Web音遊人(みゅーじん)

誰もが奏でたい「生きている音楽」その正体を精神科医が解き明かす/『本物の思考力を磨くための音楽学 ~「本質を見抜く力」は「感動」から作られる~』

「生きている音楽」と聞いて何をイメージするだろう。それはどのような音楽だろうか。
これまで、音楽の視点でしか語られてこなかったこの問いに、精神科医があらゆる角度から答えを出したのが、最新刊『本物の思考力を磨くための音楽学』だ。

3歳からピアノを始め、中学校では吹奏楽部で作・編曲も手がけたという著者、泉谷閑示。秋田の豊かな自然に囲まれて育ち、クラシックだけでなく、耳から覚えた曲を弾いて楽しむ子ども時代を過ごした。「音楽は圧倒的に面白かったし、いちばんやりたかったこと」と語る。医師になってからパリ・エコールノルマル音楽院に留学するほど、音楽への深い探究心は尽きることがない。

多くの臨床経験から、「『心』と『身体』はイコールで結べるほど深くつながっていて、どちらも自然原理によって動いている。ところが、コンピュータ的な情報処理などの非自然原理で動く『頭』が発達し、『心=身体』をコントロールしようとするあまり、葛藤や抑圧が生じてしまう」という考えを導き出した。これは音楽の本質を考えるうえでも根幹となるテーマ。人のさまざまな問題は、「ほぼ『頭』で起こっているのです」と泉谷は言う。そんな今だからこそ、「心=身体」に反応する「生きている音楽」が求められている。「生きている音楽」とは何かを知るための、ひとつのヒントが本書に登場する。それはメトロノームの音。泉谷は「『心=身体』はそのような非自然な反復には反応しません。メトロノームに従ったような演奏が、音楽的経験を引き起こさないのはそのためです」と綴っている。そして、「現代人にとって音楽はどんな意味を持つか」「人はなぜ音楽を必要とするのか」と章を展開することで、「生きている音楽」の正体を解き明かしていく。

では、「生きている音楽」を奏でられるのはどんな人なのか?その代表とも言えるのが、まだ〝頭でっかち?になっていない子ども。そのため、子どもと音楽の出会いに関わる指導者には、「技術的なことではなく、いちばん大事なことは何かを伝えてほしい」と語る。「メソッドを教え込もうとするのではなく、もっとやりたい、もっと知りたいというモチベーションを高めてあげたい。ですから『教える』とは思わないほうがいいのです。見よう見まねでバンドを始めた若者は、やるなと言われても練習するでしょう?あの情熱が『生きている音楽』をつくる源なのです」

音楽を核とした多彩なアプローチによって、「生きている音楽」への意識を高め、思考力を磨いてくれる本書。指導者はもちろん、演奏家、さらには子育て中の人や音楽愛好家に、ぜひ読んでほしい一冊だ。

■インフォメーション

『本物の思考力を磨くための音楽学~「本質を見抜く力」は「感動」から作られる~』
著者:泉谷 閑示
発売日:2019年6月23日
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:1,600円(税抜)
詳細はこちら

 

泉谷閑示(いずみや・かんじ)

精神科医、思想家、作曲家。東北大学医学部卒業。大学時代に音楽理論や作曲法の個人教授を受ける。東京医科歯科大学医学部附属病院、神経研究所附属晴和病院等に勤務の後、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。『「心=身体」の声を聴く』(青灯社)など著書多数。臨床経験から導き出した「頭/心=身体」という人間理解に基づき、薬物を用いない精神療法を行っている。現在、泉谷クリニック(東京・広尾)院長

特集

亀井聖矢

今月の音遊人

今月の音遊人:亀井聖矢さん「音楽は感情を具現化したもの。だからこそ嘘をつけません」

3203views

音楽ライターの眼

ホワイトスネイクが新編成ベスト三部作の完結編『ザ・ブルース・アルバム』を発表

3225views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11967views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

113614views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

7910views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

7208views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

6844views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5610views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10358views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

11013views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7252views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26117views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7462views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10358views

クラシック名曲 ポップにシン・発見

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase1)ベートーヴェン「25のスコットランド民謡Op.108」楽聖が編曲した英語のフォークソング、コールドプレイを予感

1936views

コレペティトゥーアのお仕事

オトノ仕事人

高い演奏技術と幅広い知識で歌手の表現力を引き出す/コレペティトゥーアの仕事(前編)

20302views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

8218views

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

楽器探訪 Anothertake

赤ラベルが再現!ヤマハギター50周年記念モデル

11736views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12690views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5786views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

113614views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3295views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views