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今月の音遊人:imaseさん「どんな時代に誰が聴いてもいいと思ってもらえる普遍的な曲をつくりたい」
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スペース・ロックは終わらない。ホークウィンドが最新アルバムと監修コンピレーションを発表
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2022.10.5
英国スペース・ロックの帝王ホークウィンドは走り続ける。
1960年代末にロンドンのノッティング・ヒルで結成、反復するリフと飛び交う電子音が極彩色の照明効果やステージ上を乱舞するヌード・ダンサーと相乗効果を起こしながら異空間へといざなうライヴが評判に。宇宙へと飛び出していくトリップ感を伴うサウンドは“スペース・ロック”と呼ばれるようになった。1972年に『シルヴァー・マシーン』が全英チャート3位というヒットを記録したのを筆頭に、ヒッピーからバイカー、プログレッシヴ・ロック、ヘヴィメタル、パンク、テクノ/レイヴまで、彼らは幅広い音楽ファンから愛されてきた。
結成から50年以上の歴史を誇り、唯一のオリジナル・メンバーである総帥デイヴ・ブロックは2022年に81歳となったが、その勢いは止まることがない。2021年にスタジオ・アルバム『ソムニア(夢)』を発表したのに続いて、最新ライヴ・アルバムと監修コンピレーション・アルバムが世に出ることになった。
『We Are Looking In On You』はCD2枚組のライヴ・アルバムで、数曲をカットしたLP2枚組もリリースされる。録音日時・会場のクレジットはないものの2021年10月28日、ロンドン“パレディアム”での演奏を中心としたものと推測される。2019年のライヴを収めた『Hawkwind 50 Live』(2020)から間を置かず、しかもコロナ禍でライヴ活動がままならなかった時期だが、演奏曲目をかなり変えてきており、ベテランらしからぬ攻めの姿勢のステージを堪能させてくれる。
『絶体絶命』(1975)の『マグヌー』でスタートするライヴは往年のクラシックスから『ソムニア(夢)』の新曲まで幅広いもの。いずれもライヴ・ヴァージョンでさらにアグレッシヴに変貌を遂げ、スペース・ジャムを交えながらどこまでも上り詰めていく。
ブックレットを見ると、馴染みのない曲タイトルが幾つもあるため、新曲か!?と色めき立つファンも少なくないだろう。ただ実は、本作では長い曲を2分割して後半に別タイトルを冠するという手法が取られている。『アンクル・サムズ・オン・マーズ』の後半が『USB1』、『ブレインストーム』の後半が『Neurons』、『ボーン・トゥ・ゴー』の後半が『Star Explorer』と名付けられているので、まったくの新曲を期待してはいけない。ちなみに『Peace』は1分半の間奏曲的なピアノ・インストゥルメンタルだ。
ただ、だからといってガッカリするファンはほとんどいないのではないだろうか。本作で2曲を跨ぎながらシャーマン的に盛り上がっていくロング・ヴァージョンのナンバーは、ホークウィンドが半世紀以上にわたって多くの中毒患者を生んできた理由を物語っている。
熱心なファンであってももはや何枚目と言うことが困難なホークウィンドのライヴ・アルバムだが、それだけ大量にリリースされるのには訳がある。これからも元気にステージに上がって、ライヴ・アルバムを作り続けていただきたいものである。
もう1作、ホークウィンド関係でリリースされるのが、デイヴ・ブロック監修と銘打たれたスペース・ロック・コンピレーション『Dave Brock Presents This Was Your Future – Space Rock & Other Psychedelics 1978-1998』だ。CD3枚に全39曲のスペース・ロック・ナンバーが収録されており、本家ホークウィンドからデイヴ・ブロック、ロバート・カルヴァート、ヒュー・ロイド・ラングトン、ホークローズ、ティム・ブレイク、マイケル・ムアコックなどのメンバー/関連アーティスト、そしてそのDNAを受け継ぐオズリック・テンタクルズ、マジック・マッシュルーム・バンド、ST-37までが網羅されている。知る人ぞ知るバイカー・ロック・バンド、ダンピーズ・ラスティ・ナッツによるパスティーシュ的な『Hawkwind』のような珍品もあったりして、まったく飽きることがない。実際のところデイヴがどの程度監修に関わっているのか、あるいは名義貸しに留まっているのかは不明だが、アーティスト選出、選曲共に優れたコンピレーションである。
2002年から自らがヘッドライナーを務めるフェスティバル“ホークフェスト”を行ってきたホークウィンドだが、2022年9月にもイングランド北部のモアカム・ウィンター・ガーデンズで開催される。ザ・クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウン、カーヴド・エアー、ソフト・マシーン、ジンジャー・ワイルドハートなどの出演が発表されている。ただ残念なことに、同フェスはこれが最後となる。元々ファンのために行ってきた非営利的イベントだったが、費用などの面で立ちゆかなくなったのだという。それでもホークウィンドとしてのライヴ活動は今後も行っていくというから、これからもファンをスペース・ロックの宇宙への旅に連れていってもらいたい。そして2015年4月以来の来日公演もぜひ実現させて欲しいところである。
発売元:Cherry Red Records
発売日:2022年10月7日
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発売元:Cherry Red Records
発売日:2022年4月22日
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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