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ジャック・ブルースのラジオ&TV出演時の6枚組アンソロジー・ボックスが発売
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2024.1.16
tagged: 音楽ライターの眼, ジャック・ブルース, Smiles And Grins: Broadcast Sessions 1970-2001
ジャック・ブルースのボックス・セット『Smiles And Grins: Broadcast Sessions 1970-2001』が2024年1月、海外でリリースされる。
1970年代を中心としたライヴ・アンソロジー。この時期のラジオ&TV出演時の音源はCD3枚組『Spirit(Live At The BBC 1971-1978)』(2008)が出ていたが、今回は同作の音源を網羅、さらに未収録だったセッション、そして映像を加えたCD4枚+ブルーレイ2枚の拡大盤だ。CDは既発音源もリマスタリングされており、音の輪郭がより明確になっている。
ジャックは1966年にエリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカーとクリームを結成。『サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ』『ホワイト・ルーム』などの名曲とハードなサウンド、ライヴでのインプロヴィゼーションなどでロックに新しい波をもたらすが、わずか2年で解散している。このボックスはその後、ソロ・キャリアを始動させた彼の演奏を中心としたものだ。
初のソロ・アルバム『ソングス・フォー・ア・テイラー』(1969)が全英チャート6位というヒット。クリーム以来のジャック作曲/ピート・ブラウン作詞の黄金コンビが健在であることを証明する作品だった。翌年、彼は『シングス・ウィ・ライク』(1970)を発表。クリーム解散前の1968年夏に録音されたこのアルバムはジャックとジョン・マクラフリン、ディック・ヘクストール=スミス、ジョン・ハイズマンが火花を散らすインストゥルメンタル・ジャズ・アルバムで、そのテクニックを本領発揮している。さらに『ハーモニー・ロウ』(1971)は少なくないファンから最高傑作と呼ばれ、スティングも自らの『ザ・ブリッジ』(2021)にオマージュとして『ハーモニー・ロード』という曲を収録するなど、玄人筋からも評価の高い作品だ。
1970年代のジャックはソロ・アーティストとしての新たな旅立ちに燃えており、本ボックスでもクリーム時代のナンバーは『間違いそうだ We‘re Going Wrong』、そしてクリーム時代にプレイしていたアルバート・キングの『悪い星の下に』ぐらいだ。
(エリック・クラプトンがクリーム以前からレパートリーにしてきたフレディ・キングの『ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン』も演奏されている)
だが、この時期のライヴでプレイされている楽曲は秀逸なもの揃いだ。『キャン・ユー・フォロー?』『モーニング・ストーリー』『フォーク・ソング』『スマイルズ・アンド・グリンズ』などの起伏に富んだナンバー、生涯を通いてライヴ演奏を続けた“架空の西部劇テーマ” 『イマジナリー・ウェスタン』、コロシアムのカヴァーでも知られる『ロープ・ラダー・トゥ・ザ・ムーン』などはロック史において再び脚光を浴びてしかるべき名曲といえる。今回のボックスによって、多くの音楽リスナーに触れることになって欲しいものである。
ジャックと共演するミュージシャン達も実力者だ。ミック・テイラーやクリス・スペディングがギター、ジョン・マーシャルやサイモン・フィリップスがドラムス、グレアム・ボンドやトニー・ハイマスがキーボードなど、曲を生かしながらもバックに甘んじることなく、インパクトのあるプレイを聴かせている。
ジャックとジョン・ハイズマン、ジョン・サーマンのトリオによる1971年と1978年の『ジャズ・イン・ブリテン』でのテクニックと個性を兼ね備えたジャズ・インプロヴィゼーションも手に汗握るスリリングなものだ。
まず1975年『オールド・グレイ・ウィッスル・テスト』のTVスタジオでのライヴは音声のみがCDにも収録されているが、前年にザ・ローリング・ストーンズを脱退したミック・テイラーを含むラインアップの演奏を見ることが出来る。
さらに本ボックスのハイライトのひとつといえるのが1970年、トニー・ウィリアムス・ライフタイムによるライヴ。この映像はドイツのTV番組『ビート・クラブ』のために撮影されたが未放映だったもので、2023年9月に突如『スマイルズ・アンド・グリンズ』『トゥ・ワールズ』がウェブ公開されてファンを驚喜させた。今回収録されているのは全16分のフル・ヴァージョンで、ジャックがトニー・ウィリアムス、ジョン・マクラフリン、ラリー・ヤングと繰り広げるバトルが凄まじい。
ここまで紹介したのはいずれも1970年代の音源/映像で、タイトルに“1970-2001”とあるのは何故?……と首を傾げるファンもいるだろう。それはブルーレイ2枚目に1981年の『オールド・グレイ・ウィッスル・テスト』、1982年の『B.A.・イン・ミュージック』、そして2001年の『レイター… ウィズ・ジュールズ・ホランド』出演時のライヴが収録されているからだ。1981年のビリー・コブハムやクレム・クレムスンをフィーチュアしたライヴでは満を持して『ホワイト・ルーム』『政治家』などクリームの曲を解禁。2001年は2曲のみながらヴァーノン・リードのギターとラテンのパーカッションがジャックの歌声&ベースとウネリを生み出しており、本ボックスに収録してくれたのは嬉しい限りだ。
CDブックレットは全64ページにジャックの主に1970年代の活動を綴ったバイオグラフィと当時の写真を詰め込んでおり、彼の軌跡を再検証することが出来る。
2014年10月25日に71歳で亡くなったジャックだが、その音楽は聴き継がれる。2023年後半には後期の名盤といわれる『シャドウズ・イン・ジ・エアー』(2001)と『モア・ジャック・ザン・ゴッド』(2003)がサブスクリプション解禁され、より多くのリスナーが彼の音楽に触れることが可能になった。2024年は10周忌ということでさらなる再発事業を行っていくと英“チェリー・レッド・レコーズ”は声明を出しており、どんな音源が世に出るか、これからも期待したい。
発売元:Cherry Red Records
発売日:2024年1月26日発売
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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