Web音遊人(みゅーじん)

オペラ、シンフォニーの指揮&ピアニストとしても活躍する沼尻竜典が第51回ENEOS音楽賞洋楽部門本賞を受賞

国際舞台で活躍する指揮者のなかで、昔からピアノを得意とする人は何人か存在する。現在もピアニストとして歌曲の伴奏を担ったり、コンチェルトのソリストを担当したりする人もいるが、日本では沼尻竜典りゅうすけがそのひとり。

現在、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール芸術監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督を務め、内外のオーケストラへの客演も数多くこなすという超多忙な身だが、自ら結成したトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアとのシリーズでは、モーツァルトのピアノ協奏曲全曲演奏の弾き振りが進行中である。

沼尻竜典
オフィシャルサイトはこちら

「ピアノは2歳の終わりころから弾き始めました。最初の先生がとても辛抱強く教えてくれ、やがて桐朋学園の音楽教室で学ぶようになりました。ヤマハのジュニアオリジナルコンサート(JOC)に出演した経験もあります。指揮を始めたのもごく自然ななりゆきで、中学生のときにはクラスの合唱の指揮をよく行っていましたね」

沼尻は「これまで行ってきたすべての音楽的な活動が、いまの演奏に役立っています」と明言する。小中学校時代は放送委員を務め、大学では学園祭の企画にも積極的にかかわり、そうした経験が現在の仕事に大いに役立ち、ピアノ演奏や学生時代に勉強した作曲に関しても同様だという。
「オペラに関しては、17歳のころに長門美保歌劇団でピアノ伴奏を担当したことも役立っています。現場を知ることができましたので」

その後、1990年にはブザンソン国際指揮者コンクールで優勝の栄冠に輝いたが、当時はベルリンに留学中。ベルリンの壁崩壊の時期にあたり、さまざまな歴史的瞬間に立ち会うことができた。以後、世界各国のオーケストラに客演を重ね、ドイツではリューベック歌劇場音楽総監督を務め、オペラ公演、劇場専属のリューベック・フィルとのコンサートの双方において数々の名演を残し、特にブラームス、マーラー、ブルックナー、ワーグナーなどがドイツメディアの高い評価を受けている。

「留学時代はよくミュンヘンにも行き、バイエルン国立歌劇場の音楽総監督だったヴォルフガング・サヴァリッシュのリハーサルから本番までを見学させてもらって、すばらしい経験をすることができました。当時はルチア・ポップ、ヘルマン・プライ、ベルント・ヴァイクル、ペーター・シュライヤーをはじめとする、まさにドリームチームと呼ばれる歌手が勢ぞろいしていた時代。間近に彼らの歌を聴き、オペラの醍醐味を体感しました」

そうした貴重な経験がすべていまの音楽活動に生かされているわけだが、2021年には《滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールと沼尻竜典》として、第51回ENEOS音楽賞 洋楽部門本賞を受賞した。
「この賞をいただき、自分の行ってきたことが認められたということに大きな誇りと喜びを感じています。30年間というもの、ごく自然な形でいろんな音楽と関わってきましたが、“それでよかったんだよ”と励まされているような感じがしています」

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール外観と大ホール

2022年4月からは神奈川フィルハーモニー管弦楽団音楽監督にも就任する予定で、さらに活動の幅と視野が広がりそうだ。ちなみに、忙しくて趣味の時間はあまり持てないそうだが、留学時代には自炊をしていたためか、ひとつ得意な料理があるという。
「ホワイトアスパラの天ぷらです。ドイツの真っ白で肉厚なアスパラはすごくおいしい。ゆでたりソースをつけて食べるのではなく、天ぷらが一番おいしいのは大発見。自慢のレシピで(笑)」

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

facebook

twitter

特集

沖仁さん

今月の音遊人

今月の音遊人:沖仁さん「憧れのスターに告白!その姿を少年時代の自分に見せてあげたい」

11472views

音楽ライターの眼

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.1

4193views

【楽器探訪 Another Take】演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

楽器探訪 Anothertake

演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

6484views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

26449views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

8047views

オトノ仕事人 ボイストレーナー

オトノ仕事人

思い描く声が出せたときの感動を分かち合いたい/ボイストレーナーの仕事(後編)

9524views

東広島芸術文化ホール くらら - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

繊細なピアニシモも隅々まで響く至福の音響空間/東広島芸術文化ホール くらら

14022views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

14678views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

24996views

5 Gravities

われら音遊人

われら音遊人:5つの個性が引き付け合い、多様な音楽性とグルーヴを生み出す

2130views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5093views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10551views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

9540views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20398views

沖仁フラメンコギターコンサート

音楽ライターの眼

フラメンコの魂を伝える、深く豊かなギターの調べ /沖仁フラメンコギターコンサート

6385views

テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

オトノ仕事人

【サインCDプレゼント】テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

15775views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

1184views

NU1XA

楽器探訪 Anothertake

アコースティックピアノを演奏する喜びをもっと身近に。アバングランド「NU1XA」

3356views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7525views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

6069views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

5505views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7826views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31382views