Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.9

2017年後半にリリースされた気になるデュオ・アルバムの紹介を続けよう。

ジャズとデュオの新たな関係性を考える
楠井五月&ウラジミール・シャフラノフ『楠井五月&ウラジミール・シャフラノフ』

ウラジミール・シャフラノフは、1948年にソ連のレニングラード(現・ロシア・サンクトペテルブルク)で生まれたピアニスト。

1970年代にイスラエル~フィンランドへと移住し、以降は西側で活動を展開する。1980年代にニューヨークへ進出すると、ソ連で鍛えたテクニックとセンスを活かしてトップ・ミュージシャンの仲間入りを果たし、ピアノ・トリオのひとつの“美学”を打ち立てた。

日本でもこうした活動がマニアのあいだで注目され、1990年代になって本格的に紹介されると、一気にオーセンティックなピアノ・ジャズの第一人者的な存在となり、現在に至っている。

その彼が、日本ツアーでの共演者としてお気に入りなのが、1985年生まれのベーシスト、楠井五月。

このアルバム企画もまた、表面的には“胸を借りる”的な構図になっているのだけれど、貸す側のレジェンドが決して“受け身”をとろうとしないところに、デュオの妙味が出ていると言える。

伝統なんてあってないようなものなのがジャズなのだから……というニュアンスがシンプルに伝わってくるのも、デュオだからなのかもしれない。


 

ジャズとデュオの新たな関係性を考える
福田重男&布川俊樹『Old Boys’ Dreams』

福田重男と布川俊樹は、いずれも1980年代から日本のコンテンポラリー・ジャズ・シーンで頭角を現わし、それぞれがリーダーとして独自のサウンドを追求する活動を続けてきた。

“それぞれがリーダー”ということは要するに、「君が左へ行くなら僕は右だね」という関係だったわけだ。

それが2011年、『Childhood’s Dream』というデュオ・アルバムをリリースするまでに接近する。本作はその“第2弾”になるわけだが、それはまた、左右に分かれてひと回りし、再び一緒に音を出すことが“同窓会的なノスタルジー”(これももちろん否定しないが)だけでなく、お互いの異なる道程を総括するだけでもなく、“場”を共有できるという可能性に気づいたからこその“続編”と見ることができる。

つまり、かつては“場”を違えなければ具現できなかった「君が左へ行くなら僕は右だね」が、30年という“時間(とき)”を経て“場”を共有しても具現できるようになったことを意味している。

このアルバム、実は純粋な2人だけの“デュオ”ではなく、バンド編成での曲も収録されている。でもそのバンド・ヴァージョンが“過去分”を背負ってくれているおかげで、2人だけの曲の“未来分”が浮かび上がってくるわけだ。

これも、ジャズのカテゴライズがこの30年で変化し、リスナーだけでなくプレイヤー側にも影響を及ぼしていることを浮き彫りにした実例といえるのではないだろうか。

<続>

▶ジャズとデュオの新たな関係性を考える<全編>

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」

4596views

トッレ・デル・ラーゴにある等身大のプッチーニ像

音楽ライターの眼

フィギュア・スケートの選手たちに愛されるプッチーニの『トゥーランドット』 vol.2

6735views

楽器探訪 Anothertake

ナチュラルな響きと多彩な機能で電子ドラムの可能性を広げる、新たなフラッグシップモデルDTX10/DTX8シリーズ

5076views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1822views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

12224views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

7252views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

13023views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9481views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14626views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

10278views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

8944views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32270views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7834views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20767views

反田恭平 - Web音遊人

音楽ライターの眼

ユニークな個性が演奏に反映し、聴き手の心をわしづかみにする反田恭平のピアニズム

11832views

松石陽介さん

オトノ仕事人

「音楽の輪・人の和」を大切にして、子どもたちを健やかに育てる/地域バンドをまとめる仕事

755views

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う 結成30年のビッグバンド

われら音遊人

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う、結成30年のビッグバンド

10371views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

自宅で一流アーティストのライブが楽しめる自動演奏ピアノ「ディスクラビア エンスパイア」

60644views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7759views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

すべては、あの日の「無料体験レッスン」から始まった

5672views

楽器のあれこれQ&A

ドラムの初心者におすすめの練習方法や手が疲れないコツ

11719views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9481views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26802views