Web音遊人(みゅーじん)

“深紅のギター”と“深黒のピアノ”が華麗にクロスオーバーするデュオアルバム『Rosso Nero』/木村大・榊原大インタビュー

東京国際ギターコンクールで最年少優勝を果たすなど華々しい経歴を引っさげてデビューして以来、そのあふれる感性と類稀なるテクニックで国内外から脚光を浴びているクラシックギタリスト、木村大。インストゥルメンタル・バンドとして初めてNHK紅白歌合戦に出場するなど多彩な実績を残し、卓越したセンスでオンリーワンの存在感を放つピアニスト、榊原大。注目を集めるふたりの“大”による初のデュオアルバム『Rosso Nero』が2018年6月6日にリリースされた。類まれな才能をもつふたりが、奇跡の融合を果たす──。

最初にラブコールを送ったのは木村だった。2016年にリリースされた木村のアルバム『ECHO』制作の前、木村は客として榊原のライブに足を運んでいた。
「同じ名前ということで、僕が勝手に大さん(榊原)にシンパシーを感じていました。もちろん大さんのアルバムは聴いていたのですが、生の演奏を聴くとあらためてピアノの躍動感やライブを通してのパフォーマンスが本当にかっこよくて。一緒にやれたらなあ、やりたいなあと思い、ライブ後に大さんにお願いしたんです」
オファーを受けた榊原も、早熟な天才クラシックギタリストとして、木村のことは知っていたという。
「面白いことができそうだという予感はありました」
これを機に、榊原が『ECHO』にゲスト参加したことからコラボレーションがスタート。アルバム・ツアーでは、一緒に全国30公演を回った。そして、圧倒的共感を覚えたふたりが今回ゼロから共同で創り、世に送り出したのが『Rosso Nero』。テーマは、ふたりの共通のバッググラウンドであるクラシック音楽だ。

「クラシックの楽曲や作曲家をリスペクトする気持ちを大切にしつつ、ふたり流にアレンジして表現していこうというのが僕らの共通の思いでした」(榊原)
アルバムタイトルのRossoはイタリア語で赤、Neroは黒を意味する。情熱的なギターの調べとピアノの普遍性をそれぞれイメージしている。ヴィヴァルディ『四季』、バッハ『インヴェンション』、ドビュッシー『アラベスク』、アルベニス『アストゥリアス』……。あふれる感性とテクニックで、名曲にふたりの色を乗せていく。そして、真紅と深黒が交わった瞬間、まったく新しい響きが生まれた。その音は繊細さと強さを合わせもち、美しい。「いい仕上がりだと思います」(榊原)、「めちゃくちゃ気に入っています!」(木村)とふたりは胸を張る。
「“推し曲”というわけではないのですが、『アラベスク第1番』がいちばん演奏しがいがありましたね」(榊原)
「僕が印象的なのはスペイン色を抑えてモダンに仕上げた『アストゥリアス』と、やはり『アラベスク』です。『アラベスク』はピアノとギターが融合した瞬間を感じましたし、繊細さと優美な美しさをもつ作品になったと思います」(木村)
ふたりの書き下ろしによる楽曲も一曲ずつ収録され、それがフックとなりアルバムを一篇のドラマに仕立てている。

木村大 榊原大

2018年7月からデュオアルバム発売記念ツアーも始まり、翌年1月にかけて全国各地で公演が行われる。アルバム収録曲を中心に演奏される予定だが、さらに磨き上げた音を聴かせてくれそうだ。
「納得のいくアルバムを発表したのですが、これはひとつの通過点だと思っています。ですから、ツアーのときにはアルバム制作時より進化しているのは間違いないです。アルバムを制作してツアーを行う過程を、僕たち自身も楽しんでいきたいです」
木村はそう自信をのぞかせる。榊原もぜひ生で聴いてほしいと語る。
「やっぱり音楽はライブだと思っています。コンサートではアルバムの曲をふたりで真っ直ぐやって、しゃべって。コンサートが終わったときに、聴いてくださった方の心に何かを残すことができればな、と。もちろん、それは僕らの人間力と音楽力次第ですけれど。CDでも音楽を通じて人間性は伝わるとは思うのですが、コンサートではふたりでしゃべりますし、音の会話をしている様子も空気を伝って感じられると思います」
想像を凌駕する響きとハーモニーをCDで、そしてコンサートでぜひ感じてみてほしい。


木村大×榊原大『Asturias』(アルバム『Rosso Nero』より)MV


※榊原大さんの「榊」は、正しくは「ネ」ではなく「示」です。

■アルバムインフォメーション

『Rosso Nero』

発売元:キングレコード
発売日:2018年6月6日
価格:3,000円(税抜)
詳細はこちら

■木村大×榊原大 デュオアルバム『Rosso Nero』発売記念ツアー

2018年8月24日(金)デサフィナード(和歌山)
2018年8月25日(土)鈴鹿・どじはうす(三重)
2018年10月18日(木)浜離宮朝日ホール(東京)
2018年10月19日(金)金沢市アートホール(石川)
2018年11月27日(火)札幌コンサートホールKitara小ホール(北海道)
2019年1月19日(土)岡山シンフォニーホールイベントホール(岡山)
2019年1月20日(日)三原市芸術文化センターポポロホワイエ(広島)

 

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