今月の音遊人
今月の音遊人:馬場智章さん 「どういう状況でも常に『音遊人』でありたいと思っています」
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世界観もさまざまに、4人の名手たちが紡ぐギターの音色に酔いしれる/Acoustic Guitar Festival Special Concert Vol.1
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2020.3.3
アコースティック楽器の響きを堪能できるコンサートホールとして親しまれてきた東京・銀座のヤマハホールがリニューアルオープンして、2020年2月に10周年を迎えた。それを記念し開催されたアコースティックギター・フェスティバルには、クラシック、ジャズ、ボサ・ノヴァ、フラメンコのギターの名手たちが顔をそろえた。2日間にわたるスペシャル・コンサートの2020年1月25日(土)の公演の模様をお届けする。
一番手に登場したのはクラシックの大萩康司で、横尾幸弘の「『さくら』の主題による変奏曲」を披露。横尾いわく特殊な奏法を駆使する楽曲だそうで、確かに響きはアコースティックギターでありながら、琴のような雅さも感じられる。それとは一転、ブローウェルの「舞踏礼讃」は、クラシックの洗練された響きの中に、ラテン音楽の情熱も顔をのぞかせるという奥深い演奏で、ホールに集まったギター・ファンを楽しませてくれた。
二番手はパリに留学中の若手クラシック・ギタリスト、秋田勇魚。長い髪をまとめサムライのような風貌で登場した彼は、S.アサドの「アクアレル」を演奏。三楽章で構成され、ワルツやブラジルの民族音楽など多彩な要素をギター一台で奏でるこの曲を、秋田はときに優雅に、ときにはつらつと演奏。“水彩画”という意味のタイトルそのままに、ホールを鮮やかな弦の音色で埋め尽くした。
三番手に登場したジャズの小沼ようすけのステージは、オリジナル曲「Flyway」でスタート。呟くように鳴らされていた弦の音が、次第に色彩とリズムを増してゆくドラマ性にうっとり。続く「The Elements」や「Sea scape」でも、小沼ならではの映像的なサウンドが繰り広げられていく。なによりフィンガーピッキングならではの温かみのある音色が心地よい。繊細な音もしっかりと響かせるヤマハホールだからこそ味わえるのだろう。
この日のトリを飾ったフラメンコの沖仁は、同名映画のテーマ曲として有名な「禁じられた遊び」を披露。おなじみの美しいメロディの中に息づく怒りや悲しみを膨らませた編曲と、感情を乗り移らせた激しいピッキングとストロークに、思わず息を飲む。さらに沖は一番手の大萩と同じ「『さくら』の主題による変奏曲」を演奏。こちらはフラメンコ的な哀愁や情念に溢れていて、同じアコースティックギターでも奏者によってここまで音色や世界観が変わるものなのかと驚嘆。その奥深さに酔いしれてしまった。
四者四様の世界が表現された最後には、出演者全員がステージに登場し、R.ディアンスの「タンゴ・アン・スカイ」を奏でる。同じリズムを刻みながら、各自が独自のソロを披露するのがとても楽しく、まるでギター同士がわいわいと会話をしているかのようだった。
飯島健一〔いいじま・けんいち〕
音楽ライター、編集者。1970年埼玉県生まれ。書店勤務、レコード会社のアルバイトを経て、音楽雑誌『音楽と人』の編集に従事。フリーに転向してからは、Jポップを中心にジャズやクラシック、アニメ音楽のアーティストのインタビューやライヴレポートを執筆。映画や舞台、アートなどの分野の記事執筆も手掛けている。