今月の音遊人
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世界の国歌を“その国の言語”で歌う前人未踏のプロジェクト/山田和樹インタビュー
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2021.3.18
世界的に活躍するマエストロ、山田和樹が5年の歳月をかけて作り上げた「山田和樹アンセム・プロジェクト」が、7枚のCD作品として発表された。これは、世界中のアンセム(国歌や愛唱歌)を、余すところなく録音するという壮大なもので、しかも、全ての歌を東京混声合唱団が“その国の言語”で歌うという非常に困難なプランである。当初は、山田自身も完成への不安があったという。
「私が“言い出しっぺ”ではあるのですが、あまり突き詰めず見切り発車的に始めてしまったものですから……(笑)。このプロジェクトが実現できたのは、本当に、協力してくださった皆さんのおかげです」
7人の編曲家をまとめる監修というかたちで携わったのは、作曲家の信長貴富。それぞれの国歌の個性と、音楽作品としての完成度や聴きやすさを絶妙のバランスで両立させたうえ、200以上もの国歌を、地域だけでなく歴史的なテーマも持たせて7つに分けるアイデアも彼によるものだという。
「信長さんは“世界の島々”とか“大航海時代”とか、僕ひとりだったら到底思いつかないテーマを考えて、提案してくれました。そして、それぞれの国々の愛唱歌を使ってメドレーも作ってくれて。
それぞれのCDは、まずメドレーを聴いてから国歌を楽しんでいただく構成になっています」
伴奏には日本フィルハーモニー交響楽団をはじめ、幾多の名手が参加しているが、特に注目なのはピアノの斎木ユリ。その徹底したサポートぶりには凄みすら感じる。「斎木さんは合唱の伴奏を知り尽くしていますから。彼女がいなかったらこの企画は成り立たなかったですね」と山田も称賛の言葉を惜しまない。
そして、東京混声合唱団である。レコーディングのたびに多様な言語を学びながら、歌としてアウトプットし続ける作業は、想像を絶するものだったに違いない。
「例えば中東の国々の場合、言葉も楽譜も右から左へと読んでいくんです。このプロジェクトは、ただ国歌を録音するだけでなく、言葉や文化を学んでいく作業でもあったのです」
全てを聴き終わると、山田が率いた音楽家たち、そして国歌が持つ音楽の力に圧倒されつつも、すがすがしい気持ちになる。
「信長さんは自分では言わないけれど、『音楽の力で世界をひとつにしたい』という気持ちで取り組んでくれたんじゃないかな」
山田が語るように、とかく細分化が進む世の中に対して、音楽という手段でその対極の価値観を提示したともいえる本作。まずは自分が関心のある地域からでも、ぜひ手に取って聴いてみてほしい。
アルバム『山田和樹アンセム・プロジェクト 世界の国歌』
発売元:キングレコード
価格:[地球儀ボックス仕様/CD7枚+特典DVD1枚]22,000円(税込)、[CD単品]各2,750円(税込)
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山田和樹(やまだ・かずき)
2009年、第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC交響楽団を指揮してヨーロッパ・デビュー。日本では日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、読売日本交響楽団首席客演指揮者、東京混声合唱団音楽監督兼理事長などを務めている。国外では2016/17シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督に、2018/19シーズンからバーミンガム市交響楽団首席客演指揮者に就任するなど、着実に活動の場を広げている。ベルリン在住。
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