Web音遊人(みゅーじん)

B.B.キング

B.B.キング/“キング・オブ・ザ・ブルース”の世界への入門

B.B.キングが2015年5月14日、89歳で亡くなってから、10年が経とうとする。
19世紀の終わりからアメリカの黒人たちに歌われ、聴かれてきたブルースが世界に解き放たれ、国籍も人種も超えて愛される音楽になったのは、彼の貢献が大きい。同時に彼はエレクトリック・ギターのベンディングを多用するスクイーズ・スタイルとホーン・セクションをフィーチュアした“モダン・ブルース”を広めたパイオニアの1人でもあった。人は彼を“キング・オブ・ザ・ブルース”と呼んだが、それは彼の名前だけでなく、まさにブルースの“王者”だったのである。エリック・クラプトンからザ・ローリング・ストーンズ、スティーヴィ・レイ・ヴォーン、U2、ジョー・ボナマッサなどなど、彼から影響を受けたアーティストは枚挙にいとまがない。2020年代のブルース界の長老として尊敬されるバディ・ガイは筆者(山﨑)にこう語っていた。
「名前からして別格なんだ。私は“Buddy Guy=友達の奴”だけど、B.B.は“キング”だからね。彼のギターは1音ごとに感情が込められているけど、私はそれにおよばないから音数が多いんだ」
もちろんバディも達人の域に達するブルース・ギタリスト。その彼にそう言わせてしまうのがB.B.の凄さである。

入門編におすすめのアルバム

B.B.のアルバムを聴いてみよう!……と思い立った音楽ファンが通販サイトや配信アプリで検索してみたら、あまりの数にビックリするのではないか。1949年にシングル『ミス・マーサ・キング』でデビュー、2008年のアルバム『ワン・カインド・フェイヴァー』までコンスタントに作品を発表してきた彼ゆえ、その作品数は膨大なものとなる。“シングル・コンピレーション”と“公式アルバム”の定義にもよるが、正確なアルバムの数も判らない。1985年の『シックス・シルヴァー・ストリングス』が公式に50枚目のアルバムということになっているので、生涯で65枚ぐらいだろうか。
実際のところ、どのアルバムから聴いてもB.B.のハートのありったけを込めたギターとその歌声を味わうことができるため、なんとなくジャケットでピンときたものを聴いてみるのが運命の出会いというものだろう。
彼のライヴ・アルバムに名演が多いというのは多くのファンに一致する意見だ。中でもブルース史に冠たる名盤として知られるのが『ライヴ・アット・ザ・リーガル』(1965)だ。1964年11月21日、シカゴの“リーガル・シアター”で録音されたこのアルバムは『エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース』『スウィート・リトル・エンジェル』『ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット?』『ユー・アプセット・ミー・ベイビー』『ウォーク・アップ・ディス・モーニング』などのクラシックスが熱気溢れるギターで弾かれており、“定番”として聴き継がれるのも非常に納得がいく。
ただ、同じシカゴで収録された『ブルース・イズ・キング』(1967)の方が、ギターが冴えわたっていると主張するファンも少なくないし、日本のファンからすれば1971年の初来日公演を収めた『ライヴ・イン・ジャパン』(1971)にも1票を投じたいだろう。どれを聴いてもアタリなのだ。

アルバム『ライヴ・アット・ザ・リーガル』(1965)

アルバム『ライヴ・アット・ザ・リーガル』(1965)

ぜひ聴いておきたいスタジオ・アルバム

名曲が収録されているスタジオ・アルバムから聴いていくのもひとつの方法だ。『シンギン・ザ・ブルース』(1957)は過去にシングルとして発表された曲を集めたものだが、『ライヴ・アット・ザ・リーガル』に収録されたナンバーのスタジオ・テイク、初期を代表する『スリー・オクロック・ブルース』などを聴くことができる。
日本では古くから『ザ・ジャングル』(1967)が高評価を得てきた。確かに『エイント・ノーボディズ・ビジネス』『アイサイト・トゥ・ザ・ブラインド』『ファイヴ・ロング・イヤーズ』など他アーティストでも知られるナンバーのB.B.ヴァージョンが収録されており、彼のギタリストとしての才覚が際立って聴こえてくる。
1960年代後半イギリスのブルース・ブームに多大な影響をあたえた『ルシール』(1968)やヒット曲『ザ・スリル・イズゴーン』を収めた『コンプリート・ウェル』(1969)などもまた入門編として最適だ。
共演者からピックアップしていくのもまた一興だ。エリック・クラプトンとの共演アルバム『ライディング・ウィズ・ザ・キング』(2000)は全米トップ3という大ヒットを記録したし、『ブルース・サミット』(1993)にはバディ・ガイ、ロバート・クレイ、アルバート・コリンズなどのブルースメン、『デューシズ・ワイルド』(1997)ではザ・ローリング・ストーンズ、ウィリー・ネルソン、ドクター・ジョン、ディアンジェロなど多ジャンルのミュージシャンとのコラボレーションを行っている。さらにU2『魂の叫び Rattle And Hum』(1988)やゲイリー・ムーア『アフター・アワーズ』(1992)へのゲスト参加も好演揃いだ。
「どのアルバムから聴いていいか判らない……」と躊躇してしまう音楽リスナーがいるのは無理がないが、ハズレがないのがB.B.の作品だ。どこから入門しても、そのギターは暖かく迎えてくれるだろう。そしてそれは、ブルースの豊潤な世界への入口でもあるのだ。

■B.B.キング特設サイト

ユニバーサルミュージック合同会社
特設サイトはこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

facebook

twitter

特集

出口大地

今月の音遊人

今月の音遊人:出口大地さん「命を懸けて全力で取り組んだ先でこそ、純粋に音楽を楽しむ心を忘れてはいけない」

2967views

音楽ライターの眼

連載13[多様性とジャズ]デビューの危機に救いの手を差し伸べたアトランティックとの“見えない絆”

1691views

練習用のバイオリンとして進化する機能と、守り続けるデザイン

楽器探訪 Anothertake

進化する機能と、守り続けるデザイン

5555views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

12026views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

16155views

カッティング・エンジニア

オトノ仕事人

レコードの生命線である音溝を刻む専門家/カッティング・エンジニアの仕事

5329views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

6327views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9513views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20813views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

8768views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7135views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32381views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

12251views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15775views

音楽ライターの眼

【ジャズの“名盤”ってナンだ?】#047 コテコテのメロディに芸術性を与えた“下支え”の賜物~アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『モーニン』編

1404views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

わかりやすい言葉で、知られざる楽器の魅力を伝えたい/楽器博物館の学芸員の仕事(後編)

9210views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

1543views

楽器探訪 - ステージア「ELC-02」

楽器探訪 Anothertake

持ち運び可能なエレクトーン「ELC-02」、自由な発想でカジュアルに遊ぶ

32995views

人が集まり発信する交流の場として、地域活性化の原動力に/いわき芸術文化交流館アリオス

ホール自慢を聞きましょう

おでかけ?たんけん?ホール独自のプランで人々の厚い信頼を獲得/いわき芸術文化交流館アリオス

9176views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8929views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

60700views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

15231views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26877views