Web音遊人(みゅーじん)

ピンク・フロイド関連映像作品3タイトルがリリース。ステイ・ホームなんて怖くない

2020年、新型コロナウィルスの脅威により、世界のコンサート・ビジネスは大打撃を受けた。国内アーティストに関しては配信や少人数ライヴなど、手探りで可能性が模索されているが、海外アーティストの大会場でのライヴ・スペクタクルを再び体験出来るようになるには、まだ時間がかかりそうだ。
そんな音楽ファンの溜飲を下げるべく、ピンク・フロイド関係の映像作品3タイトルが前後してリリースされた。

ピンク・フロイドはロック・コンサートの可能性を広げたバンドだ。1967年にデビューした彼らはオイル・プロジェクションなどのサイケデリックなステージ・ヴィジュアルで“スウィンギング・ロンドン”を騒がせた。1970年代、ロック産業の巨大化に伴い、彼らのライヴも大規模なものになっていき、ステージ上の円形スクリーンや空を飛ぶ豚やベッド、1979年から1980年の『ザ・ウォール』ツアーでは実際にステージ上に壁を築いてしまうなど、音楽と視覚効果で絶大な支持を得てきた。1973年のアルバム『Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』は世界で5千万枚という空前のヒットを記録しており、2020年にも全英ロック・チャートの上位にランクインしている。

今回リリースされるのは、まず『Delicate Sound Of Thunder(邦題:光〜PERFECT LIVE!)』。1988年のライヴを収録、同年リリースされた映像作品だ。オリジナル35mmフィルムを修復、再編集、リミックス、曲を追加した新ヴァージョンは2019年、ボックス・セット『The Later Years 1987 – 2019』の一部として世に出たが、単独作品として新装盤が出ることになった。ロジャー・ウォーターズがバンドのリーダーシップを取っていた頃は、その時点での最新アルバムのトータル性を重視したライヴを行っていた彼らだが、このライヴでは『A Momentary Lapse Of Reason(邦題:鬱)』を軸としながらも、各アルバムからのクラシックスの数々を交えたベスト選曲のステージを披露。サポート・メンバーを加えたビッグなライヴ・パフォーマンスは、誇張でなく息を呑むものだ。1988年3月には16年ぶりの来日公演も実現。ショーアップされたステージを見せてくれた。

2020年11月20日発売。関連情報はこちら

そしてロジャー・ウォーターズが2017年から2018年に行った“アス・アンド・ゼム”ツアーから2018年6月18〜23日、アムステルダム公演を収めたライヴ映像作品が『アス・アンド・ゼム』だ。近年のロジャーはピンク・フロイド時代のナンバーも積極的に演奏しており、『Dark Side Of The Moon』『Wish You Were Here(邦題:炎〜あなたがここにいてほしい)』『アニマルズ』『ザ・ウォール』からの楽曲もプレイされている。壮大なイルミネーション、『アニマルズ』でおなじみバターシー発電所、“トランプ豚”などが登場、最新ソロ・アルバム『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』(2017)からの『デジャ・ヴ』『ザ・ラスト・レフュジー』も大きな声援で迎えられる。ロジャーのソロ来日公演は2002年のたった1回しか行われていないため、家にいながらにしてこのライヴを体験出来るのが嬉しい。

2020年10月2日発売。関連情報はこちら

ピンク・フロイドのドラマーだったニック・メイスンが自らのバンド、ソーサーフル・オブ・シークレッツを率いて行ったライヴを収めた『ライヴ・アット・ザ・ラウンドハウス』は、より熱心なファンを対象にした作品だ。バンド初期のリーダーだったシド・バレット時代を中心に、1967年から1972年のナンバーをプレイ。『Intersteller Overdrive(邦題:星空のドライブ)』『ルシファー・サム』『ナイルの歌』『Atom Heart Mother(邦題:原子心母)』など、ピンク・フロイドが長年ライヴ演奏してこなかった名曲が次々と演奏される。ちなみに再結成以降のピンク・フロイドと重複するのは『One Of These Days(邦題:吹けよ風、呼べよ嵐)』と『Astronomy Domine(邦題:天の支配)』のみ。あとはロジャーが『Set The Controls For The Heart Of The Sun(邦題:太陽讃歌)』、デヴィッドが『アーノルド・レーン』を演奏したことがあるぐらいで、かなりレアな選曲といえる。

2020年9月18日発売。関連情報はこちら

ニックはバンドのドラマーとしてプレイしており、ヴォーカルを取るのは再結成ピンク・フロイドやカヴァーデイル・ペイジ、ザ・パワー・ステーションなどで活動してきたガイ・プラット(ベース)とスパンダー・バレエのゲイリー・ケンプ(ギター)の2人。歴戦の強者たちを得て、ロンドンのライヴ会場“ラウンドハウス”の屋根が吹き飛びそうな迫力のステージを繰り広げる。
3作いずれもボーナス特典映像を収録。不要不急の外出を差し控えながら、たっぷりピンク・フロイドの音楽に浸ることが出来る。さらに彼らの一連のオフィシャル・アルバム、そして最近再発されたメンバー達のソロ・ワークスがあれば、ステイ・ホームなんて怖くない!

ピンク・フロイド ソニーミュージックオフィシャルサイトはこちら

 

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

Chageさん「心から湧き出てくるものを、シンプルに水のように歌いたい」 Web音遊人

今月の音遊人

今月の音遊人:Chageさん「頭ではなく、心から湧き出てくるものを、シンプルに水のように歌いたい」

10048views

ジャズとロックの関係性

音楽ライターの眼

ジャズにビートルズを溶かし込んだギターとストリングスの魔術~『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』解説

4142views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

スタイリッシュなボディにエレクトーンならではの魅力を凝縮!STAGEA(ステージア)「ELB-02」

14498views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

5180views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17476views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

9369views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12645views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10979views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10314views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5208views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4654views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10311views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4894views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

22887views

音楽ライターの眼

FUJI ROCK FESTIVAL’19開催。多彩な顔ぶれと新しい発見への旅

6345views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

7169views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

874views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

31289views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

6224views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5618views

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ

楽器のあれこれQ&A

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ機種

27361views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10979views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30786views