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今月の音遊人:菅野祐悟さん「音楽は、自分が美しいと思うものを作り上げるために必要なもの」
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ロックンロール創造主リトル・リチャードの音楽と人生を追うドキュメンタリー映画『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』が公開
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2023.12.20
tagged: 音楽ライターの眼, リトル・リチャード, リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング, LITTLE RICHARD:I AM EVERYTHING
ロックンロール創造主の1人として知られるリトル・リチャード(1932 – 2020)の人生とその音楽を追ったドキュメンタリー映画『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』が2024年3月に日本公開される。
1955年にデビューして『トゥッティ・フルッティ』、『のっぽのサリー』、『ルシール』、『グッド・ゴリー・ミス・モリー』などを大ヒットさせたリチャードはチャック・ベリーやボ・ディドリーと共にロックンロールの礎を築いたアーティストとして知られている。
彼から影響を受けたミュージシャンは多い。本作で言及されているだけでもエルヴィス・プレスリー、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイらが彼について語り、あるいはその曲を演奏している姿が映し出される。
それ以外にもレッド・ツェッペリンの『ロックン・ロール』イントロのドラム・フレーズが『キープ・ア・ノッキン』から触発されたものだったり、ディープ・パープルが『スピード・キング』で曲タイトルを多数引用するなど、彼は時代やスタイルを超えて幅広い層に対するインスピレーション源となっている。彼が“ロック”の名の付くあらゆる音楽に直接的あるいは間接的な影響を与えていると言って過言ではないだろう。
本作はそんな彼がジョージア州メイコンに生まれ育ち、世界へと羽ばたいていくさまを追っていく。リチャード本人が語るアーカイヴ映像はもちろん、彼の影響下から巣立っていったトップ・アーティスト達、音楽ビジネスの関係者、そして近所に住んでいた隣人、いとこなど少年時代の彼を知る関係者の談話まで収録されている。
「俺はロックンロールの創造主で建築家。俺こそがキング・オブ・ロックンロールだ!」と作中でも吠えているリチャードだが、必ずしも何もないところからその音楽が生まれたわけでなく、彼に影響を与えたルーツを掘り下げているのも興味深い。
ステージ上のシャウトや激しいムーヴはアメリカ南部の教会での礼拝でよく見られた光景で、シスター・ロゼッタ・サープもゴスペルと大衆音楽をクロスオーヴァーさせたド派手な音楽をプレイしていた。迫力を伴うエンターテイナーぶりではマ・レイニーやルイ・ジョーダンが引き合いに出されているし、おでこを出して髪をブワッと上げたポンパドール、圧倒的なステージ・パフォーマンスなどではビリー・ライトやエスケリータがルーツとして挙げられている。
そしてリチャードが初期のロックンローラーとして個性的だったのは、ゲイの黒人だったことだった。当時のアメリカ社会で偏見を持たれがちだったポジションにあった彼だが、それに屈することなく、従来の価値観をひっくり返してきた。
子供の頃から「ママみたくなりたい」と願っていた彼は下積み時代には女装ショー(いわゆるオカマショー)に出演、成功を収めてからもアイライナーなどメイクをしてステージに上がっていた。1950年代のアメリカではまだゲイであることに対して風当たりが強かったが、彼はそれを隠すことなく、むしろ恥じることなく前面に押し出してきた。ヒット曲『トゥッティ・フルッティ』の歌詞が元々同性愛の性行為をほのめかすもので、あまりにキワドイためレコーディング時に一部書き換えを余儀なくされたことは本作でも語られている。
彼のデビューした1955年はアメリカでアフリカ系の公民権運動が盛り上がりつつあった時期。彼は決して声高に黒人の権利を主張することはなく、徒党を組んでデモやパレードに参加することもなかった。だが彼のロックンロールはあらゆる性志向も肌の色も超えて支持され、差別や偏見の壁を崩してきたのだった。
『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』には彼のミュージシャンとしての才覚と共に、そのトークの魅力もふんだんにフィーチュアされている。自らが「ジョージア州メイコンの生んだキング・オブ・ロックンロール」であり、「すべてをさらけ出す let it all hang out」というモットーはインタビューなどで何度も繰り返されてきたし、TV出演中に司会者や観客を「シャラップ!」と遮る芸風はもはや“十八番”となっている。だがそれがパターン化・形骸化してしまうことがないのは、彼が心の奥底からそれを信じているからだった。
ポール・マッカートニー、ミック・ジャガー、トム・ジョーンズらが彼を語っているのに加えて、異彩を放っているのが映画監督のジョン・ウォーターズだ。彼は少年時代に『ルシール』のシングル・レコードを万引きして聴き耽り、自らの監督作品『ピンクフラミンゴ』(1972)で『女はそれを我慢出来ない』を使用して、1987年には対談したこともある。しばしばキャンプ(ゴテゴテ派手で安っぽい)な作風はリチャードからの影響を感じさせる。
本作はリチャードの内面も掘り下げ、キリスト教への目覚めと活動休止、ドラッグとの闘いなども描かれている。だが辛気くさくなってしまうことなく、スクリーンを彩るのは史上最高のロックンロール・ヒーローだ。
誕生から70年を超えて、今もなお隆盛を誇るロック・ミュージック。その礎石は、彼によって築かれた。ロックがどこに生まれ、どこに向かっていくのか。その答えは『リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング』の中にある。
2024年3月1日(金)から全国ロードショー
製作・監督:リサ・コルテス(『プレシャス』製作総指揮)
出演:リトル・リチャード、ミック・ジャガー、トム・ジョーンズ、ナイル・ロジャーズ、ノーナ・ヘンドリックス、ビリー・ポーター、ジョン・ウォーターズ
2023年/アメリカ/101分/カラー/ビスタ/5.1ch/DCP/
原題:LITTLE RICHARD:I AM EVERYTHING
字幕:堀上香/字幕監修:ピーター・バラカン
提供・配給:キングレコード little-richard.com
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト
文/ 山崎智之
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