今月の音遊人
今月の音遊人:中川晃教さん「『音遊人』のイメージは、雲を突き抜けて、限りなくキレイな空の中、音で遊んでいる人」
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没後100年の巨匠に捧げた寸分の隙もない妙技と新境地の数々/カリスマ・バイオリニスト、石田泰尚×10人のヴィルトゥオーゾによるアンサンブル『動物の謝肉祭』
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2021.12.23
2021年は近代フランスの巨匠サン=サーンス(1835~1921)の没後100年。J.S.バッハやベートーヴェンなどのドイツ人作曲家に影響を受けた彼の精密かつ明晰な作風は、母国のエレガントな音楽とマリアージュすることで唯一無二の傑作を数多く生み出すことに成功した。そんな業績を顕彰する注目の公演を聴いた。
主宰者は、バイオリニストの石田泰尚。神奈川フィルや京都市響のコンサートマスターを務め、現在は自身の弦楽アンサンブル「石田組」などでも輝くカリスマだ。今回はそんな彼が信頼を寄せる10人の名手と共に4つの作品を披露してくれた。
前半の幕開けは、石田&安宅薫(ピアノ)の『死の舞踏』。詩人カザリスの幻想的な詩を題材にした交響詩で、真夜中に始まった骸骨たちの舞踏会が次第に盛り上がるも、暁の鶏の鳴き声が響くと墓穴に逃げ去る様子が描かれている。石田はこの夜、実によく弾き込んだと思われる冷徹な妙技を展開。緩急をさほどつけず、一気呵成に駆け抜ける死神には凄みがあり、この作品の恐ろしさに新たな角度から迫ることに成功していたと思う。
続くクラリネット・ソナタは、名古屋フィルの首席クラリネット奏者ロバート・ボルショスと石岡久乃(ピアノ)のデュオだったが、こちらも知的で見通しのよい解釈が秀逸。4つの楽章に自分の人生を重ねたと言われる最晩年の傑作を、深く澄んだ音色とキメ細やかな超絶技巧で一筆書きのように描き切り、終演後のコメントで、「生涯吹き続けていきたい」と語っていたのも印象的だった。
この後、前半最後に演奏されたのが、石田、塩田脩(バイオリン)、中村洋乃理(ビオラ)、西谷牧人(チェロ)の「石田組」メンバーが弾く弦楽四重奏曲第1番。演奏機会が稀で、石田たちも今回が初演奏とのことだったが、実演は長年愛奏してきたような充実の極み。大バイオリニストのイザイに捧げられたこともあり、第1バイオリンが全編に渡り活躍するのが特徴だが、彼らはソロと伴奏の協奏曲ではなく、あくまでも4人が対等に対話する室内楽として織り上げてみせる。結果として、作品の魅力である後期ロマン派的な耽美的な情緒と、ドイツ風の骨太な骨格がみごとに浮かび上がっていたのが素晴らしかった。
そして、休憩を挟んだ後半にトリを飾ったのが、上記6人に米長幸一(コントラバス)、瀧本美織(フルート)、服部恵(グロッケンシュピール)、関聡(シロフォン)を加えた組曲『動物の謝肉祭』。私的演奏会のために書かれた全14曲からなるが、大半がパロディだったことから、作曲者の生前には第13曲『白鳥』以外の演奏が許されなかったという。この夜の10人は名手揃いだったこともあり、各曲のウイットやユーモアに絶妙なバランス感覚でスポットライトをあててゆく。中でも、最大のパロディである第12曲『化石』から、エレガントな『白鳥』、第14曲『終曲』の大団円へと繋げていく際の序破急が圧巻で、満場の聴き手が「これぞ石田節!」と唸らずにはいられない、寸分の隙もない切れ味と充実のひとときに酔いしれていた。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Ayumi Kakamu
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