今月の音遊人
今月の音遊人:沖仁さん「憧れのスターに告白!その姿を少年時代の自分に見せてあげたい」
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1954年はエルヴィス・プレスリーがデビューを果たし、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツが「ロック・アラウンド・ザ・クロック」をヒットさせた年ということで、しばしば“ロック元年”と呼ばれる。それからもうすぐ70年、星の数ほどのアーティストが現れ、ほんのひと握りの成功者を除く大多数が消え去っていった。
だが決して大きなセールスを得ることがなくとも、長く充実した音楽遍歴を重ね、そして過去の作品が新しい世代のリスナーによって再び脚光を浴びるアーティストもいる。ピート・ファインはそんな1人だ。彼の率いたバンド、ザ・フロウが1972年に発表したヘヴィ・サイケデリックの“幻”のアルバム『ザ・フロウのグレイテスト・ヒッツ』、そしてバンドの解散後、ピートがソロ・アーティストとして1974年にリリースしたサイケデリック・オーケストラ・アルバム『クリスタルの想いの日へ』が半世紀の年月を経て2023年、日本初発売となることが決まった。
ピートは1950年、ニューヨーク生まれ。両親が聴くクラシック(ベートーヴェン、チャイコフスキーなど)やミュージカルのレコードを聴いて育ったが、13歳の頃にテレビ番組『エド・サリヴァン・ショー』でザ・ビートルズを見てポップ・ミュージックに目覚めている。それから徐々にアンダーグラウンドのロック・シーンで活動するようになった彼が友人たちと1969年に結成したのがザ・フロウだった。
ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリン、ブラック・サバスなどから刺激を受け、キッスの前身バンド、ウィキッド・レスターとリハーサル・スペースを共有するなどしたザ・フロウはハードな音楽性に開眼。唯一のアルバムとなった『ザ・フロウのグレイテスト・ヒッツ』は西海岸のブルー・チアーへの東海岸からの回答といえるヘヴィ・ロック巨編となった。ブラック・サバスの『黒い安息日』ばりの不穏なイントロから始まる『太陽を呑む』や『ゲット・アップ・アンド・スマイル』などハード・ロックを基調としながら、アシッドなインストゥルメンタル『マウスリー』、ニルヴァーナを20年先取りしたグランジ風の曲調で最後「ウェーイ!」と謎の歓声が繰り返される『バイジンクス』、ギターで犬の吠え声を模した『犬を見た』、バッハをモチーフにした『トッカータ ニ短調』など、ニューヨークの摩天楼を彷彿とさせるヘヴィ・サイケがそびえ立つ。
このアルバムのオリジナルLPは100枚のみプレスされたが、ほとんど店頭に並ぶこともなく、ザ・フロウは一部のファンにのみ知られる存在だった。ピートにとって一大転機となったのはある日何気なくラジオを聴いているときに流れたブルックナーの交響曲第8番だった。幼少の頃からクラシック音楽に親しんでいた彼だったが、自らオーケストラ音楽を書こうと一念発起。ザ・フロウは自然消滅するが、ニューヨークの総合芸術施設“リンカーン・センター”に繰り返し足を運び、独学でオーケストラ譜の読み書きと作曲法を修得。12人編成の管弦楽団を起用してレコーディングしたのが『クリスタルの想いの日へ』だった。
ピートが12弦アコースティック・ギターを弾き、ストリングスやフルート、フレンチホルン、トランペットなどをフィーチュアしたこのアルバムだが、手探りでオーケストラ音楽にアプローチしていることもあり、『瞑想』でアシッド・ペイガン・フォークに接近、ザ・フロウ時代の『バイジンクス』と姉妹曲の『バイジンキーズ』など、ジャンルを超えた比類なき音楽を楽しむことが出来る。こちらもオリジナル盤LPは100枚の限定プレス。しかも直後にピートがニューヨークを出て、北米各地を転々とすることにしたため、ザ・フロウのLPと同様に、自宅にあった盤は捨てられてしまった。
ただ、彼が音楽の道を捨ててしまったわけではない。1974年、アリゾナ州トゥーソンに居を定めた彼は地元のミュージシャンとの交流を深め、またオーケストラを用いた作曲技法をさらに向上させていく。
1996年には自ら率いるバンドのビヨンド・ワーズを結成し、またレッド・ツェッペリンのカヴァー・バンドであるホール・ロッタ・ゼップで活動。さらにギターとオーケストラの共演コンサートを行っているピートだが、2000年にはドイツの激レア・サイケ再発レーベル“シャドックス・レコーズ”が『ザ・フロウのグレイテスト・ヒッツ』『クリスタルの想いの日へ』を復刻させたことで、その名が広く知られるようになった。
ただ、その“シャドックス”盤もなかなか見かけなくなってきた昨今、今回の日本盤リリースは“幻”のアーティストの全貌が明らかになる歴史的瞬間だ。知られざる音楽への扉が、ここに開かれる。
発売元:P-VINEレコーズ
発売日:2023年4月28日
価格:2,970円(税込)
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発売元:P-VINEレコーズ
発売日:2023年7月末~8月上旬予定
ピート・ファイン公式サイト(海外)
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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tagged: 音楽ライターの眼, ピート・ファイン, ザ・フロウ
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