Web音遊人(みゅーじん)

古澤巌さん

今月の音遊人:古澤巌さん「ジャンルを問わず、父が聴かせてくれた音楽が今僕の血肉になっています」

クラシックからヘビメタまで、ジャンルを問わず表現世界を広げているバイオリニストの古澤巌さん。その礎を作ったのは、少年時代に聴いたマカロニウエスタンの曲でした。幅広い音楽を浴びるように聴いた経験が、自由で大胆な発想を生み出しています。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

子どもの頃からマカロニウエスタンの映画、セルジオ・レオーネ監督『夕陽のガンマン』が大好きで、僕は『夕陽のガンマン』でできているくらい(笑)。でも、音楽は同じレオーネ監督の『ウエスタン』の主題曲『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト』が好きなんです。作曲はレオーネ監督とコンビを組んでいるエンニオ・モリコーネ。何度聴いたかわからないくらい聴いています。空で歌えますから。海外の演奏会で演奏された時に「ここがちょっと違うよ」ってアドバイスしたことも。
父親が大変なオーディオマニアで、レコードも何千枚とあり、その中にこの曲がありました。最初に聴いたときは怖い曲だなぁと。ハーモニカの独特な「ア~」というフレーズが不気味で。でも、怖くなった後にすごくきれいな曲調になる。本当に素晴らしいなと思いました。一方で、クラシックとはずいぶん違う音楽だとも感じていたんです。
父親は、クラシックはもちろんですが、音楽のジャンルを問わずに聴いていました。毎日仕事から帰ると大音量で、休みの日なんて一日中。だから、僕も自然とさまざまな音楽を耳にしていたわけです。あんなに音楽を聴かされた子どもはいないんじゃないかな。音楽を耳から覚えたんですね。聴き覚えた曲を楽器で弾くのは簡単でした。
今、親御さんから子どもさんの音楽活動のことで相談されると、「とにかく、家族が好きな音楽を朝から晩まで聴かせたらいいですよ」って。音楽って聴いてナンボだと思います。勉強ではなくね。僕も父が聴かせてくれた音楽が今、自分の血肉になっていますから。

Q2.古澤さんにとって「音」や「音楽」とは?

僕にとっては、その音楽を作った人の生き方ですね。音楽とは、その人が作ったドラマであり、その人の物語、人生なんです。それを演奏家である僕が作曲者になりかわって体現し、お客さまとともに分かち合う。音楽の演奏とは、会ったことのない誰かのファンタジーを再現する作業なんです。楽譜には、作曲家に起こった出来事や残したかったことが書かれている。その音をちゃんと弾けば、その人が感じたのと同じことを感じられる。だから、それを無視して勝手な解釈で弾くものではないと思っています。
以前はそれらを楽譜から読み取ることができなくて、他の演奏者に「なんで、ここはそう感じるの?」と聞いても、答えが見つからなかった。でも、ある時から楽譜に書いてあることが自分でも感じられるようになって、結局わかったのは「音楽は心だ」ということ。そうすると、逆に作曲家の人柄が自分に影響する。安心してつきあえるなって。例をあげると、モーツァルト。実際、近くにいたらちょっと困るけど、愛されるキャラですよね。楽譜には細かいことが書いてあるけれど、決していやな感じはしない。そこが素晴らしいなって。

古澤巌さん

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

音を操れる人、ですよね。たとえば、街のチンドン屋さんかな。子どもの頃に聴いたおなじみのリズムでベルを鳴らしながらも、新しいレパートリーを演奏する。あの発想って、まさに音で遊んでいる人たちの雰囲気ですよね。ジャズの即興演奏をする人たちも一緒。遊ぶっていうのは、音を使って人とコミュニケーションしながら、居合わせた人たちが笑顔になるものだと思います。音を操るのは、細かい音じゃなくてもいい。
以前、アルバムを一緒に作ったバイオリニストのステファン・グラッペリは、若い頃はすごく達者で華やかな弾き手でした。僕がご一緒したときは88歳で、たくさんは弾けないけれど、大事な音を置くように弾いていた。そんなふうに枯れていけたら素敵だなって。僕自身は、趣味で音楽を始めたわけではなくて、小さい頃からお稽古事を“おつとめ”としてやっていたから、スキあらばサボろうとしていました。今でこそ、小説を読んだり映画を観たりするのと同じように、今日、この曲を弾いてみようかなってなりましたけど……。
さらにバンドをやるようになって、自分が遊ばないとバンドは成立しないなと、遊びを意識しています。ステージはすべてエンターテイメント。僕が弾いてみんなが喜んでくれたら、もう万々歳ですね。

古澤巌〔ふるさわ・いわお〕
3歳半からバイオリンを始める。79年日本音楽コンクール第1位。82年に桐朋学園音楽大学を首席で卒業し、小澤征爾の推薦でタングルウッド音楽祭のコンサートマスターを務める。86年には、当時大学1年生の葉加瀬太郎と出会い、ジプシーバンド「ヴィンヤードシアター」を結成。88年には東京都交響楽団のソリスト兼コンサートマスターを務め、世界ツアーに出る。2017年のアルバム『愛しみのフーガ〜Mr.Lonely』に続き、2018年4月にはフーガシリーズ第2弾『スウィンギン・フーガ』をリリース。
古澤巌オフィシャルblog https://celebstyle.jp/iwao-furusawa/

 

特集

向谷実

今月の音遊人

今月の音遊人:向谷実さん「音で遊ぶ人!?それ、まさしく僕でしょ!」

15826views

音楽ライターの眼

「ゴルトベルク変奏曲」を弦楽器で聴く歓び

5352views

楽器探訪 Anothertake

おしゃれで弾きやすい!新感覚のアコースティックギター「STORIA」

46129views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

55438views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11153views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

2164views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

2584views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8594views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8357views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:バンドサークルのような活動スタイルだから、初心者も経験者も、皆がライブハウスのステージに立てる!

7833views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

5574views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

25065views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4685views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

9999views

音楽ライターの眼

ベートーヴェン生誕250年に歌曲の魅力に触れる

2199views

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

オトノ仕事人

音楽市場を広げたい、そのために今すべきこと/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事(後編)

7211views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

1069views

楽器探訪 Anothertake

ピアニストの声となり歌い奏でる、コンサートグランドピアノ「CFX」の新モデル

4749views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

22381views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8113views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

4112views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6814views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

9903views