今月の音遊人
今月の音遊人:曽根麻央さん 「音楽は、目に見えないからこそ、立体的なのだと思います」
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クラシックとフラメンコ、2人のトップランナーギタリストが紡ぐ500年のスペイン音楽史/鈴木大介×沖仁 ギターで辿るスペイン音楽の旅
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2024.11.6
クラシックとフラメンコ、それぞれのジャンルで日本ギター界をリードし、長年の盟友でもある鈴木大介と沖仁の豪華共演が2024年9月4日に銀座ヤマハホールで行われた。日本人に昔から愛されるスペイン音楽の歴史を紐解く約500年の音楽旅行を聴いた。
鈴木が曲目解説を兼ねて自ら綴ったライナーノートによると、スペインのオリエンタルな音楽は、8~13世紀にイスラム王朝に統治されたり、インド、エジプト、モロッコなどからこの地に移り住んだ人々から影響を受けたりした産物であること。また、16世紀に日本に初めてもたらされた西洋音楽がスペインのものだったことなどが、日本人に郷愁を感じさせるのではないかとのことだった。
読み終えてなるほどと納得しながら幕を開けた前半は、鈴木のソロ。
冒頭のソル『グラン・ソロ』を鈴木が人前で弾くのは学生時代のコンクール以来だったそうだが、この夜は彼自身によるダイナミックかつ繊細な編曲版で披露。
これに続いたのが、タレガ『アルハンブラの思い出』、アルベニス『カディス』、グラナドス『アンダルーサ』の3曲。鈴木の少年時代には三種の神器のような作曲家だったというこの3人の傑作を、彼は実に温かく豊かな歌心で歌い上げてみせる。また、技巧的にも隅々まで精確で、とりわけ『アルハンブラ~』で見せたトレモロは実に緻密で流麗だった。
その後、モレノ=トローバ『ノクトゥルノ』、トゥリーナ『セビリア風幻想曲』というスペインならではの情緒にあふれた2曲が優美に奏でられ、前半は終幕。これらの6作品は、いずれも19~20世紀に活躍した作曲家の手によるもので、ギター・ルネサンスと謳われたこの時代の豊穣さを改めて実感させられた。
後半は、鈴木と沖のデュオによる16〜18世紀の作品集。
ルネサンスに活躍したナルバエスの『皇帝の歌』は、『千々の悲しみ』というシャンソンを原曲に持つが、息の合ったデュオで聴くとしみじみとした旋律の味わいがより深みを増していた。
続くムルシア『ファンダンゴ』と、サンス『カナリオス』はバロック時代、ボッケリーニ『ファンダンゴ』はギャラント様式の作品。いずれも当時使われていたヒターノのかき鳴らしスタイルを取り入れた颯爽とした作風だが、陰、陽、中庸の異なる色合いが、トライアングルのように美しい一体感と立体性を形作っていたと思う。
そして後半はいよいよ佳境、鈴木が恩師から「100年前のフラメンコがどうであったかが保存されている」と教わったファリャ『はかなき人生』と、沖の名アレンジで知られるロドリーゴ『アランフエス』のラスト2曲へ。2人の集中力は最高潮に研ぎ澄まされ、高揚感と郷愁がみごとに調和しながら駆け抜けていく姿は本当に圧巻だった。
さらにアンコールでは、前日が誕生日だった沖を会場全体で祝うサプライズもあり、弾き手と聴き手が一体となった幸福に包まれていた。
渡辺謙太郎〔わたなべ・けんたろう〕
音楽ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業。音楽雑誌の編集を経て、2006年からフリー。『intoxicate』『シンフォニア』『ぴあ』などに執筆。また、世界最大級の音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」のクラシックソムリエ、書籍&CDのプロデュース、テレビ&ラジオ番組のアナリストなどとしても活動中。
文/ 渡辺謙太郎
photo/ Takako Miyachi
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tagged: ヤマハホール, 沖仁, 鈴木大介, 音楽ライターの眼
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