今月の音遊人
今月の音遊人:藤田真央さん「底辺にある和音の上に内声が乗り、そこにポーンとひとつの音を出す。その響きの融合が理想の音です」
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コンピュータを駆使して、ステージのサウンドをデザインする/ライブマニピュレーターの仕事
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2022.8.4
tagged: シンセサイザー, オトノ仕事人, ライブマニピュレーター
「マニピュレーター」は直訳すると「操る人」だが、ライブマニピュレーターとはライブの現場でバンドのサウンドに「打ち込み音」を足したり、音源を流したりする人のことで、単にマニピュレーターと呼ばれることも多い。あまり耳馴染みがない言葉かもしれないが、その場で生では出せない音を出すライブマニピュレーターは、現代のポップスシーンに欠かせない存在だ。キーボード/シンセサイザー奏者であり、第一線で活躍するライブマニピュレーターでもある守尾崇さんに話を伺った。
「もともとはシンセサイザーマニピュレーターという名称だったんです。初期のシンセサイザーはプリセット音源自体がないこともあり、欲しい音はつくるしかなかった。アレンジャーさんに『水中で鐘が鳴るような音が欲しい』などとオーダーされてシンセサイザーでそのイメージの音をつくる人をそう呼んでいました」
当初のマニピュレーターはレコーディングスタジオで音をつくるのが仕事だった。しかし、ライブでも盛んにシンセサイザーが使われるようになるにともない、ライブの現場で音をつくるマニピュレーターがライブマニピュレーターと呼ばれるようになった。
こうしたライブマニピュレーターの元祖というべき存在が、YMOの作品にも参加していた松武秀樹だ。松武秀樹はYMOのライブでも生演奏だけではできない音をコンピュータでつくり、そのサウンドを盛り上げていった。守尾さんは小学校高学年だった当時、YMOのサウンドに魅せられて自分でもシンセサイザーに触れ始めた。
「だから、僕はピアノ経験があったとかいうわけではなく、いきなりシンセサイザーを始めたんです。最初は全然弾けなくて、一生懸命鍵盤の練習をしました」
音楽とともに機械好きでもあった守尾さんはシンセサイザーの面白さにのめり込み、バンド活動に熱中。高校卒業後は音楽に専念しようと近所の楽器店やヤマハでアルバイトを始め、シンセサイザーのデモ演奏や開発にも参加するようになった。
「当時、浅倉大介君も僕と同じようなことをしていて、すごく仲良くなりました。それで小室哲哉さんがヤマハのシンセサイザー“EOS”をプロデュースした時も一緒に手伝いました」
これがきっかけとなり、守尾さんはTRFのツアーキーボーディストとして参加することになった。
その背景には、1990年代にシンセサイザーなどさまざまな音を多用したサウンドやダンスミュージックが主流になり、ライブでもシンセサイザーやデジタル機器の役割が非常に大きなものとなってきたことがあった。こうしたデジタルサウンドとともに、ステージでは生で出せない音をコンピュータでカバーするために、そのスペシャリストが求められるようになっていたのだ。
「TRFのときも、自分で演奏しながらコンピュータで他の楽器をMIDI(電子楽器の演奏データ転送規格)で演奏させたりしていましたから、当時からマニピュレートもしていたんです」
TRFツアーへの参加をきっかけにプロとして活動をスタートした守尾さんは、キーボード/シンセサイザー奏者を経て、作・編曲家としても活動。そして守尾さんがライブマニピュレーターとして2005年に初めて手がけたのが、日本における韓国発アーティストの先駆けでもあるシンガー、BoAのステージだった。
「ライブマニピュレーターにはエンジニア的な関わり方の人も多いんですが、僕はバンドマスターやアレンジと並行してライブマニピュレーターをやっています。パソコンでデータを編集しつつ、ダンサーのリクエストでダンスに合うアレンジをしたり、バンドメンバーに指示を出したり。ですから機械の知識より、バンドがわかるという側面が求められているのかもしれません」
バンドに精通していることはライブマニピュレーターとしての守尾さんの大きな武器だ。メンバーが演奏中に曲の進行を間違えて生音とコンピュータの音がずれてしまっても、瞬時にコンピュータの音を止めて、「サビに行こうとしているな」などと判断してタイミングを合わせて音出しを再開するなど、客席に気づかれずに軌道修正することができる。守尾さんがピンチを救ったライブも少なくないという。だから、ライブの現場だけでなく、リハーサルから音づくりに参加する。
「バンドの場合は特に、『この間奏はもう少し長くしよう』とか『ここはもっとストリングスを出して』とか、リハーサル中に変更が生じることが多いし、PAさん(音響スタッフ)と音のバランスの相談をしたり、場合によってはオープニングのサウンドをつくったり、途中で使うSE(効果音)をつくったりと、本当にいろいろな作業があるんです」
守尾さんはライブの現場に、常にノートパソコンを2台持ち込む。ノートパソコンを選ぶのは会場の電源が落ちてもバッテリーで作動できるからだ。
「パソコンとオーディオインターフェイス(マイクや楽器をパソコンにつなぐ機材)を2台同時に動かします。2台を同時にスタートさせて、1台をメインとして使いますが、トラブルが起きたら瞬時にサブに切り替えます」
最後に、これからのライブマニピュレーターはライブにおいてどういう存在になっていくのか、守尾さんの考えを聞いた。
「音楽をしっかり理解できている人は、優れたライブマニピュレーターになれると思います。今はDJがバンドの一員としてステージに出ているケースも多いですが、ライブマニピュレーターも同じようなことが増えていくのではないでしょうか」
Q.子どもの頃の夢は?
A.建築家になりたかったです。中学生の時になにかのきっかけでアントニ・ガウディを知り、すごいなと感銘をうけ、建築家の仕事はステキだなと思ったことがありました。小さい頃から機械とか、ものをつくることが好きでしたね。
小学校の終わり頃から音楽をやると決めて、初めはシンセサイザーのことはなにもわかっていなかったのですが、図書館でシンセサイザー関連の本を全部借りて読んだり、とにかくシンセのことしか考えていなかったです。
Q.どんな音楽が好きですか?
A.洋楽を聴くことが多いです。ダンスミュージックも好きですし、シンセサイザーを使った個性的な曲が出てくると惹かれます。楽器屋さんでバイトをしていた頃にビートルズを聴いて衝撃を受けました。最近あらためて当時の曲を聴いてみて、実験的だったり、ちょっと混沌とした感じの曲が好きなんだと気がつきました。
Q.趣味は何ですか?
A.音楽とシンセサイザー以外だと、クライミングですね。最近は全然行けてないですけど。あとは映画もけっこう観るのですが、特に『スター・ウォーズ』は大好きです。そこからの流れで、最近は『キャプテン・アメリカ』『アイアンマン」などのマーベル・コミックものも見ちゃいますね。
文/ 前田祥丈
photo/ 坂本ようこ
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