Web音遊人(みゅーじん)

ジャック・ブルース

ジャック・ブルースのラジオ&TV出演時の6枚組アンソロジー・ボックスが発売

ジャック・ブルースのボックス・セット『Smiles And Grins: Broadcast Sessions 1970-2001』が2024年1月、海外でリリースされる。

1970年代を中心としたライヴ・アンソロジー。この時期のラジオ&TV出演時の音源はCD3枚組『Spirit(Live At The BBC 1971-1978)』(2008)が出ていたが、今回は同作の音源を網羅、さらに未収録だったセッション、そして映像を加えたCD4枚+ブルーレイ2枚の拡大盤だ。CDは既発音源もリマスタリングされており、音の輪郭がより明確になっている。

収録曲は秀逸なもの揃い

ジャックは1966年にエリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーとクリームを結成。『サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ』『ホワイト・ルーム』などの名曲とハードなサウンド、ライヴでのインプロヴィゼーションなどでロックに新しい波をもたらすが、わずか2年で解散している。このボックスはその後、ソロ・キャリアを始動させた彼の演奏を中心としたものだ。

初のソロ・アルバム『ソングス・フォー・ア・テイラー』(1969)が全英チャート6位というヒット。クリーム以来のジャック作曲/ピート・ブラウン作詞の黄金コンビが健在であることを証明する作品だった。翌年、彼は『シングス・ウィ・ライク』(1970)を発表。クリーム解散前の1968年夏に録音されたこのアルバムはジャックとジョン・マクラフリン、ディック・ヘクストール=スミス、ジョン・ハイズマンが火花を散らすインストゥルメンタル・ジャズ・アルバムで、そのテクニックを本領発揮している。さらに『ハーモニー・ロウ』(1971)は少なくないファンから最高傑作と呼ばれ、スティングも自らの『ザ・ブリッジ』(2021)にオマージュとして『ハーモニー・ロード』という曲を収録するなど、玄人筋からも評価の高い作品だ。

1970年代のジャックはソロ・アーティストとしての新たな旅立ちに燃えており、本ボックスでもクリーム時代のナンバーは『間違いそうだ Were Going Wrong』、そしてクリーム時代にプレイしていたアルバート・キングの『悪い星の下に』ぐらいだ。

(エリック・クラプトンがクリーム以前からレパートリーにしてきたフレディ・キングの『ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン』も演奏されている)

だが、この時期のライヴでプレイされている楽曲は秀逸なもの揃いだ。『キャン・ユー・フォロー?』『モーニング・ストーリー』『フォーク・ソング』『スマイルズ・アンド・グリンズ』などの起伏に富んだナンバー、生涯を通いてライヴ演奏を続けた“架空の西部劇テーマ” 『イマジナリー・ウェスタン』、コロシアムのカヴァーでも知られる『ロープ・ラダー・トゥ・ザ・ムーン』などはロック史において再び脚光を浴びてしかるべき名曲といえる。今回のボックスによって、多くの音楽リスナーに触れることになって欲しいものである。

ジャックと共演するミュージシャン達も実力者だ。ミック・テイラーやクリス・スペディングがギター、ジョン・マーシャルやサイモン・フィリップスがドラムス、グレアム・ボンドやトニー・ハイマスがキーボードなど、曲を生かしながらもバックに甘んじることなく、インパクトのあるプレイを聴かせている。

ジャックとジョン・ハイズマン、ジョン・サーマンのトリオによる1971年と1978年の『ジャズ・イン・ブリテン』でのテクニックと個性を兼ね備えたジャズ・インプロヴィゼーションも手に汗握るスリリングなものだ。

ジャック・ブルース

2枚のブルーレイには初ソフト化の映像が多数

まず1975年『オールド・グレイ・ウィッスル・テスト』のTVスタジオでのライヴは音声のみがCDにも収録されているが、前年にザ・ローリング・ストーンズを脱退したミック・テイラーを含むラインアップの演奏を見ることが出来る。

