今月の音遊人
今月の音遊人:東儀秀樹さん 「“音で遊ぶ人”といえば僕のことでしょう。どのような楽器の演奏でも、楽しむことだけは忘れません」
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多彩な音色と奥行きのある豊かな音楽表現を紡ぎ出すピアニスト、若林顕。ピアノで表情豊かに歌うために、またオーケストラのような立体的な表現をするために、理想の音楽を追求し、1音の響きに宇宙を宿す若林に、自身のピアニズムについて聞いた。
1987年、弱冠22歳で最難関の国際コンクールのひとつ、「エリザベート王妃国際コンクール」で第2位を受賞し、脚光を浴びた。ソリストとしてはもちろん、国内外の多数のオーケストラと共演し、また世界的な室内楽団や名手たちとも共演を重ねている。妻でもあるバイオリニスト、鈴木理恵子とのデュオ・リサイタルも好評を博し、ブラームス、モーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ」集をリリースするなど、いずれの分野でも作品の本質に迫る鋭い音楽性が高く評価されている。
音楽家としての根幹は、16歳からの3年間に師事した故・田村宏氏によって築かれた。「音楽を邪魔せず、音楽に合わせて弾く」ことを徹底して叩き込まれた。
「そのために必要なことの最たるものが脱力でした。放り投げた物が自然な放物線を描くのは、そこに速度や力といった人為的なものを加えていないから。フレーズのつながりも同じです。よけいな力を加えた自分勝手な音楽は、主張とか自己アピールとは無関係である、と先生はいつもおっしゃっていました。力を抜いて水に浮くかのように、バタバタせずにうまく音楽の波に乗る。考え方としてはそういうことだと思います」
20代後半にさしかかり、室内楽と出会う。そして「未学習ゾーンが広大であることを知り、このままでは限界があると自覚した」という。たとえば世界的クラリネット奏者、カール・ライスターと初共演した時のこと。
「自分では柔らかい音質で弾いているのに『音が固い』、ピアニシモで弾いているのに、『それはメゾフォルテだ』と、全部ダメ出しをされました。確かに、プレイバックを聴いてみると、思っている音と出ている音が一致していない。ライスターさんの情緒あるすばらしい音に比べ、ピアノは滑稽なくらい浮いていました」
音質の種類やバランスなどを改めて勉強し直しながら、集中的に室内楽に取り組んだ。そうした時期にも、繰り返し思い出していたのは、かつて受けた田村先生の指導。それは今もこれからも「ずっと自分のポケットに入っている」と語る。
「ピアノのもつ、弦楽器的、オーケストラ的、声楽的、室内楽的な表現をぜひ味わってほしい」と語る若林。ピアニストとして追求し続けるのは「デュオなら2人、カルテットであれば4人、オーケストラ的な表現をするなら100人の感性を自分の中に持ち、それが能動的にバラバラに動いて音楽としてまとまっていく世界」なのだという。ピアニストには「そういう広さが必要」であり、そこを追求していくことに「醍醐味がある」と語る。
特にベートーヴェンのピアノ・ソナタは、かなりの音がさまざまな楽器に分類できるという。「ベートーヴェン自身も作曲する時に、頭の中でオーケストラの音楽が鳴っていたと思います。ですからシンフォニーのイメージなくして、ベートーヴェンのソナタは絶対に弾けません。ピアノを弾く方たちには、ぜひ、オーケストラをはじめとしたピアノ以外の生のコンサートをたくさん聴いてほしいですね」
2018年6月29日(金)にはドイツ・ロマン派の傑作を集めたリサイタルがヤマハホールで開催される。ブラームス『3つの間奏曲 Op.117』、シューマン『幻想曲 ハ長調 Op.17』など、若林自身若い頃から思い入れがあり、大好きだという曲も演奏。多彩な色あいに満ちた響きが客席を包み込むに違いない。
今後は、自身が「音楽家としてのバロメーター」と位置づけるバッハにも本格的に取り組んでいくという。さらに深く、そして豊かに進化し続ける若林の「常に瑞々しい旬な音楽の世界」に注目し続けたい。
<若林 顕 ピアノ・リサイタル>
日時:2018年6月29日(金)19:00開演(18:30開場)
場所:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14 ヤマハ銀座ビル7F)
料金:5,000円(税込)
曲目:J.ブラームス/3つの間奏曲 Op.117、R.シューマン/幻想曲 ハ長調 Op.17、F.リスト/巡礼の年報 第2年イタリアより、第5曲 ペトラルカのソネット 第104番、第7曲 ダンテを読んで―ソナタ風幻想曲
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