や1987年1月のドイツ・エッセン公演はサウンドボードといってもPA直結のような平坦なミックスだったり、不完全収録だったりする。カセットに収録された1986年のストックホルムに至ってはファンがテープレコーダーを持ち込んで盗み録りしたものだ。DVDに収録された1986年11月、名古屋の愛知県勤労会館でのライヴは2階に固定したビデオカメラによるもので、VHS映像をそのままDVD化したようだ。

生のメタリカをそのまま捉えた、オフィシャル・ブートレグ然とした作りは、1987年に発表された映像作品『クリフ・エム・オール』を少なからず意識しているだろう。クリフ・バートンへの追悼作だった『クリフ・エム・オール』と同様、このボックス・セットも彼への想いを込めた作品なのだ。

メタリカのマニアにとっては、細かいディテールも楽しめる。

1986年8月、ヴァージニア州ハンプトン公演はジェイムズ・ヘットフィールドがスケボーでコケて骨折、代役としてカーク・ハメットのギター・テクとしてツアーに同行していたジョン・マーシャル(メタル・チャーチの一員でもあった)がギターを弾いている。ジェイムズはヴォーカルに専念しているせいかMCのトークがやたらと多く、マーシャルのことを”ジョン・スタック”と紹介しているのも面白い(アンプのマーシャル・スタックにちなんでいる)。

カーク・ハメットはMTV向けインタビューで住居について「部屋が2つあれば十分。ひとつはオモチャとコミックス用で、もうひとつで寝る」と語っている。その後、彼のコレクションは膨大な数に増えていき、専用の家屋を建ててしまったほど。しまいには映画の小道具やヴィンテージ物のポスターを含めた写真集『Too Much Horror Business』を刊行してしまったことを考えると感慨深い。

クリフのインタビューは2本収録されているが、両方でR.E.M.を推しているのも興味深い。当時のR.E.M.は『玉手箱』(1985)発表後で、全米チャートでトップ30入りしていたものの、まだスーパースターにはなっていなかった。「R.E.M.というバンドが好きなんだ」と、相手が知らないことを前提に話しているのも時代をうかがわせる。

メタルの大名盤を主軸に、ディテールに至るまでたっぷり楽しめる『マスター・オブ・パペッツ』リマスター・デラックス・ボックス・セット。メタリカ漬けの年末年始も実にめでたいものだ。
なお、『マスター・オブ・パペッツ』本編と未発表音源のハイライトを収めた”リマスター・デラックス”3CDも発売される。

■アルバムインフォメーション

『メタル・マスター(リマスター・デラックス・ボックス・セット)』
メタル・マスター(リマスター・デラックス・ボックス・セット)
発売元:ユニバーサル インターナショナル
発売日:2017年11月22日
料金:30,000円(税抜)全世界完全数量限定/直輸入盤仕様

『メタル・マスター(リマスター・デラックス)』
メタル・マスター(リマスター・デラックス)
発売元:ユニバーサル インターナショナル
発売日:2017年12月20日
料金:3,600円(税抜)3CD

詳細はこちら

■ブックインフォメーション

『メタリカ公式ビジュアルブック バック・トゥ・ザ・フロント』
メタリカ公式ビジュアルブック バック・トゥ・ザ・フロント
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメント
発売日:2017年12月23日
料金:5,000円(税抜)

詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

向谷実

今月の音遊人

今月の音遊人:向谷実さん「音で遊ぶ人!?それ、まさしく僕でしょ!」

16870views

船越清佳

音楽ライターの眼

「音楽があるから世界が美しい」そこを目指すフランスのピアノ指導とは/船越清佳インタビュー

2402views

楽器探訪 Anothertake

存在感がありながら他の楽器となじむシンフォニックなサウンドが光る、Xeno(ゼノ)トロンボーンの最上位モデル

5867views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

22075views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5507views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

9529views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7532views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3402views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12262views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

8251views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8549views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31398views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8997views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

13387views

METライブビューイング

音楽ライターの眼

METライブビューイング 2018‐19シーズン開幕

4167views

オトノ仕事人

音楽をやりたい子どもたちの力になりたい/地域音楽コーディネーターの仕事

9783views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

11227views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

ピアノのエレガントなフォルムを大切にしたデザイン

7466views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12830views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6190views

トロンボーン

楽器のあれこれQ&A

初心者なら知っておきたい、トロンボーンの種類や選び方のポイント

13980views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7138views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26357views