さらに本ボックスのハイライトのひとつといえるのが1970年、トニー・ウィリアムス・ライフタイムによるライヴ。この映像はドイツのTV番組『ビート・クラブ』のために撮影されたが未放映だったもので、2023年9月に突如『スマイルズ・アンド・グリンズ』『トゥ・ワールズ』がウェブ公開されてファンを驚喜させた。今回収録されているのは全16分のフル・ヴァージョンで、ジャックがトニー・ウィリアムス、ジョン・マクラフリン、ラリー・ヤングと繰り広げるバトルが凄まじい。

ここまで紹介したのはいずれも1970年代の音源/映像で、タイトルに“1970-2001”とあるのは何故?……と首を傾げるファンもいるだろう。それはブルーレイ2枚目に1981年の『オールド・グレイ・ウィッスル・テスト』、1982年の『B.A.・イン・ミュージック』、そして2001年の『レイター… ウィズ・ジュールズ・ホランド』出演時のライヴが収録されているからだ。1981年のビリー・コブハムやクレム・クレムスンをフィーチュアしたライヴでは満を持して『ホワイト・ルーム』『政治家』などクリームの曲を解禁。2001年は2曲のみながらヴァーノン・リードのギターとラテンのパーカッションがジャックの歌声&ベースとウネリを生み出しており、本ボックスに収録してくれたのは嬉しい限りだ。

CDブックレットは全64ページにジャックの主に1970年代の活動を綴ったバイオグラフィと当時の写真を詰め込んでおり、彼の軌跡を再検証することが出来る。

2014年10月25日に71歳で亡くなったジャックだが、その音楽は聴き継がれる。2023年後半には後期の名盤といわれる『シャドウズ・イン・ジ・エアー』(2001)と『モア・ジャック・ザン・ゴッド』(2003)がサブスクリプション解禁され、より多くのリスナーが彼の音楽に触れることが可能になった。2024年は10周忌ということでさらなる再発事業を行っていくと英“チェリー・レッド・レコーズ”は声明を出しており、どんな音源が世に出るか、これからも期待したい。

■アルバム『Smiles And Grins: Broadcast Sessions 1970-2001』

ジャック・ブルース

発売元:Cherry Red Records
発売日:2024年1月26日発売
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

小野リサさん

今月の音遊人

今月の音遊人:小野リサさん「ブラジルの人たちは、まさに『音で遊ぶ人』だと思います」

13481views

音楽ライターの眼

連載9[ジャズ事始め]日本にジャズの維新をもたらした井田一郎という志士

5690views

アコースティックギター「FG9」

楽器探訪 Anothertake

力強さと明瞭さが拓くアコースティックギターの新たな可能性

3607views

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

楽器のあれこれQ&A

楽器上達の心強い味方「サイレント™シリーズ」&「サイレントブラス™」

40414views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5698views

小林洋平

オトノ仕事人

感情や事象を音楽で描写し、映画の世界へと観る人を引き込む/フィルムコンポーザーの仕事

3521views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

11790views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9554views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12630views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7369views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

9005views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26976views

脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】脱力系(?)リコーダーグループ栗コーダーカルテットがクラリネットの体験レッスンに挑戦!

11316views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

14703views

音楽ライターの眼

人類がなぜギターという楽器を愛してきたのか、その理由を垣間見た/Acoustic Guitar Festival LIVE -Yamaha Acoustic Mind 2020 Ginza Special Vol.2-

5388views

誰でも自由に叩けて、皆と一緒に楽しめるのがドラムサークルの良さ/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

オトノ仕事人

リズムに乗せ人々を笑顔に導く/ドラムサークルファシリテーターの仕事(後編)

7441views

われら音遊人

われら音遊人:アンサンブル仲間が集う仲よしサークル

10370views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

24670views

水戸市民会館

ホール自慢を聞きましょう

茨城県最大の2,000席を有するホールを備えた、人と文化の交流拠点が誕生/水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

8413views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8820views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

7448views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11545views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26976views