Web音遊人(みゅーじん)

作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏――リチャード・グード

作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏――リチャード・グード

アメリカの実力派ピアニスト、リチャード・グードは、J.S.バッハからベートーヴェン、ショパン、シューマン、ブラームスまで多様なレパートリーを誇り、いずれの作品も心に響く滋味豊かなピアニズムを聴かせる人である。

彼は1992年に初来日し、ピアノ好きの心を一瞬にしてとらえ、1994年、1996年と相次いで来日。その後、なかなか来日することがなく、近年はアメリカに行かないと演奏を聴くことができない状態となっている。

ところが、ここに1981年に録音した「シューマン:フモレスケ、幻想曲ハ長調」と1986年に録音した「ブラームス:ピアノ小品集」が再リリースされた(ワーナー)。

作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏――リチャード・グード

シューマンはグードの温かく寛容な人間性が色濃く感じられる演奏。ファンタジーあふれ、物語性に富み、聴き手をシューマンの文学的で奥深い世界へと自然にいざなっていく。

一方、ブラームスのピアノ小品は、グードの真骨頂ともいうべき演奏で、「8つのピアノ小品」作品76、「7つの幻想曲」作品116、「4つのピアノ小品」作品119が、しみじみとゆったりと聴き手の心に響いてくる。作曲家の意図に寄り添い、その真意に近づき、ひたすら作品の偉大さを表現する演奏である。

グードは、以前インタビューでこう語っていた。

「私は音楽そのものが作曲家と自分の声のブレンドとなり、純粋かつ無意識な形で、聴いてくれる人たちに伝わるようなレベルに到達できれば最高です」

まさにグードの演奏は、自身を前面に押し出すことはなく、作曲家の神髄に一途に迫っていくもの。そこからグードの声と作曲家の声が見事に融合し、そのブレンドした美質に私たちは心打たれるのである。

なお、今回の再発売では、「J.S.バッハ:パルティータ第4、2&5番」と「J.S.バッハ:パルティータ第1、3&6番」も同時リリースされている。

グードは歴史に名を残す偉大なピアニスト、ミエチスラフ・ホルショフスキー、ルドルフ・ゼルキン、クラウディオ・アラウから多くの教えを得、アルトゥール・シュナーベルの子息カール・ウ-リッヒ・シュナーベルにも師事した。さらにパブロ・カザルスからもさまざまな面で学ぶことができたという。

そうしたすべての教えがグードの糧となり、情感豊かなピアニズムを生み、聴き手の涙腺を緩めていく。

伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。 
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー

 

特集

八代亜紀さん

今月の音遊人

今月の音遊人:八代亜紀さん「人間だって動物だって、音楽がないと生きていけないと思います」

11767views

音楽ライターの眼

ザ・ローリング・ストーンズ×ゴダールの邂逅。映画『ワン・プラス・ワン』、チャーリー・ワッツ追悼上映

2814views

トランスアコースティックギター「TAG3 C」

楽器探訪 Anothertake

デジタル技術が広げるアコースティックギターの可能性──トランスアコースティックギター「TAG3 C」

3942views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

62205views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9036views

ホールのクラシック公演を企画して地域の文化に貢献する/音楽学芸員の仕事

オトノ仕事人

アーティストとお客様とをマッチングさせ、コンサートという形で幸福な時間を演出する/音楽学芸員の仕事

13848views

福岡市民ホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史をつなぎ、新しい感動をつくる。音楽・芸術文化の新たな拠点/福岡市民ホール

558views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8091views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

25148views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

2255views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

6161views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35002views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

14417views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9616views

音楽ライターの眼

連載44[ジャズ事始め]ジャズに貼られていたラベルをはがすことに成功した“ランドゥーガ”という自由空間

2136views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

8279views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

13116views

最新の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

楽器探訪 Anothertake

アコースティックギター専用の音響解析技術で低音域のパワフルな音量と響きを実現

11777views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

11463views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

6931views

エレキベース

楽器のあれこれQ&A

エレキベースを始める前に知りたい5つの基本

10017views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8748views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11813views