Web音遊人(みゅーじん)

大切にしてきた一曲一曲を熱い心で歌う/紙ふうせんインタビュー

1969年に結成され、『竹田の子守唄/翼をください』で大ヒットしたフォークグループ「赤い鳥」。解散後は後藤悦治郎・平山泰代のふたりで「紙ふうせん」をスタートさせ、唯一無二のフォーク・デュオとして多くのファンに支持されてきた。

2006年から毎年開催しているリサイタル「なつかしい未来」も、2019年で14回目。息の長い活動を続けるふたりだが、2019年は「紙ふうせん」結成45周年、「赤い鳥」から50年を記念し、5年ぶりに東京公演を開催する。

今回の記念リサイタルでは、デビュー前からふたりで追い求め、掘り起こし、歌い続けてきた伝承歌の数々が披露される予定だ。

日本のフォークソングを歌いたい──そんな思いから伝承歌に惹かれたのは彼らがまだ大学生だったころ。ギターとごついテープレコーダーを抱えて高知県・梼原町に足を運び、田畑での仕事歌を取材した。デビュー後も『竹田の子守唄』のルーツを求め、ついに原曲に出合えたことも。ふたりが強い思い入れを持ち、長年にわたって集めてきた伝承歌は数知れない。

「今歌っておかなければ、歌い手さんが消えて、それとともに歌も消えてしまいます。せめて、私たちがレパートリーにしたものを歌い継いでいってほしいという気持ちはあります」

ハートフルな声で伝承歌を歌い上げてきた平山はそう話す。後藤も同じ気持ちだ。

「伝承歌の多くは仕事歌。一番まで歌ったらこれだけの工程が出来る。そんな仕事の段取りを決める歌でもあるんです。だから、機械化されてしまったことで、その歌はどんどんなくなっています」

そうした伝承歌を彼らの解釈で、時代の音とリズムでアレンジした楽曲は「紙ふうせん」ならではの魅力だ。今回の演奏予定曲のひとつ『もうっこ』は、青森県に伝わる伝承歌だが、ゲストミュージシャンとのアンサンブルで届けるそう。

「サラサーテなどヨーロッパのロマン派の音楽とぶつけたアレンジです」(後藤)というから、期待が高まる。

もちろん、名曲中の名曲『翼をください』も披露。1971年の発表以来、世代を超えて歌い継がれ、知らない人はいないこの曲だが、実はこの歌の本当の意味や深さを知ったのは、阪神淡路大震災のときだったという。自身も兵庫県で被災したふたりが、被災地でコンサートを行ったときのことだった。

「『翼をください』に“悲しみなどない自由な空へ”というような歌詞がありますが、そのようなものはこの世にないのだと被災したときに初めてわかりました。そして、天変地異の大変なときに歌えるこの歌の深さ、すごさを知ったんです。胸にストーンと落ちるものがありました。それで、聴きたいという人がおったら、その人に向かって歌い続けることの大切さを理屈抜きで肌で感じたというか。それをきっかけに、まだまだ歌っていかなければならない歌だなと思いましたね」(後藤)

さらに、紛争下のボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボで俳句と出会い、一気に出来上がったという『虹』、「赤い鳥」時代の楽曲である『美しい星』『フィランディア』などなど。「赤い鳥」時代から「紙ふうせん」の現在まで、ふたりの熱い思いがぎっしり詰まったリサイタルになりそうだ。

「『紙ふうせん』45年、『赤い鳥』50年の歩みと会場に来てくださった方の50年、45年の歩み、そしていろいろな思い……それを会場一体となって人の声で大合唱できたらいいなと思います」(平山)

「同じ曲を何回も歌うのを嫌がる人もシンガーも多いですよね。僕らはそうじゃく同じ曲を毎回、毎年やり続けている。でもお前ら、また同じことをやっているのかというお客様はいないんですよ。本当に長いことつきおうてくれてはるみなさんに、今回はこういう形で歌わせてもらいますという気持ちですね」(後藤)

大切にしてきた一曲一曲に心を重ねて耳を傾け、そして一緒に歌うひと時を謳歌したい。


よみうり大手町ホールで記念コンサートを開催する紙ふうせんのお二人からのメッセージ

■紙ふうせん45周年 赤い鳥から50周年記念リサイタル

日時:2019年12月1日(日)17:30開演(17:00開場)
会場:よみうり大手町ホール(東京都千代田区大手町1-7-1)
料金:全席指定 6,500円(税込)
出演:紙ふうせん(後藤悦治郎、平山奏代)
詳細はこちら

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」

2721views

ザ・ダークネス

音楽ライターの眼

ギター不況を吹っ飛ばすライヴ・アルバム/ザ・ダークネス『ライヴ・アット・ハマースミス』

4547views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

21232views

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

楽器のあれこれQ&A

ピアノやエレクトーンを本番で演奏する時の靴選び

43953views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

10830views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

7513views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

6527views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

5795views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

26051views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブルを大切に奏でる皆が歌って踊れるハードロック!

4023views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

4958views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

22685views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

10222views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

17069views

音楽ライターの眼

2020年代にブルースを受け継ぐ男。ジョー・ルイス・ウォーカーが『ブルース・カミン・オン』を発表

2507views

ホールのクラシック公演を企画して地域の文化に貢献する/音楽学芸員の仕事

オトノ仕事人

アーティストとお客様とをマッチングさせ、コンサートという形で幸福な時間を演出する/音楽学芸員の仕事

9964views

われら音遊人

われら音遊人:みんなの灯をひとつに集め、大きく照らす

4654views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

7616views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

10725views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

4142views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

59609views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

1767views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

22685views