Web音遊人(みゅーじん)

今だから歌えるようになった歌もあるし、歌いたい歌はまだまだいっぱい/渡辺真知子インタビュー

元号が令和に変わって迎えた最初の新年。渡辺真知子の『唇よ、熱く君を語れ』のカバーソングが化粧品会社のコマーシャルソングとしてテレビで流れ、オリジナルを知るファンのみならず、カバーソングで初めてこの曲を聴いた若い世代の間でも大きな話題となった。令和の時代に、テレビから流れる昭和の曲に人々が心を動かされたのだ。
「元気になりたいという気持ちがみなさんの中にあって、曲と合ったんでしょうね。私も自分の歌を今の時代に即した形にしたいと思っていたので、とても嬉しく感じました」と、渡辺は喜びを語る。
渡辺真知子が自ら作詞・作曲をした『迷い道』でデビューしたのは1977年。プロの作詞・作曲による歌謡曲が全盛の一方で、自ら曲を作って歌うシンガーソングライターの存在も注目されだしていた時代だ。
「高校生の頃から見よう見まねで曲を作り始めていました。デビューが決まって、プロとしてどういう歌を歌っていきたいかを考え、人の喜怒哀楽や心の機微を歌っていこうと作ったのが『迷い道』です。アレンジの船山基紀さんに『泣き笑いの歌ですので、サーカスのピエロのイメージです』とお伝えしたら、素晴らしいアレンジをしてくださいました」
特徴的なイントロも奏功し、『迷い道』はレコード売り上げのチャート上位に入るヒットとなった。続く2曲目の『かもめが翔んだ日』ではプロの作詞家がついた。
「曲作りに比べて詞を書くのは得意ではなかったので、2曲目にしてもうプロのかたに作ってもらえるのかと嬉しくて。詞を読んだその場でほとんどメロディができたくらいです」
1978年の日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞した『かもめが翔んだ日』以降も次々とヒットを連発。当時、テレビ出演を断るシンガーソングライターが多くいる中、歌謡番組にも出演し、その存在を印象づけた。
「あの頃は、NHK紅白歌合戦などの歌番組を家族で一緒に見ていたんですよね。子どもからおじいちゃんまで、みんなで同じ曲を楽しんでいた時代でした」

30代に入った頃から新たな世界にも目を向けるようになった。それがジャズだ。
「(ビッグバンドの)東京ユニオンの高橋達也さんが『その声なぁ、ジャズも歌ってくれないかなぁ』とおっしゃって、ジャズの番組に紹介してくださったり、ライブでちょっと歌わせていただいたりと、少しずつジャズの世界へ導いてくださったんです。ジャズの師匠のような存在です」
自身のコンサートでもオリジナル曲をジャズアレンジで歌うなど、ジャズとの接点を持ち続け、2013年にはジャズ・ラテンのアルバム『Amor Jazz』を、続いて14年に『Amor Jazz2〜show-WA〜』、19年に『Amor Jazz3〜愛しのBIG BAND〜』をリリースしている。今や渡辺にとってジャズ・ラテンは音楽活動の軸足の一つといえるだろう。
「ジャズ・ラテンのアルバムは、最初の2枚はインディーズレーベルでしたが、無我夢中で形にしてきたことを認めていただき3枚目はメジャーレーベルから出すことができました。さらに、2020年7月にはニューアルバム『明日へ』をリリースします」

『明日へ』は、アレンジを変えた新録音の作品と、2019年に行ったオリジナル楽曲のみのコンサートのライブ音源を合わせた2枚組のアルバムだ。先述の『唇よ、熱く君を語れ』も、自らの声で140チャンネル以上を使った多重録音で収録。長年のファンはもちろん、新しいファンにも歌手・渡辺真知子のパワフルな歌声をたっぷりと届ける内容だ。
「皆さんにエールを送るアルバムになるといいなと思っています。新録音のほうは、尺八、ピアノ、チェロのトリオ『KOBUDO -古武道-』の3人や、ピアニストの榊原大さん、そして、私のコンサートでもいつもご一緒させていただいている光田健一さん、石塚まみさんなどに編曲をお願いし、ジャンルの枠を越えた歌をお届けします。50歳を過ぎた頃から自分の理想の声質になってきて、ようやく人生の機微を歌えるようになったかな。今だから歌えるようになった歌もあるし、歌いたい歌はまだまだいっぱい。今の時代に合った歌を届けていきたいと思います」
デビューから40年あまり、ポップスやジャズ、ラテンと、幅広いジャンルで“歌に込めた思い”を表現してきた。かつて「ビタミン・ボイス」と称された歌声は還暦を迎えてさらに熟成され、声と楽曲の力で元気と勇気を届け続けてくれる。

■アルバムインフォメーション

『明日へ』

発売元:ソニー・ミュージックダイレクト
発売予定日:2020年7月8日(水)
価格:4,000円(税抜)
詳細はこちら

■コンサートインフォメーション

『唇よ、熱く君を語れ2020 渡辺真知子コンサート~明日へ~』
日時:2020年11月1日(日)16:00開演
会場:東京国際フォーラム ホールC
料金:1、2階席7,700円/3階席6,600円(税込)
お問い合わせ:キャピタルヴィレッジ/電話03-3478-9999(平日11:00〜18:00)
その他の公演情報はオフィシャルサイトでご確認ください。

渡辺真知子オフィシャルサイト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:挾間美帆さん「私は音で遊ぶ人のために作品を作っているのかもしれません」

11736views

音楽ライターの眼

ソロ、室内楽、指揮と多彩な活動を展開するレオニダス・カヴァコスの新たな挑戦

3284views

【楽器探訪 Another Take】演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

楽器探訪 Anothertake

演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

7258views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

10058views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

8492views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

6314views

福岡市民ホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史をつなぎ、新しい感動をつくる。音楽・芸術文化の新たな拠点/福岡市民ホール

606views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6516views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14619views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:人を楽しませたい!それが4人の共通の思い

7779views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は人前で演奏してこそ、上達していくものなのだろう

9671views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28269views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

13251views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15587views

音楽ライターの眼

連載8[多様性とジャズ]ニューオーリンズ・ジャズは“歌わない”ことで白人社会に受け入れられた?

3880views

オトノ仕事人

最適な音響システムを提案し、理想的な音空間を創る/音響施工プロジェクト・リーダーの仕事

3083views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

12540views

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ―カスタムユーフォニアム「YEP-843(T)S」

楽器探訪 Anothertake

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ——カスタムユーフォニアム「YEP-843S/YEP-843TS」

3710views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

25906views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.3

パイドパイパー・ダイアリー

人生の最大の謎について、わたしも教室で考えた

6083views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

2814views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

12494views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11857views