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今月の音遊人:石若駿さん「音楽っていうのは、人の考えとか行動の表れみたいなものだと思う」
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名門アリゲイターから“現代ブルース・ギター四天王”登場/クリストーン“キングフィッシュ”イングラム、トロンゾ・キャノン、セルウィン・バーチウッド、クリス・ケイン
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2024.7.4
tagged: 音楽ライターの眼, クリストーン“キングフィッシュ”イングラム, トロンゾ・キャノン, セルウィン・バーチウッド, クリス・ケイン
ブルース・ギターが新たな脚光を浴びている。
19世紀末、アメリカ南部で生まれたとされるブルース音楽。さまざまな花形シンガーやプレイヤーが登場する中、ひときわ輝いていたのがギタリスト達だった。ロバート・ジョンソンからB.B.、アルバート、フレディの“3大キング”、スティーヴィ・レイ・ヴォーンなど、実力と人気を兼ね備えた“ギター・ヒーロー”の概念はロックにも受け継がれ、20世紀後半の音楽シーンをさらに刺激的なものにしていった。
21世紀ももうすぐ4分の1が終わり、ポピュラー音楽のかなりの割合をエレクトロニクスが占める時代。20世紀初頭にそうだったように、ギターは再び“伴奏の楽器”に戻ろうとしている。だが、そんな流れに逆らうように、エレクトリック・ブルース・ギタリストが台頭しているのだ。
このムーヴメントの中心となるのは、“アリゲイター・レコーズ”だ。1971年、シカゴでブルース・イグラウアによって設立されたこのレーベルは50年以上にわたってブルース界をリード、“ブルースの名門レーベル”と呼ばれて久しい。幅広くブルースを扱ってきた彼らだが、ハウンド・ドッグ・テイラー、アルバート・コリンズ、ジョニー・ウィンター、フェントン・ロビンソン、エルヴィン・ビショップ、ルーサー・アリスン、ロイ・ブキャナン、クラレンス“ゲイトマウス”ブラウンなど、錚々たる顔ぶれの名ギタリスト達が作品を発表してきた。
とはいえ、エルヴィンを除くといずれも故人。さすがの“アリゲイター”も人材不足か?……と思わせたが近年、凄腕ギタリスト達が次々とレーベルに参戦、充実したアルバムを発表している。クリストーン“キングフィッシュ”イングラム、トロンゾ・キャノン、セルウィン・バーチウッド、クリス・ケインの人呼んで“アリゲイター現代エレクトリック・ブルース・ギタリスト四天王”である。
キングフィッシュは現代ブルースで最も注目されているアーティストと呼んで過言でない、久々に登場したブルース界のスターだ。1999年生まれの25歳という若さ、ロバート・ジョンソンなどを輩出した“ブルースの聖地”ミシシッピ州クラークスデイル出身、個性的なヴィジュアルなど、キャラが立っているが、最大のセールスポイントはそのギター・プレイそのものだ。これまで2枚のスタジオ作品と1枚のライヴ作品を発表、すべてがグラミー賞ノミネートあるいは受賞している彼だが、感情をありったけ込めたリード・ギターは腰の入った、厚みのあるもの。特に『ライヴ・イン・ロンドン』で聴かれるステージ上でのプレイは息を呑む没入ぶりで、“ブルースの未来”と呼ばれるのも過大評価とは言い切れないだろう。そんなキングフィッシュの真の実力が明らかになるのが2024年7月のフジ・ロック・フェスティバルだ。2019年のデビュー時から筆者(山﨑)とのインタビューで「日本の音楽リスナーはブルースは好きかな?ぜひ行きたい!」と語っており、アーティストとファンの両方にとって夢が実現する初来日公演となる。
トロンゾ・キャノンは1968年生まれ、2019年には日本公演もあるベテランだ。シカゴで生まれ育った彼は単にトラディショナルなシカゴ・ブルースをコピーするのでなく、伝統に敬意を払いながら社会問題や個人的な経験まで、現在進行形のリアルな音楽としてのブルースをプレイしている。“アリゲイター”から3作目となる『シャット・アップ・アンド・プレイ!』(2024)ではそんなメッセージ、そして常にソウルフル、時にジミ・ヘンドリックス風にもなったりする、感情が迸るギターが聴く者の魂を揺さぶる。
セルウィン・バーチウッドは1985年にフロリダ州タンパ生まれ。やはり鋭角的に斬り込むリード・ギターが持ち味だ。トロンゾ同様現代社会の抱える諸問題を取り上げているが、トロンゾが随所で1960年代、公民権運動時代のソウルを匂わせるのに対し、よりモダンなエッジを感じさせる。最新作『エクソシスト』(2023)で聴かせるギターと歌声、そして曲調は、伝統を受け継ぎながら鮮度の高さで聴き入らせるものだ。その名前Birchwoodは白樺の木という意味だが、長身でアフロヘアという、まさに名は体を表すスタイルなのも面白い。
2024年のニュー・アルバム『グッド・インテンションズ・ゴーン・バッド』でのイキの良いギターを聴いて、凄い若手が出てきた!と驚くブルース・ファンもいるかも知れない。そして、クリス・ケインが1955年生まれの68歳と知ったら、その驚きはさらに大きなものとなるだろう。ホーンやオルガンをバックに従え、奔放に弾きまくる姿は、まるでギターを手にして嬉しくてたまらない少年のようだ。そんな一方で、アルバムでは“3大キング”が憑依する瞬間もあり、ベテランならではの熟練したプレイで唸らせてくれる。
いずれも個性豊かな凄腕ギタリストであるのと同時に、才覚に溢れるコンテンポラリーなソングライターでもある4人。ブルース・ギターのコアなファンから「ブルースってどんな音楽?」という初心者リスナーまで幅広く聴ける、彼らのようなアーティストが活動し続ける限り、ブルースが“骨董品”になってしまうことはない。ブルースはいつまでも生き続けることだろう。
発売元:P-VINE RECORDS
発売元:BSMF RECORDS
発売元:BSMF RECORDS
発売元:BSMF RECORDS
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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