今月の音遊人
今月の音遊人:川井郁子さん「私にとっての“いい音楽”とは、別世界へ気持ちを運んでくれる翼です」
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多くの演奏家から圧倒的な支持を得たベストセラー/『成功する音楽家の新習慣』
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2019.6.21
tagged: ブックレビュー, 成功する音楽家の新習, ジェラルド・クリックスタイン
ピアノをはじめとする器楽や声楽のレッスンの多くは、演奏法や音楽表現の指導が中心。しかし、「自分に合う効果的な練習の組み立て方」「人前での演奏に自信をつける方法」「練習意欲を維持するコツ」といった、音楽そのものとは少し離れた悩みや疑問は、先生には相談しにくいもの。そうした「自分で対処したい課題」を解決し、音楽性を高めるために役立つのが『成功する音楽家の新習慣』だ。
著者は、演奏家・教育者として30年以上のキャリアを持つジェラルド・クリックスタイン。総合的なアプローチで音楽の力を伸ばす指導方法によって国際的に注目された人物だ。最新の研究成果と経験に基づく洞察を盛り込んだ本書は、2009年にオックスフォード大学出版局によって刊行され、多くの演奏家から圧倒的な支持を得たベストセラー。より効果を上げる練習方法、暗譜対策といった具体的なアドバイスから、身体的な故障を回避する方法、演奏のコントロールができなくなるジストニアのメカニズムやメンタルケアまで、レッスンではあまり触れられないポイントが、「練習上手になるには」(第Ⅰ部)、「恐れず演奏する」(第Ⅱ部)、「音楽家であり続けるために」(第Ⅲ部)の3部にまとめられている。
たとえば練習について。まず、「練習とは何か」を読者に問いかけ、それは「意識的で創造性に溢れたプロセスであり、苦行であってはならない」と説く。そして、練習環境の整え方、理にかなった練習計画の立て方などを提言。レパートリーを広げるための新曲の選び方にも言及している点が興味深い。
また第Ⅱ部では、本番での演奏不安を取り除いて自信を養う方法、本番に向けた準備の仕方、「パフォーミング・アーティスト」になるためのポイントなどを解説。自分の進歩を評価する指標や本番に向けた練習スケジュールの立て方などは、入学試験や大学の定期試験に臨む際にも心強い味方となりそうだ。
第Ⅲ部は演奏を続ける上で必須となる「自己管理」。身体のケアについて探り、故障を寄せつけない習慣を解き明かす。「身体の限界を尊重し、音楽への情熱を日々新たにし、困難に直面してもひるまずに受け入れ」(本書より)、内面の気づきを身につけようと促す。そのために、身体の構造や特性を知った上で自分に合うレパートリーや楽器を選ぶこと、そして見落としがちな楽器の調整の重要性も強調する。
本書の特徴は、読者が「わかっているつもりでいること」をあぶり出し、自分と向き合うためのテーマを分析していること。豊かな創造性を育むには、漠然と気の向くままに練習するのではなく、日常の習慣を論理的に見直すことが大切だと深く納得できる。音楽を専門的に学ぶ人はもちろん、一般の音楽愛好家にも大いに役立つガイドブック。日頃からそばに置き、自分に必要なテーマを抜き出して読むこともできる実践的な書だ。
『成功する音楽家の新習慣』
著者:ジェラルド・クリックスタイン
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2018年9月22日
価格:2,800円(税抜)