Web音遊人(みゅーじん)

出田りあ

“歌える打楽器”─世界的奏者が考えるマリンバの魅力/出田りあインタビュー

フランスで学び、現在はドイツに拠点を置く出田りあ。クラシックのマリンバ奏者として前例がなかった国際音楽祭への出演を各地で果たし、世界中から注目を集める存在だ。
「6歳で初めてマリンバに出会ったとき、まずは大きさに驚きました。私の背と同じくらいで、ちょうど目線の高さに鍵盤(音板)があるような状態だったんです。なのでマレットで音を鳴らすと、鍵盤が振動するのを間近で見ることができたんですよね。自分が叩いて楽器を鳴らしているんだということを実感でき、音色はもちろんなのですが、とにかく視覚で驚いたのが印象に残っています」
そこからマリンバにこだわって活動を続けてきた彼女にとって、マリンバの魅力とは何なのだろうか。
「まずは音域の広さです。そして音域ごとにキャラクターがはっきりしているのも魅力ですね。倍音の配列の関係もあり、低音には支えてくれるような響きがあります。一方で、高音には華やかなきらめき、中音には温かさがあります。だからこそ、ほかの奏者とアンサンブルをしていても、ときにはバイオリン、あるときはコントラバスというように、さまざまなポジションに自分を置くことができます」

出田りあ

「一人でも多くの方にマリンバの演奏を聴いていただきたいです」

マリンバは奏者が自由自在に扱うマレットさばきにも目を奪われる。
「マレットの動きは意外とシンプルですし、実はお箸の使い方と通じるところもあるんです。私自身、日々の生活の中で鍛えられているように感じることがあります」
そのマレットが音色づくりの“要”になるという。
「外側、中の芯、そして柄の素材はさまざまで、その組み合わせによって重さや音色が全く変わります。曲や会場の響きに合わせて常にあらゆる可能性を考慮して準備していますね。ちなみに家にはだいたい四百種類くらいはありますが、私は柔らかくて重さのあるマレットが好きです。これは私がマリンバで“歌う”ことを大切にしたいから。鍵盤を叩いたときの余韻がとても重要になるので、柔らかさと重さのあるマレットを選ぶようにしています」
歌うような演奏で多くの人々を魅了している出田だが、マリンバの魅力をもっと広めたいのだという。
「歴史の新しい楽器ということもあり、マリンバはまだ決して知名度が高いとはいえません。だからとにかく、まずはその魅力を知っていただきたい。そのためには『マリンバっていいな』と思ってもらえるきっかけを作らないと……。そのために、クラシックの名曲の数々をマリンバ用にアレンジして演奏してきました」
最近ではギタリストの村治佳織とのデュオも話題を呼んでいる。そこでは映画音楽なども演奏しており、新たな一面を見せてくれている。
「映画音楽は昔から自分のためには演奏していたのですが、お客様にお届けするのは村治さんとの共演がきっかけでした。今後はダンス音楽やミュージカル音楽なども演奏していくつもりです。いつか和楽器など新しい形のコラボレーションにも挑戦して、マリンバの可能性を広げていきたいですね」

出田りあ〔いでた・りあ〕
パリ・コンセルヴァトワール、ストラスブール・コンセルヴァトワール・ソリストコースを首席で卒業し、2003年、第1回パリ国際マリンバコンクールで第1位を受賞。各国のクラシック音楽祭に出演を果たし、多くの著名アーティストと共演を重ねる。2012年よりミュンヘン室内オペラ(Kammeroper München)の専属アーティストとして、室内オーケストラにマリンバを加えた新しい編成でさまざまなオペラを上演。新曲の初演や委嘱も積極的に行っている。愛用楽器はヤマハマリンバYM-5100A。
ジャパン・アーツ Instagram

photo/ 坂本ようこ

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人 木根尚登さん

今月の音遊人

今月の音遊人:木根尚登さん「やっぱりバンドがやりたい!理想は『あまちゃんスペシャルビッグバンド』」

17659views

音楽ライターの眼

大人げないロック・バンド、メルヴィンズが新作『ワーキング・ウィズ・ゴッド』を発表

3569views

楽器探訪 Anothertake

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

3778views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

4553views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5413views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

7209views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

7365views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7055views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10359views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

11014views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5019views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

7463views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20133views

J.S.バッハの《コーヒー讃歌》

音楽ライターの眼

ああ、コーヒーのおいしいこと。1000回の接吻よりすばらしく、マスカット酒より甘い…… J.S.バッハ《コーヒー・カンタータ》の誕生秘話

8826views

オトノ仕事人

歌、芝居、踊りを音楽でひとつに束ねる司令塔/ミュージカル指揮者・音楽監督の仕事

3277views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

9809views

82Z

楽器探訪 Anothertake

アンバー仕上げが生む新感覚のヴィンテージ/カスタムサクソフォン「82Z」

3937views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

22900views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6267views

楽器のあれこれQ&A

サクソフォン講師がアドバイス!ステップアップのコツ

2519views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9054views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10371views