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ヴァイオリンの街―クレモナの魅力

ヴァイオリンの街―クレモナの魅力

ミラノから南東80キロに位置する古都クレモナは、15世紀以来、アマティ、グァルネリ、ストラディヴァらすぐれた弦楽器製作者を生み出したことで知られる。

現在は、世界中から製作を学ぶ人、アカデミーで勉強する人、ストラディヴァリウス(ストラディヴァリの製作した楽器の総称)の研究をする人などが集まり、そこかしこに工房や販売店があり、ヴァイオリンの街として活況を呈している。

この街はポー川流域にあるため、昔から木材の運搬が盛んに行われ、数多く存在する教会には見事な木彫がたくさん置かれている。

ポー川は粘土も産出し、クレモナの屋根にはこの粘土が使用され、“クレモナ・レッド”と呼ばれる赤みを帯びたレンガ屋根となっている。昔からクレモナではこのレンガ屋根が特徴で、規制によりいまなお変えることはできず、色の統一がなされているのだという。

イタリアの夏は陽が長い。夜8時過ぎにようやく西の空が赤く染まり、夕日が沈んでいく。この時間帯がもっとも街が美しく、高い建物から街を眺めると、街の象徴であるドゥオーモ(大聖堂)とトラッツォ(鐘塔)を中心に街全体が“クレモナ・レッド”に輝く。

ヴァイオリンの製作者としてもっとも有名なアントニオ・ストラディヴァリ(1644~1737)は、93年の長寿をまっとうした人。生涯にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、マンドリン、ギターなどを1,100~1,300挺製作したといわれ、600挺が現存している。彼は楽器の細部まで徹底的にこだわり、美しい形状と音色を備えた楽器を編み出し、いまなおその響きの秘密は完全には明かされていない。

クレモナには世界中からストラディヴァリに憧憬の念を抱く製作者が集まり、「現代のストラディヴァリ」と呼ばれる職人も存在する。製作者だけではなく、演奏家や音楽愛好家も各地から訪れ、自分に合った楽器を探したり、演奏を聴いたり、2013年開館の世界で唯一のヴァイオリン博物館を訪れたりしている。

ヴァイオリン博物館

(写真左)ヴァイオリン博物館前の広場に立つアントニオ・ストラディヴァリの銅像。(写真右)ヴァイオリン博物館には名器が数多く展示されている。

クレモナは昔ながらの歴史と伝統を守り、石畳も建物もストラディヴァリの時代のまま。

人々はかたくななまでにその時代の姿を継承し、食べ物も当時の伝統料理を好む。そのなかで、この土地ならではのソースを見つけた。「モスタルダ」と名付けられたもので、りんご、桃、レモンなどを大量にお砂糖で煮込み、ジャムのようにして、冷めてからマスタードを加えるというソースである。蒸した豚肉や白身魚に添えられて供されるのだが、一度食べるとクセになり、たくさん食べてしまう。

モスタルダ

クレモナの伝統的なソース、モスタルダ。

現地では瓶詰めなども売られているのだが、老舗レストランのシェフにいわせると「あんなのはダメ、色付けだから。ちゃんと料理人が作ったものでないと、本物のモスタルダとはいえない」とのこと。私はそのシェフに少しわけてもらった。

クレモナは奥深い街で、いろんな側面を見せてくれる。折を見て、紹介したいと思う。

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

 

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