今月の音遊人
今月の音遊人:岡本真夜さん「親や友達に言えない思いも、ピアノに聴いてもらっていました」
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作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏――リチャード・グード
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2017.5.11
tagged: 音楽ライターの眼, クラシック, ピアニスト, シューマン, リリース, 作曲家, リチャード・グード, ブラームス
アメリカの実力派ピアニスト、リチャード・グードは、J.S.バッハからベートーヴェン、ショパン、シューマン、ブラームスまで多様なレパートリーを誇り、いずれの作品も心に響く滋味豊かなピアニズムを聴かせる人である。
彼は1992年に初来日し、ピアノ好きの心を一瞬にしてとらえ、1994年、1996年と相次いで来日。その後、なかなか来日することがなく、近年はアメリカに行かないと演奏を聴くことができない状態となっている。
ところが、ここに1981年に録音した「シューマン:フモレスケ、幻想曲ハ長調」と1986年に録音した「ブラームス:ピアノ小品集」が再リリースされた(ワーナー)。
シューマンはグードの温かく寛容な人間性が色濃く感じられる演奏。ファンタジーあふれ、物語性に富み、聴き手をシューマンの文学的で奥深い世界へと自然にいざなっていく。
一方、ブラームスのピアノ小品は、グードの真骨頂ともいうべき演奏で、「8つのピアノ小品」作品76、「7つの幻想曲」作品116、「4つのピアノ小品」作品119が、しみじみとゆったりと聴き手の心に響いてくる。作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏である。
グードは、以前インタビューでこう語っていた。
「私は音楽そのものが作曲家と自分の声のブレンドとなり、純粋かつ無意識な形で、聴いてくれる人たちに伝わるようなレベルに到達できれば最高です」
まさにグードの演奏は、自身を前面に押し出すことはなく、作曲家の神髄に一途に迫っていくもの。そこからグードの声と作曲家の声が見事に融合し、そのブレンドした美質に私たちは心打たれるのである。
なお、今回の再発売では、「J.S.バッハ:パルティータ第4、2&5番」と「J.S.バッハ:パルティータ第1、3&6番」も同時リリースされている。
グードは歴史に名を残す偉大なピアニスト、ミエチスラフ・ホルショフスキー、ルドルフ・ゼルキン、クラウディオ・アラウから多くの教えを得、アルトゥール・シュナーベルの子息カール・ウ-リッヒ・シュナーベルにも師事した。さらにパブロ・カザルスからもさまざまな面で学ぶことができたという。
そうしたすべての教えがグードの糧となり、情感豊かなピアニズムを生み、聴き手の涙腺を緩めていく。
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー