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今月の音遊人:大江千里さん「バッハのインベンションには、ポップスやジャズに通じる要素もある気がするんです」
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B.B.キング/“キング・オブ・ザ・ブルース”の世界への入門
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2025.1.10
tagged: 音楽ライターの眼, B.B.キング, キング・オブ・ザ・ブルース
B.B.キングが2015年5月14日、89歳で亡くなってから、10年が経とうとする。
19世紀の終わりからアメリカの黒人たちに歌われ、聴かれてきたブルースが世界に解き放たれ、国籍も人種も超えて愛される音楽になったのは、彼の貢献が大きい。同時に彼はエレクトリック・ギターのベンディングを多用するスクイーズ・スタイルとホーン・セクションをフィーチュアした“モダン・ブルース”を広めたパイオニアの1人でもあった。人は彼を“キング・オブ・ザ・ブルース”と呼んだが、それは彼の名前だけでなく、まさにブルースの“王者”だったのである。エリック・クラプトンからザ・ローリング・ストーンズ、スティーヴィ・レイ・ヴォーン、U2、ジョー・ボナマッサなどなど、彼から影響を受けたアーティストは枚挙にいとまがない。2020年代のブルース界の長老として尊敬されるバディ・ガイは筆者(山﨑)にこう語っていた。
「名前からして別格なんだ。私は“Buddy Guy=友達の奴”だけど、B.B.は“キング”だからね。彼のギターは1音ごとに感情が込められているけど、私はそれにおよばないから音数が多いんだ」
もちろんバディも達人の域に達するブルース・ギタリスト。その彼にそう言わせてしまうのがB.B.の凄さである。
B.B.のアルバムを聴いてみよう!……と思い立った音楽ファンが通販サイトや配信アプリで検索してみたら、あまりの数にビックリするのではないか。1949年にシングル『ミス・マーサ・キング』でデビュー、2008年のアルバム『ワン・カインド・フェイヴァー』までコンスタントに作品を発表してきた彼ゆえ、その作品数は膨大なものとなる。“シングル・コンピレーション”と“公式アルバム”の定義にもよるが、正確なアルバムの数も判らない。1985年の『シックス・シルヴァー・ストリングス』が公式に50枚目のアルバムということになっているので、生涯で65枚ぐらいだろうか。
実際のところ、どのアルバムから聴いてもB.B.のハートのありったけを込めたギターとその歌声を味わうことができるため、なんとなくジャケットでピンときたものを聴いてみるのが運命の出会いというものだろう。
彼のライヴ・アルバムに名演が多いというのは多くのファンに一致する意見だ。中でもブルース史に冠たる名盤として知られるのが『ライヴ・アット・ザ・リーガル』(1965)だ。1964年11月21日、シカゴの“リーガル・シアター”で録音されたこのアルバムは『エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース』『スウィート・リトル・エンジェル』『ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット?』『ユー・アプセット・ミー・ベイビー』『ウォーク・アップ・ディス・モーニング』などのクラシックスが熱気溢れるギターで弾かれており、“定番”として聴き継がれるのも非常に納得がいく。
ただ、同じシカゴで収録された『ブルース・イズ・キング』(1967)の方が、ギターが冴えわたっていると主張するファンも少なくないし、日本のファンからすれば1971年の初来日公演を収めた『ライヴ・イン・ジャパン』(1971)にも1票を投じたいだろう。どれを聴いてもアタリなのだ。
名曲が収録されているスタジオ・アルバムから聴いていくのもひとつの方法だ。『シンギン・ザ・ブルース』(1957)は過去にシングルとして発表された曲を集めたものだが、『ライヴ・アット・ザ・リーガル』に収録されたナンバーのスタジオ・テイク、初期を代表する『スリー・オクロック・ブルース』などを聴くことができる。
日本では古くから『ザ・ジャングル』(1967)が高評価を得てきた。確かに『エイント・ノーボディズ・ビジネス』『アイサイト・トゥ・ザ・ブラインド』『ファイヴ・ロング・イヤーズ』など他アーティストでも知られるナンバーのB.B.ヴァージョンが収録されており、彼のギタリストとしての才覚が際立って聴こえてくる。
1960年代後半イギリスのブルース・ブームに多大な影響をあたえた『ルシール』(1968)やヒット曲『ザ・スリル・イズゴーン』を収めた『コンプリート・ウェル』(1969)などもまた入門編として最適だ。
共演者からピックアップしていくのもまた一興だ。エリック・クラプトンとの共演アルバム『ライディング・ウィズ・ザ・キング』(2000)は全米トップ3という大ヒットを記録したし、『ブルース・サミット』(1993)にはバディ・ガイ、ロバート・クレイ、アルバート・コリンズなどのブルースメン、『デューシズ・ワイルド』(1997)ではザ・ローリング・ストーンズ、ウィリー・ネルソン、ドクター・ジョン、ディアンジェロなど多ジャンルのミュージシャンとのコラボレーションを行っている。さらにU2『魂の叫び Rattle And Hum』(1988)やゲイリー・ムーア『アフター・アワーズ』(1992)へのゲスト参加も好演揃いだ。
「どのアルバムから聴いていいか判らない……」と躊躇してしまう音楽リスナーがいるのは無理がないが、ハズレがないのがB.B.の作品だ。どこから入門しても、そのギターは暖かく迎えてくれるだろう。そしてそれは、ブルースの豊潤な世界への入口でもあるのだ。
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山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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