今月の音遊人
今月の音遊人:﨑谷直人さん「突き詰めたその先にこそ“遊び”はあると思います」
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J・シュトラウス2世の《美しく青きドナウ》は、オーストリアの第2国歌のような存在
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2017.5.25
tagged: クラシック, ピアニスト, シューマン, リリース, 作曲家, リチャード・グード, ブラームス, 音楽ライターの眼
ウィーンの音楽といえばオペレッタ(喜歌劇)とワルツ。ワルツといえば「ワルツの父」といわれる父ヨハン・シュトラウス1世、「ワルツ王」と呼ばれる息子ヨハン・シュトラウス2世をはじめとするシュトラウス一家が有名だ。
シュトラウス2世はウィーン市立公園に立っている、エドムント・ヘルマー制作によるヴァイオリンを弾いている像でおなじみ。「ワルツ王」の名が示すように、500曲を超えるワルツやポルカなどを残している。
これらはウィーンを代表する作品であり、毎年恒例のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでも、シュトラウス一家の作品がメイン・プログラムとして選ばれることが多い。
特に有名なのは、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでアンコールの定番となっている「美しく青きドナウ」。これはシュトラウス2世の代表作といわれ、プロシアとの戦いに敗れた祖国を元気づけようと、彼が1867年にウィーン男声合唱協会の依頼を受けて書いたものである。それゆえ、最初は男声合唱によってうたわれ、のちに管弦楽版が作られた。
現在では、オーストリアの第2国歌といわれるほど国民に親しまれ、ウィーンっ子はこれを聴かないと新年が始まらないという。
ともすると市内を流れている川をドナウ川とまちがえがちだが、これはドナウ運河。川は市の外側を流れている幅広い流れなのでおまちがえなきよう。ただし、指揮者のブルーノ・ワルターが「ドナウ川が青いのはシュトラウスのワルツのなかだけだ」といったように、いまでは澄んだ青々とした流れは期待できない。
ヨハン・シュトラウス2世は、1825年10月25日ウィーンに生まれた。幼いころから楽才を示したが、父親は彼が音楽家になることに反対、銀行員になることを勧める。それゆえ、シュトラウス2世は父に隠れてヴァイオリンと作曲を習っていた。
1842年に父母が離婚、シュトラウス2世に反対する人はいなくなり、彼は2年後に自分のオーケストラを結成。1849年には父親が他界したため、そのオーケストラを合併し、指揮者、作曲家としての階段を一気に駆け上がり、父を超える人気をもつ音楽家となっていく。1851年には海外公演も行い、1862年には歌手のイエッティ・トレフツと結婚、充実した日々を送る。
シュトラウス2世が次々と世に送り出したワルツやポルカは、踊ることができるように書かれているとはいえ、初演はいずれもコンサート形式で行われている。やがて弟のヨーゼフとエドゥアルトにオーケストラの運営を任せた彼は作曲に専念、「美しく青きドナウ」「ウィーンの森の物語」「南国のばら」「皇帝円舞曲」「ピッツィカート・ポルカ」などの名曲を次々に生み出していく。
45歳ころからはオペレッタの作曲もスタートし、「こうもり」「ジプシー男爵」「ヴェネツィアの一夜」などの代表作を書いている。
ウィーンの地下鉄のNESTROY-PLATZ駅の近くに、シュトラウス2世が1863年から1870年まで暮らした家が残されている(2.Praterstrasse54)。ここは記念館として見学可能で、外観は堂々たる石造りの建物。内部はシュトラウス2世の使用していた家具や楽器、写真、肖像画、彫刻、楽譜、手紙、資料などが多数展示されていて、興味深い。この家では「美しく青きドナウ」が作曲されている。
もっとも印象深いのは仕事机。シュトラウス2世は立って作曲することを好んだそうで、机は立ち姿で書けるような高さである。そして楽器ケースには、愛用のヴァイオリンが保管されている。
作曲家の家というと、近年はメカニズムの発達により非常に現代的に変えられ、当時をしのぶことが困難な場合が多いが、このシュトラウス2世の家は作曲家が生きた時代をほうふつとさせる空気がただよい、どこからか「美しく青きドナウ」の調べが聴こえてきそうな雰囲気を醸し出している。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー