Web音遊人(みゅーじん)

人類がなぜギターという楽器を愛してきたのか、その理由を垣間見た/Acoustic Guitar Festival LIVE -Yamaha Acoustic Mind 2020 Ginza Special Vol.2-

芳醇で鮮烈、時に甘く、そして力強い。ヤマハ銀座ビルの10周年を記念して開かれた「Acoustic Guitar Festival」(2020年1月24~26日)の最終日。最後に行われた「LIVE -Yamaha Acoustic Mind 2020 Ginza Special Vol.2-」は、アコースティックギターや弾き語りの魅力が余すところなく発揮された公演だった。

ギターの歴史は8世紀ごろにさかのぼるというが、躍動感あふれる演奏を聴いて、この楽器を人類が進化させてきた理由がなんとなく飲み込めた。豊かな響きに惹かれるのはもちろんだが、手軽に扱えることも魅力の一つだろう。演奏しながらステージ上を歩き回ることができるし、何よりも弾きながら歌える。サクソフォンでは歌えない。ピアノは歌えるが動き回れない。旋律や音色にじっと耳を傾ける静的な演奏でも、抜群の表現力がある。

ライブは午後5時に始まった。チケットはソールドアウト。出演アーティストは、ISEKI、磯貝サイモン、瀬川あやか、徳岡慶也と三浦拓也のインストデュオ「DEPAPEPE」といういずれも独自の音楽観で熱狂的なファンを獲得してきた面々だ。

「トップバッターは私だ!」。瀬川が観客約100人の前に登場すると、元気に声を張り上げた。ギターをかき鳴らしながら、ハリのある伸びやかな声で『おおきなラメ光る爪に星』を歌いだす。

音響の良さで知られる会場の「ヤマハ銀座スタジオ」(ヤマハ銀座ビルB2F)は、天井が高さ約6m、広さ13m×9.45mというコンパクトな空間。客席最後尾からステージまでは8mもない。それが、瀬川の圧倒的な声量で満たされ、一層親密な空間へと転化する。瀬川が客席に語りかけた。「いま熱いんですけど」。この時間帯の都心の気温は6℃未満。真冬の寒い一日だが、会場は汗ばむほどの熱気だ。

次はDEPAPEPEの2人だ。今回の公演は、アコースティックギターがテーマ。特に、彼らの演奏に歌は入らない。優しい弦の響きが、周囲の空気をやわらかく変えていく。トークで三浦が「シンガーが歌っているのをギターで弾いている、そんな気持ちで演奏しています。静かに聴かなくてもよいですよ」。三浦に促され、4曲目の『FLOW』からは軽快な曲調にあわせ、観客の手拍子が会場を包んだ。

3組目の磯貝は、パワフルな音の世界へと観客を誘う。1曲目の『ほくろときみのラブストーリー』ではハーモニカを交えて歌い、他の曲ではキック音も入れるなど多彩な表現で魅了する。演奏の合間には「磯貝サイモンは本名です。父親が(サイモン&ガーファンクルの)ポール・サイモンが大好きで。子供のころは大変な苦労をしまして(笑)」と自己紹介。そして、最後の『暗闇にセイハロー』を披露する際、次の出番のISEKIをステージに呼び込んで一緒に歌うエンターテイナーぶりで会場を沸かせた。

トリを務めたISEKIの歌と演奏を一言で表現すると「男の色気」だろうか。とにかく、声もギターも強く音量が大きいのに、艶やかに伝わってくる。1曲目の『Parade』から2020年1月22日リリースの『ハレルヤ』までの5曲を、感情をたっぷり込めて歌い上げた。

圧巻は、出演者全員によるセッション。ISEKIが出演者を一人一人呼び出し、紹介していく。「このメンバーで夏曲を歌います。夏を感じたいですか!」。そうISEKIが呼び掛けて歌いだしたのが、かつて活動していたユニット「キマグレン」の大ヒット曲『LIFE』だった。「ハーイエ、イエイエイエ!」。出演者と観客の声が重なり、一体感が醸成されていく。

全22曲で午後7時終演予定が1時間もオーバー。ギターの力強い響きと熱い歌声の余韻が心地よい。ヤマハのギターを使っている出演者たちからは「ヤマハ愛」が何度も語られた。寒風が吹く銀座の街に出たあとも、身体に温もりが残る感動的なライブだった。

堀晃和(ほり・あきかず)
ライター&エディター/1968年生まれ。記者歴27年、元産経新聞文化部長。新聞社時代は、主に文化部で文化全般を担当し、2019年11月末で退社した。映画と音楽と酒文化が守備範囲。アナログレコードやカセットテープも聴くオーディオファン。2020年1月からは「ぴあ」の水先案内人として映画評を執筆している。

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:下野竜也さん「自分を楽しく表現できれば、誰でも『音で遊ぶ人』になれると思います」

2761views

音楽ライターの眼

『スター・トレック』のカーク船長がブルース・アルバムを発表!?ウィリアム・シャトナー『The Blues』

3042views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

4489views

日ごろからできるピアノのお手入れ

楽器のあれこれQ&A

日ごろからできるピアノのお手入れ

64640views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

7715views

オトノ仕事人

最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事

1972views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

14264views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2970views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10056views

Red Pumps BIGBAND

われら音遊人

われら音遊人:出自がさまざまなメンバーと、誰もが楽しめる音楽をビッグバンドで

567views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

4531views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25170views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4554views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

19590views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#018 ブルースをアフリカンな“縛り”から解放した革命のギター~ウェス・モンゴメリー『インクレディブル・ジャズ・ギター』編

1179views

オトノ仕事人

歌、芝居、踊りを音楽でひとつに束ねる司令塔/ミュージカル指揮者・音楽監督の仕事

2918views

Red Pumps BIGBAND

われら音遊人

われら音遊人:出自がさまざまなメンバーと、誰もが楽しめる音楽をビッグバンドで

567views

ピアニカ

楽器探訪 Anothertake

ピアニカで音楽好きの子どもを育てる

14131views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

13620views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8165views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

21305views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

10745views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25170views