Web音遊人(みゅーじん)

クイーン、デヴィッド・ボウイ、デフ・レパードも絶大支持。モット・ザ・フープルが歌い続ける“ロックンロール黄金時代”

20世紀中盤に生まれたロックンロール/ロックは、世界で最も人気のある音楽ジャンルのひとつとなった。ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズは国境や世代を超えて愛されてきたし、エルヴィス・プレスリー、レッド・ツェッペリン、セックス・ピストルズ、ニルヴァーナ、オアシスなどは人気を誇り続ける。我々はまさに“ロックンロール黄金時代”を生きているのだ。

そして、ズバリ『ロックンロール黄金時代 The Golden Age Of Rock ‘n’ Roll』という名曲で知られるバンドがモット・ザ・フープルだ。1969年にイギリスでデビュー、その全盛期といえるラインアップは1974年までのわずか5年しか続かなかったが、彼らの音楽は世界のロック・リスナーの胸に深く刻み込まれている。

彼らがファンのハートを捉えたのはまず、高揚感を伴うロックンロールだった。『メンフィスからの道 All The Way From Memphis』『土曜日の誘惑 Roll Away The Stone』『ロックンロール黄金時代』『野郎どもの襲撃 Crash Street Kids』『ロックンロール・クイーン』などはしばしばロックンロールの賛美と“デューズ=野郎ども”の連帯を歌い上げ、ライヴ会場が一体となって盛り上がるスペクタクルだ。

そしてもうひとつの魅力は、モット・ザ・フープルの音楽に漂う“哀しみ”である。1970年代前半のイギリスではグラム・ロックが流行、アッパーなサウンドとギラギラのコスチュームが持て囃されたが、それに対して彼らの『ホナルーチ・ブギー』『野郎どもの讃歌 Hymn For The Dudes』『モット・ザ・フープル物語 The Saturday Gigs』などはほろ苦い哀愁と寂寞感をたたえており、“泣けるロック”という概念を生んだ。『モット・ザ・フープルのバラッド Ballad of Mott The Hoople(26th March 1972, Zürich)』で“ロックンロールは負け犬のゲーム”と歌う自虐感もじわっとさせるものだった。

そんな彼らの音楽に魅せられたのはファンだけではなく、第一線のミュージシャンにも彼らのファンは多い。

デヴィッド・ボウイは初期からの熱心なファンだった。人気がパッとせずバンドが解散するという話を聞きつけた彼は新たにレコード契約を取り付け、ツアーのサポート・バンドに抜擢、『すべての若き野郎ども All The Young Dudes』をプレゼントするなど多方面から支援をしている。この曲は1972年に英米で大ヒット、世代を象徴するアンセムとなり、バンドは息を吹き返すことになった。

『すべての若き野郎ども All The Young Dudes』

シンガーのイアン・ハンターは筆者(山崎)とのインタビューでこう語っている。

「デヴィッドはすごく寛大で、俺たちやルー・リードに救いの手を差し伸べてくれた。もしかしたらアンディ・ウォーホルを意識していたのかも知れない。ウォーホルがヴェルヴェット・アンダーグラウンドをプッシュしたのと同様に、俺たちをプッシュしてくれたんだ。その逆に、興味の対象外である人間には見向きもしなかったけどね」

ちなみにボウイは当初『サフラジェット・シティ』をプレゼントしてきたという。ハンターは「テープが送られてきて、悪くないけどそれほどスペシャルではないと思って返事をしなかった。それで彼は自分でレコーディングしたんだ」と笑っていた。

1974年にモット・ザ・フープルのツアー・サポートを務めたのがクイーンだった。彼らはまだ若手バンドで、ハンターはフレディ・マーキュリーが「毎晩のようにステージの袖から俺たちの演奏を見ていた」と述懐している。クイーンの『シアー・ハート・アタック』(1974)収録の『誘惑のロックンロール Now I’m Here』には、街にいるのはフープルと僕だけという意味の一節もある。ブライアン・メイは彼らから「多大な影響を受けた。師匠みたいなものだった」と主張、ソロ・アルバム『アナザー・ワールド』(1998)で「メンフィスからの道」をカヴァーしている(2022年にアルバムの新装再発盤が発売された)。

シンガーのイアン・ハンター

ハンターは筆者にこう話している。「両バンドに共通していたのは、1960年代末のブルース・ブームからの反動だった。ブルースというとミュージシャン達が自分の足下を見ながらノロノロ演奏している音楽だった。それに対するアンチだったんだよ。ショーアップされた、生き生きとした音楽をやりたかった」

クイーンの『ボヘミアン・ラプソディー』の元ネタがモット・ザ・フープルの『マリオネットの叫び』だ!と強く主張するのがデフ・レパードのジョー・エリオットだ。モット・ザ・フープルのコアな曲を演奏するカヴァー・バンド、ダウン・アンド・アウツとしてライヴを行い、CDを発表するほどの熱心なファンである彼が家宝にしているのはファースト・アルバム『モット・ザ・フープル』(1969)の初期プレス盤だという。筆者とのインタビューで、彼はマニア特有の早口でこう語ってくれた。

「『ロックンロール・クイーン』が入るべきところに『ロード・トゥ・バーミンガム』が間違って収録されてしまっているんだ。さらに他の収録曲も別ミックスだったりする。初期ヴァージョンは5千枚プレスされたという説もあるけど、回収されてしまったものもあるし、現在存在する枚数はかなり少ない筈だ」

他にもザ・クラッシュのミック・ジョーンズはハンターが「どこにでも現れる」と呆れるほどのモット・マニアだったし、アイアン・メイデンのブルース・ディキンソンが『あの娘はイカしたキャディラック Born Late ’58』、マイケル・シェンカーを擁するコントラバンドが『メンフィスからの道』をカヴァーするなど、彼らの信奉者は多い。

1974年にハンターが脱退、1980年にいったん解散したモット・ザ・フープルだが、ファンの要望で何度か再結成。ただ、2017年のハンターのソロ来日公演中止を経て、海外でも2019年10月のモット北米ツアーがハンターの耳鳴りで中止、2020年からの新型コロナウィルス禍もあり、本格的なツアーはしばらく行われていない。

だが、「ロックンロール黄金時代は死ぬことがない。子供たちが笑い、泣く必要を感じる限り」という歌詞のとおり、モット・ザ・フープルは必ずやステージに戻ってくるだろう。その日を楽しみに待っていたい。

 

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

今月の音遊人「世良公則」さん

今月の音遊人

今月の音遊人:世良公則さん「僕にとって音楽は、ロックに魅了された中学生時代から“引き続けている1本の線”なんです」

11523views

パワー・トリップ

音楽ライターの眼

パワー・トリップ、全曲がハイパーテンションの塊の『ライヴ・イン・シアトル』をCD/LPで発表

1232views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

すぐに音を出せて、自由に演奏できる。管楽器の楽しみを多くの人に

14053views

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

楽器のあれこれQ&A

バイオリンを始める時に知っておきたいこと

8674views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11153views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

3457views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8346views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3023views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

11227views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

7973views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.7

パイドパイパー・ダイアリー

最初のレッスンで学ぶ、あれこれについて

4623views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29679views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

17119views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8357views

ブルース・トラヴェラー

音楽ライターの眼

ブルース・トラヴェラー、ルーツ探訪アルバム『トラヴェラーズ・ソウル』発表

732views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

3191views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

7833views

NU1XA

楽器探訪 Anothertake

アコースティックピアノを演奏する喜びをもっと身近に。アバングランド「NU1XA」

2545views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14290views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

7754views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

303views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

2918views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25066views